人の心にフィルターはいらない。
「NO FILTER」を掲げるスターバックスのLGBTQ+支援

多様な人材に働きやすい環境を用意する活動の一環として、様々なLGBTQ+支援策に取り組むスターバックス。その根幹には、思い込みや偏見などのフィルターを排除し、誰もが自分らしくいられる場づくりを目指す「NO FILTER」の理念があります。

「NO FILTER」にこめた思いとは? またLGBTQ+支援策としてどんな取り組みをしているのか? 同社広報部Social Impactチームの林絢子さん、そして実際に社内制度を活用し、啓発活動に参加している店舗社員の赤川いづみさんに話をお聞きしました。

公開日:2023/06/16

世間に先駆けて実現した、LGBTQ+支援のための人事制度

――御社が掲げる「NO FILTER」という言葉には、どのような思いが込められているのでしょうか。
林:「NO FILTER」を打ち出したのは2018年です。「美味しいコーヒーを入れる際に必要不可欠なフィルターも、人と接するときには思い切って取り払いましょう」という、スターバックスらしくコーヒーになぞらえた表現を用いています。具体的に説明すると、人種や性別、年齢、障害、あるいは個人の価値観などにおいて、偏見を持たずにすべての人を受け入れ、一人ひとりが自分らしくいられる社会を目指しましょう、との意味が込められています。
店内に掲示している「NO FILTER」を紹介するコミュニティボード(提供:スターバックス)
ベースになっているのは、当社の「Our Mission and Values」に盛り込まれている、「お互いに心から認め合い、誰もが自分の居場所と感じられるような文化をつくります。」の一節です。スターバックスには、創業当時から多様性を当たり前のことだと考える風土があり、当社のインクルージョン&ダイバーシティを端的に伝えるために「NO FILTER」という言葉が作られたんです。
――1995年の設立時からすでに多様性に寛容な社会を目指していたからこそ、早期にLGBTQ+支援に取り組めたわけですね。
林:そうですね。LGBTQ+の方に向けた人事制度は2017年から導入しています。
――具体的にどのような人事制度があるのでしょうか。
林:代表的なものの一つが「同性パートナーシップ登録制度」です。日本では法律上、同性同士が婚姻関係を結ぶことはできない状況ですが、当社では登録したカップルは、同性でも婚姻と同等の関係と見なします。それにより、慶弔休暇や育児休暇、介護休暇などの取得が可能になります。また、有事の際の緊急連絡先に同性パートナーの方を登録できるなど、婚姻と同じ権利を享受できます。

もう一つが「性別適合手術のための特別休暇制度」です。こちらは名称の通りで、性別適合手術はどうしてもまとまった休暇が必要になりますから、これを有給休暇として取得できるようにしました。
――実際に社内でどのくらいの方が制度を活用されていますか?
林:「同性パートナーシップ登録制度」は、2023年4月時点で10組に適用されています。ただしこれは男女の婚姻と同じで、関係が解消されるケースもありますから、常に数字は増減しています。一方の「性別適合手術のための特別休暇制度」はまだ利用されていませんが、我々としてはこうした制度があること自体が重要だと考えています。実際に、この制度の存在が入社の決め手になったと話す社員もいます。

制度を導入する以前には、性別適合手術を受けるために退職せざるを得なかったスタッフもいました。先日、たまたまその方とお話しする機会があったのですが、いまこうして「性別適合手術のための特別休暇制度」が実現したことを、心から喜んでくださいました。我々もその反応がとても嬉しかったですね。

重要なのは表面的な制度ではなく、人材に対する組織の理念

――赤川さんはLGBTQ+当事者として「同性パートナーシップ登録制度」を利用されていますが、どのようなメリットを感じていますか。
赤川:私たちには2人の子どもがいるので、社宅が使えるのは非常に助かっています。同性カップルはなかなか部屋を貸してもらえないとよく耳にしますから、住居の心配が払拭されたのはありがたかったですね。
――働く側の視点から見て、こうした制度が整備されていることは、企業の強みになり得ますか?
赤川:それはその通りですが、表面的な制度が整えられているだけでは強みになりません。制度を作る前に、まずは組織として人材をどう考え、どのような価値を感じているかといった理念が重要でしょう。当社は創業時から根付いている理念に基づき、一つひとつの手厚い制度を整えているので、会社へのエンゲージメント向上につながっているのだと感じます。

林:その意味では、2021年にドレスコードを緩和したことも、多様な社員の立場に立った目線の表れと言えるのではないかと思います。これは髪の色や服装の選択肢をより広げたもので、デニムや一部の帽子を着用しながら、より自分らしいスタイルで働けるようにルールを改定しました。
自分らしくいられるドレスコード(提供:スターバックス)
林:もともと服装に厳しい会社ではありませんでしたが、それでもあらためてルールの改定を宣言することで、働きやすさをいっそう強く感じてもらえるはずだと考えました。実際にこれ以後、スカートを履いて仕事をする男性スタッフの姿も見られるようになりました。

