「無理しない」を徹底する
発達障害の特性を持つライター・遠藤光太の職業人生

ライターとして、取材記事やエッセイなどを執筆する遠藤光太さん。2022年には初の著書となる『僕は死なない子育てをする 発達障害と家族の物語』(創元社)を上梓しました。

遠藤さんが自身の発達障害に気が付いたのは社会人4年目のある日のこと。テレビ番組で発達障害に関する特集を観たことをきっかけに、疑うようになりました。その後、通っていた精神科で診断を受けます。

発達障害の診断を受けるまで、学校や職場ではどのような違和感があったのか。そして現在に至るまで、どのようなステップで仕事を得てきたのか。遠藤さんに執筆いただきました。
公開日:2023/07/07

Profile遠藤光太
1989年生まれ。フリーライター。発達障害の当事者。妻、子2人との4人暮らし。小学校時代には不登校を経験し、大学時代にはうつ症状を呈する。卒業後の社会人2年目に長期休職を経験。その後、退職、アルバイト、無職、障害者雇用での勤務を経て、2018年からライター業。ハフポスト日本版、withnewsなどのウェブメディアで取材記事執筆、エッセイ連載などを行う。著書に『僕は死なない子育てをする 発達障害と家族の物語』(創元社)がある。

何もかもうまくいかない

これからずっと、何もかもうまくいかない。

そう確信し、私は絶望していました。うつ病を発症し、新卒2年目の会社を休職。7カ月後に復職したものの、また休職。そして逃げるようにして退職しました。

会社を辞めてから、状況はもっとひどくなります。アルバイトや自営業を細々とやってみましたが、うまくいかないことの連続で、挫折。夫婦関係の悪化もあり、「死ぬしかない」と思っていました。

しかし、私に大きな転機が訪れます。発達障害の診断を受けたのです。

幼い頃から、周りとの違いを感じていました。最も古い記憶の中で、私は幼稚園の園庭と部屋を隔てるテラスにいます。下駄箱の前で「帰りたい」と泣いています。「みんなは楽しそうに歌を歌っているのに、なぜ自分はお部屋が怖くて、入れないんだろう」。

今振り返れば、発達障害の特性が影響していたのでしょう。聴覚過敏の特性があり、私は音が苦手です。幼稚園のクラスはうるさくて、私にとっては苦手な環境でした。また、コミュニケーションの仕方が特徴的です。自分のペースで過ごすことを好み、クラスの友達に合わせたリズムで遊ぶことに難がありました。幼稚園では登園拒否を繰り返し、小学校低学年では不登校になっていきました。

就職で、発達障害に由来する苦手さを露呈

そんな私がなんとか大人になり、就職すると、周りとの違いが露呈しました。

新卒社員として、率先して電話に出る。それだけで、大きなエネルギーを消費してしまいます。電話をかけた相手が不在で、折り返しを待っているとき、ずっと電話が気になってしまって、他の業務に集中できません。
電話だけでなく、オフィスにはいろいろな音が流れています。社員たちの打ち合わせや雑談、コピー機の音、キーボードを強めに叩く人のタイピング音、向こうの部署の人が流しているラジオ……。

コミュニケーションは同時並行で、タイムリーに行わなければなりません。上司から話を聞いて、メモする暇もないまま、別の誰かから話しかけられ、間髪入れずにかかってくる電話にまた出る。

上司が「すぐ出れる?」と言えば、すぐに作業を中断し、クライアントのもとへと出かけて行きます。私にとっては、大きなエネルギーを要することでした。

でも、そのときの私はまだ、発達障害の診断を受けていません。そうした苦手さを自覚していませんでした。「みんなも最初はこれぐらい苦労して、乗り越えたんだろう」「男ならもっと頑張らなきゃ」と思っていました。

発達障害の特性は生まれつきと言われていて、大きく変えられるものではありません。そのように臨機応変に対応し、音環境に耐え、凸凹を均そうと試みた結果、うつになったのでした。「普通」を目指すと、最終的にはうつになるのだーー。

そう学んで、ひとしきり絶望し、諦めていた頃に、発達障害の診断を受けました。それまでは徒手空拳で挑んで失敗し続けていたのが、診断によって、敵が明確になったのです。「凸凹な特性を理解し、対処すれば、どうにかなるかもしれない」と、希望を抱きました。

障害者雇用で仕事を始めたことが転機に

発達障害の診断を受けた後、私は次の転機を迎えました。障害者雇用で仕事を始めたのです。

障害者雇用は、国の制度です。障害者雇用促進法により、企業などは障害のある人を一定の比率以上に雇用するよう義務づけられています。2023年3月現在、民間企業の法定雇用率は2.3%です。つまり、43.5人に1人は障害のある人を雇用しなければなりません。なお、法定雇用率は今後、2026年度中に2.7%に引き上げられることが決まっています。

障害のある人とは、障害者手帳を交付されている人などを指します。私は、初めて休職した頃に申請を出し、障害者手帳を交付されていました。

障害者雇用は、一般の採用とは異なる選考ルートで受けることが多いです。企業によっては、障害のある人向けの特例子会社や部門などがあり、専門性のあるスタッフがいるケースもあります。私は、発達障害の診断を受け、自分の理解が進んだことをきっかけに、障害者雇用へと照準を合わせました。

