求職者のスタート地点を考える
「雇用機会の均等」ってなんだろう?

日本とその他の国々における雇用システムには大きな違いがあります。なかでも、スタート地点である雇用機会の仕組みの違いは、雇用機会均等のあり方も変化させます。この違いをきちんと認識することが、今後、日本国籍の有無を問わず外国にルーツを持つ方やLGBTQ+のマイノリティ労働者の雇用機会均等を考えるうえでのヒントになります。

そもそも雇用機会とはどのようなことを指し、それが均等であるとはどのような状態なのか。日本と諸外国、それぞれの仕組みについて解説します。
公開日:2023/07/14

日本と諸外国「雇用機会」の仕組みの違い

「雇用機会」とは、雇用システムの入り口のことです。企業にとっては募集・採用、求職者にとっては、応募・就職の機会をいいます。

そもそも、日本と日本以外の諸外国における雇用システムには大きな違いがあります。旧来の日本の雇用システムを「メンバーシップ型」、諸外国の雇用システムを「ジョブ型」といいます。とりわけ、その違いが明確なのが、募集・応募、採用・就職の雇用機会の仕組みです。

◆メンバーシップ型……日本

人に仕事をつける。所属部署や仕事内容が決まっていない段階で企業の正社員というメンバーシップを付与(内定)する仕組み。基本的に労働者は企業が決めた仕事を行い、ゼロベースからキャリアを積んでいく。企業の指示で配転や海外勤務が命じられ、キャリア形成は企業に委ねられる。

◆ジョブ型……諸外国

仕事に人をつける。仕事があるところに人をはめ込む仕組み。企業は「この仕事ができる人はいますか?」と仕事ありきで人材を募集し、「できます」という人が応募する。基本的に応募者は学校で勉強したことがそのまま職務になり、働くことでより専門性を深めていく。自身でキャリアを形成する。

メンバーシップ型とジョブ型「雇用機会の均等」の違い

雇用機会均等は1964年、アメリカにおいて性別や人種による差別を禁止する「公民権法」が制定されたことに始まります。世界的に男女差別や人種差別をなくそうという気運が高まっていきました。日本は1985年に「男女雇用機会均等法」を制定し、募集・採用・配置などについて、男女の均等な取り扱いが努力義務となりました。

その後、1997年に同法律が改正され、女性であることを理由とする差別の禁止と、男女の雇用機会均等が義務化されました。日本には、人種差別が社会的問題と意識されなかったため、男女の平等にのみ焦点が当てられてきました。

雇用機会の均等について論じられ、法律などの整備が行われてきたのは欧米をはじめ世界共通ですが、メンバーシップ型である日本とジョブ型である諸外国の公正・公平の定義は異なります。

◆メンバーシップ型の公正・公平と差別の基準

<公正・公平の基準>
  • 企業の正社員というメンバーシップを男女平等に与えること
<差別の基準>
  • 配置や管理職への昇進において男性を女性より優遇すること

◆ジョブ型の公正・公平と差別の基準

<公正・公平の基準>
  • 募集した仕事ができる人を採用すること
<差別の基準>
  • 「この仕事ができる人」という募集に対して、応募してきた優秀な女性・黒人よりも職務能力(当該仕事への適性)が劣っている男性・白人を優先して採用すること

    日本の男女雇用機会均等法では、「採用選考において男女で異なる扱いをすること」を禁じていますが、そもそも具体的な職務基準が明確でないがゆえに、入り口における差別が法的な問題となることはほとんどありません。

    一方、ジョブ型による公正・公平は明確で、「その仕事ができるか・できないか」だけです。あるポストについて募集があり、そこに男性と女性、白人と黒人が応募してきたとき、経歴や経験などを見る限り、明らかに女性や黒人のほうが優秀なのに、女性は育児などで仕事をきちんとやらない、黒人は嫌いといった理由で男性や白人を採用するのが差別です。

    ただし、女性や黒人を採用しないことがすべて差別ではありません。あくまで、個々の能力の問題であり、女性や黒人より男性や白人のほうが優秀であれば、後者を採用するのが平等です。

「日本風」の男女雇用機会均等は実現しつつある

日本は世界共通の男女平等という課題に対して、「日本風」の公正・公平を生み出しました。それが、企業の正社員というメンバーシップを男女平等に与えていくことであり、数の論理です。

実際に1997年の「男女雇用機会均等法」改正以降、企業の意識は大きく変化し、女性の採用率は格段に上がっていきました。この四半世紀の間にキャリアを積んだことで、男性と同じように管理職ポストに到達する女性が増え、多くの女性が活躍する時代になりました。「日本風」の男女の雇用機会均等は実現しつつあるといえるでしょう。

男女雇用機会均等法が施行される以前の雇用において、たしかに女性の地位はマイノリティだったといえます。しかし、社会全般において人口における数の割合で見れば、女性はマイノリティではありません。そのため、男女雇用機会均等という課題に対しては、数の論理で公正・公平を定義することが可能でした。これが、あくまでも「日本風」の男女雇用機会均等であることを正しく認識する必要があるでしょう。

本当の意味でのマイノリティの雇用機会均等を考える

男女における雇用機会均等は、人数・割合という論理で公正・公平を定義づけることができました。しかし、外国籍やLGBTQ+など、本当の意味でのマイノリティには、日本風の平等は通用しません。女性とは違い、そもそも人数が少ないため、日本人の数や性的マジョリティの数に近づけることはできないからです。

一方、ジョブ型の男女平等は「劣っている男性を優秀な女性より優遇しない」という明確なものです。このロジックは外国籍やLGBTQ+などマイノリティの労働者にも同様に当てはまります。

つまり、「劣っているマジョリティを、優秀なマイノリティより優遇しない」だけの話です。そもそも外国人にはメンバーシップ型の発想はありません。彼らにとっての公正・公平は、「あの人よりも自分のほうが仕事ができる」ということだけです。

ジョブ型では明らかな公正・公平が、日本のメンバーシップ型の雇用機会になると、定義があやふやになってしまいます。

だからといって、日本の企業も世界に合わせてジョブ型に変えればいいという単純な話ではありません。少なくとも現在の日本において、外国籍やLGBTQ+などマイノリティの労働者の雇用機会を企業単体で解決するのは非常に難しいといえるでしょう。新卒一括採用をやめる、教育制度を変えて即戦力となる人材を養成するといった、根本的な社会システムから見直す必要があるからです。

昨今、ジョブ型を取り入れようとしている企業は多く見られます。しかし、以上の理由から、ジョブ型の一面である賃金体系を年功序列型から成功報酬型に変える程度の導入になっているのが実情です。

現在、外国籍やLGBTQ+など、マイノリティの雇用機会均等について規定した法律ありません。今後、こういった人たちの雇用機会均等を考えるうえで重要なことは、日本の雇用システムや雇用機会均等は、他の国とは異なるということを正しく認識することです。それが、本当の意味での雇用機会均等を考えるヒントになるはずです。

※記事内で取り上げた法令は2023年4月時点のものです。
取材先
労働政策研究所 研修機構労働政策研究所長 
濱口桂一郎 さん
東京大学法学部卒業。労働省に入省し、さまざまな政策に携わる。その後、東京大学客員教授、労働政策研究所首席統括研究員を経て、現在は同研究所の所長を務める。日本と諸外国の雇用システムの違いについて「メンバーシップ型」「ジョブ型」という言葉を提議。

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