全国に向けて、LGBTQ+への理解を促す様々な取り組みを実施

――スターバックスでは毎年、アライ(※LGBTQ+を理解し、支援する人)である意思を示す、レインボーカラーのタンブラーが販売されています。店舗での取り組みも活発ですね。
林:当社は47都道府県すべてに店舗がありますから、これをインフラとして生かすことができると考えています。たとえばタンブラーをはじめとしたレインボーカラーが混じり合ったグッズを販売したり、店頭のボードを通して全店舗でメッセージを発信したりしていくことで、LGBTQ+への理解促進の一助になればと思っています。
様々な色が混じり合う「NO FILTER」を表した商品(提供:スターバックス)
林:また、こうしたお客様に向けた取り組みだけでなく、全国の学校を対象に、多様性やLGBTQ+に関する出張授業を行う「レインボー学校プロジェクト」や、その授業内容を全従業員に共有する社内レクチャーなども2020年から実施しています。LGBTQ+の子どもの約7割がいじめを経験※1するなど、学校生活で困難を抱えている一方で、LGBTQ+について学んだことがある中学生はわずか11%※2と報告されています。スターバックスは、若者が多様な性について正しい知識を身に着け、安心して学校に通えるようになることを願って、こうした取り組みの導入を決めました。

赤川:私も昨年の11月に「レインボー学校プロジェクト」に参加し、ある中学校にお邪魔して、これまでの半生や境遇についてお話ししました。
――中学生の皆さんの反応はいかがでしたか?
赤川:「そういった課題を抱えている人がいることをなんとなく知ってはいた」とか「LGBTQ+という言葉はなんか聞いたことがある」といった感じで、私が思っていたほど驚かれることはありませんでした。むしろ私のほうに偏見があったのかもしれないと思ってしまうほど、LGBTQ+に関する知識を、皆さんちゃんとお持ちだったようです。それに加え、スターバックスという身近な会社に私のような当事者がいることを認識していただくことで、より実感を伴って理解してもらえたのではないかと思います。

林:参加した生徒からは、「自分が周りと違うことが嫌でダメなんだと思っていたが、自分らしく生きていこうと思えた」「LGBTQ+への嫌悪感がなくなった」との声も寄せられており、実施校では制服やヘアースタイルなど校則見直しの動きも報告されました。
レインボー学校プロジェクトの授業風景(提供:スターバックス)
――LGBTQ+当事者のスタッフにとっては、このプロジェクトが自身の在り方に何らかの変化をもたらしたのではないでしょうか。
林:そうですね。社内には比較的カミングアウトしやすい土壌があるにしても、対外的に隠していたことをオープンにするのは、勇気のいることだと思います。しかし、あえて堂々とレクチャーすることで、解放された感覚を得る人も少なくありません。プロジェクトに参加してくれた社員の中には、別人のように晴れやかな表情に変わり、ポジティブに働けるようになったという人もいるほどです。
――なるほど。さらなる課題や要望を抽出するために、何か取り組んでいることはありますか?
林:いまのところ形式張った仕組みは用意していませんが、いつでも誰でも、どのような内容でも相談できる環境を作ることを重視しています。同性パートナーシップ登録制度も、店舗社員の声から検討が始まり、また制度導入のプロジェクトメンバーにも当事者がいたことも大きかったと思います。

赤川:たしかに、何でも聞き入れてもらえるムードがあることは感じています。LGBTQ+に限らず、店舗運営の面でトラブルや困ったことがあったら、すぐに会社のほうに声を上げられる環境ですから。
――そうした環境がまさに、誰もが自分らしく働ける場所を育てていく源泉になっているわけですね。
林:誰もが自分らしく働ける場をつくるためには、一人ひとりが仕事仲間など周囲に対する想像力を膨らませなければなりません。それは、思いやりとも言い換えられますよね。相手がどういう状況で何を考えているのか、常に想像して思いやってあげられる環境を作れるように、これからも取り組みを進めていきたいと思います。

赤川:世の中を見渡せば、まだ当事者の声が社会全体に届いているとはいえない状況ですから、私たちの取り組みは社会の価値観を変える小さな一歩だと思います。だからこそ、一つひとつの取り組みを継続していかなければなりません。その先の未来で、そもそもこういう取り組み自体が不要になり、存在しなくなっていれば理想ではないでしょうか。

※1 出典:いのちリスペクト。ホワイトリボン・キャンペーン(2014)「LGBTの学校生活に関する実態調査(2013) 結果報告書」
※2 出典:ReBit(2019)「多様な性に関する授業がもたらす教育効果の調査報告」

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