就職活動を通して、自己理解がさらに深まっていきました。「音が苦手だから、あのとき上手くいかなかったんだ」「コミュニケーションのやり方に特徴があるから、燃費の悪い頑張り方をしてしまっていたんだ」と、過去を分析できるようになっていったのです。そして、サポートしてもらいたいことを言葉にして、伝えていきました。

「音環境に配慮していただければ、安定して働けると思います」
「臨機応変さが求められるコミュニケーションは避けられると、力を発揮しやすいです」
「上司の方と、体調について定期的にミーティングする機会をいただければ幸いです」

すっかり自信を失っていた私の目標は、まず仕事を得ること。「職種を絞らずに、ご縁があった会社にいこう」と決めていました。安定して勤務できるように。休職を繰り返さないように。そして内定をいただけた会社に、入社することにしました。与えられた業務は、それまでとはまったく畑違いの、経理の仕事でした。

「合理的な調整」によって、「普通」を乗り越える

結果的に、私は3年弱にわたり、安定した勤務を続けることができました。休職することは一度もありませんでした。簿記の資格を取得し、業務の幅を広げていくこともできました。

この会社に入るまでの私は、凸凹な部分を小さくして、「普通」に近づくように努力していました。しかし、障害者雇用では合理的配慮を受けることによって、「普通」を手放すことができたのです。

内閣府が合理的配慮の定義を以下のように示しています。

「障害のある人は、社会の中にあるバリアによって生活しづらい場合があります。
この法律では、役所や事業者に対して、障害のある人から、社会の中にあるバリアを取り除くために何らかの対応を必要としているとの意思が伝えられたときに、負担が重すぎない範囲で対応すること(事業者においては、対応に努めること)を求めています」
合理的配慮とは、「reasonable accommodation」の日本語訳です。「合理的な調整」とも訳せると思います。

例えば、私は電話の応対を免除してもらっていました。電話の応対が不可能なわけではありません。ただ、いつも電話を気にしていることによって、生産性が大幅に下がってしまうのです。それは、1社目の勤務経験でわかっていました。「不可能ではないものの、やるとものすごく疲れてしまうこと」を免除してもらうのは、少しデリケートな問題です。私はなるべく丁寧に説明し、「調整」を試みていきました。

上司が用意してくれた定期的な1on1ミーティングの場は、そうした「調整」を可能にしてくれました。

1on1の場では、雑談から業務のことまで、幅広く話します。時には、上司の愚痴を聞くことも。そして「今のデスクの位置は、音環境への苦手さが出やすいです」といったことも伝え、上司は対応してくださっていました。
合理的配慮を提供してもらいたい内容は、時期や能力とともに変化していきます。業務範囲が少しずつ広がっていき、負荷のかかる場面では、うつになるリスクも高まります。

私は最初、データ入力やファイリングなどの業務から始め、数年後には決算書の作成や税務申告、連結決算といった業務を任せてもらえるようになりました。

1on1でこまめに体調を報告し、柔軟に調整しながら進めることで、体調を崩さずに勤務することができたのです。

「仕事の進め方が違うだけで、受け入れ側が少し道を整備すれば人と同じかそれ以上のことができる。要はこっちの問題だと思った」

ある日の1on1で上司に言われ、感動した言葉です。「やり方」を合わせるのではなく、業務のゴールに向かって、自分なりの道で進んでいくーー。これを、心理的安全性のある環境でやらせてもらえたことが、私に自信を取り戻させてくれました。

「自分らしく働くこと」を支えてくれるのは

障害者雇用で就職活動をしていたときの希望年収は、240万円。でも、年収200万円の募集で、私は選考に落ちていました。ちなみに、前年の年収は、アルバイトと自営業を合わせておよそ170万円でした。

その頃、「こんなに頑張っているのに報われないのはなぜだろう」と、絶望していました。そして、実際に私はものすごく頑張っていたのです。しかし、それは自分に合わない頑張りでした。自分のかたちを変え、苦手なことを克服しようとして克服できないまま、空回りし続けていました。

凸凹している自分を矯正し、なるべく平らに、なるべく「普通」に、なるべく安定した状態にーー。

でも、それ自体に無理があって甚大なエネルギーを要してしまい、得意なことに力を発揮する前に力尽きてしまっていました。

一度、障害者雇用で合理的配慮を受けながら働くことができ、私の仕事観はがらりと変わりました。苦手なことは、それが得意な人にお願いすればいい。強みを磨くことに特化すればいい。ただし、苦手なことをやってくれている誰かに対する感謝とコミュニケーションを忘れずに。そうすれば、自分のかたちを変えずに、安定して働くことができたのです。

今は、障害者雇用から離れて、もともと好きだった「ものを書くこと」を仕事にしています。経理・会計に関する記事を書くことも多いです。またいつか、経理の仕事そのものにも関わりたいと考えています。

ときには理想を掲げず、与えられた仕事をまずはやってみること。周囲の人に助けてもらいながら、合理的な調整を試みること。感謝を伝えること。

そして、「無理しない」を徹底すること。

「何もかもうまくいかない」と絶望していた私の職業人生をリスタートさせてくれたのは、そうしたいくつかのスモールステップでした。
※記事内で取り上げた法令は2023年4月時点のものです。

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