「新卒の僕はカミングアウトできなかった」
鈴掛真が考えるLGBTQ+当事者が安心できる職場とは
昨今、LGBTQ+という言葉が浸透し、「多様性」が社会のキーワードになっています。しかし、LGBTQ+の認知度は上がったものの、差別意識や偏見がなくなったわけではありません。
LGBTQ+という言葉が独り歩きしているようにも思える現状を、当事者はどのように感じているのでしょうか。人々の意識や職場環境の変化について、10年前にゲイであることを公表した歌人の鈴掛真さんに、当事者の視点からお話いただきました。
LGBTQ+という言葉が独り歩きしているようにも思える現状を、当事者はどのように感じているのでしょうか。人々の意識や職場環境の変化について、10年前にゲイであることを公表した歌人の鈴掛真さんに、当事者の視点からお話いただきました。
公開日:2023/09/12

Profile
鈴掛 真
1986年生まれ。愛知県出身。新卒で広告会社に勤務後、短歌の歌人・作家としてデビュー。同時にゲイであることをカミングアウトしている。著書に、歌集『愛を歌え』(青土社)、エッセイ集『ゲイだけど質問ある?』(講談社)、フォトエッセイ『好きと言えたらよかったのに。』(大和出版)がある。
ここ数年、LGBTという言葉は意外と日本で受け入れられた
――2018年に刊行された著書『ゲイだけど質問ある?』で、当時まだ認知度が低かったLGBTやゲイの実態を解説していましたね。あれから5年ほどが経ち、世間の意識はどう変化したと思われますか?
ここ4〜5年の動きを見ていると、理解が進んで良いほうに変わってきていると感じています。LGBTが何の略語なのか、またそれでは括れないQや+(プラス)の存在を、今はより多くの方が知っているのかな、と。

「多様性」がここ数年の社会のキーワードになっていて、セクシュアリティが一つひとつ違って千差万別であることも受け入れられつつある。そういった認識が意外と日本に適応して、良かったなと思っています。
新宿二丁目に行かないゲイもいる
――L・G・B・T・Qはそれぞれ違う性のあり方であり、かつセクシュアルマイノリティの中にも異なる価値観を持った人がいますよね。たとえばゲイの人でもオープンにしていなかったり、レインボープライドが苦手だったりする人もいると聞きます。
ゲイの交流場として知られる新宿二丁目のお店に行かない人もいるし、そもそも自身のセクシュアリティを周囲に理解してもらおうと思っていない人もいます。セクシュアリティへの向き合い方は人それぞれなんです。僕は家族や友人にゲイであることをオープンにしていますが、僕のような人間はまだセクシャルマイノリティの中でも少数派だと思います。

――自身のセクシュアリティをオープンにすることで何か変化はありましたか。
これは僕の場合ですが、自分がゲイということをプライベートでもみんなに分かってもらったほうが、クローゼット(※)のときより人間関係が円滑になった気がします。隠し事がなくなり身軽になったので、ストレートの友人に恋愛の話や相談などもしやすくなりました。
(※)自らの性のあり方を自覚しているが、他の人に開示していない状態。押し入れに隠れている状態に例えて言う。
もちろん、セクシュアリティをオープンにしなくても人間関係を築ける人はいるので、「みんなもカミングアウトしたほうが良い」などと言いたいわけではありません。今でこそこうしてオープンリー・ゲイ(男性同性愛者のうち社会全体に自身の性的指向をカミングアウトしている人)としてメディアに出ていますが、僕も学生の頃は、よく知らない隣のクラスの人に「あの人ゲイなんだって」とセクシュアリティだけが知られるのはいやでしたから。
LGBTQ+当事者の中には、自分のセクシュアリティを前向きに捉えている人もいれば、人と違うことを肯定したくないと考えていたり、社会に向けて開示できないと思っていたりする人もいます。セクシュアリティの向き合い方って、本当に一人ひとり違うんです。
「周囲に理解を求めていなかった」 会社員時代にゲイをオープンにしなかった理由
――歌人としてデビューする前は、新卒で入社した広告会社に3年間勤めていました。会社員時代、鈴掛さんがゲイであることをオープンにしていなかったのはなぜですか?
理由は主に3つあるのですが、1つは、学生時代にオープンにしていなかった延長で、社会人になってもカミングアウトする必要性を感じていなかったからです。当時は周囲に理解してほしいという気持ちもなく、どうせ受け入れてもらえないと諦めていました。
もう1つは、その会社はあまり自分のことをオープンにできない雰囲気があったから。社員は年配の人が多くて、仕事の面でも22〜23歳の僕が発言したり主張したりするのは少し気が引けてしまい、セクシュアリティに限らずプライベートなこともあまり話さなかったですね。

でも、東京営業所に転勤になって上京したら、東京のオフィスはまたちょっと雰囲気が違ったんです。まだ多様性という言葉がなかった時代でしたが、当時から東京は物事にいろんな形があるという認識を持っている人が多いと感じました。
――セクシュアリティを隠していたことで、困ったことはありましたか?
「彼女はいるの?」とよく聞かれました。でも、同性のパートナーがいた時期でも「いません」と適当に返していました。
会社も学校もいろんな考えの人たちの寄せ集めなので、当然セクシュアリティに関して知識が乏しい人もいれば、偏見を持っている人や差別的な発言をする人もいます。でもそういうのって当事者からはなかなか指摘しにくい。周りの人が正しい知識を伝えて、間違った言動に対して「それは違うんじゃない?」と指摘してくれると、少しずつ会社の雰囲気も変わっていくんじゃないかと思います。
――そのほかに、LGBTQ+当事者と一緒に働く人が意識しておきたいことはありますか?
周囲にカミングアウトした人がいなくても、「この職場にもLGBTQ+当事者がいるかもしれない」と常に思っておくことが大事です。LGBTQ+当事者の割合を明らかにした様々な調査結果がウェブ上で見られるので、ぜひ調べてみてください。会社や学校の中にセクシュアルマイノリティがいるのは当たり前な状態で生活していると実感するはずです。
仮に、もし同僚からLGBTQ+当事者であることをカミングアウトされた場合は、その人が周囲のどの範囲までカミングアウトしているのかを認識しておくことが重要です。「誰に知られてもいいよ」という僕のような完全にオープンな人ではなく、信頼している一部の人だけにカミングアウトしているケースもあります。そういった場合は、うっかり当事者のセクシュアリティを他者に明かさないよう、職場でのコミュニケーションに注意を払いましょう。カミングアウトを受けたら、本人がどういう方針でいるのかをあらかじめ聞いておいたほうがいいと思います。
当事者のセクシュアリティを本人の了承を得ずに第三者へ暴露する行為は「アウティング」といって、とてもセンシティブな問題です。これはなにもセクシュアリティに限ったことではなく、自分のプライベートを無関係な人に言いふらされるのは、誰だっていやなものです。同じ人間として、ぜひ当たり前に思いやりを持って接していただきたいですね。
「差別意識を持たない」ではなく、意識を変える努力をすること
――LGBTQ+当事者が安心して働ける環境をつくるために、職場でできることは何だと思いますか?
人事部が積極的に規定を作って「我が社はこういう方針です。性差別、人種差別、セクシュアリティ差別的な発言や思想は許しません」と表明してくれれば、当事者も安心して働けるのかな、と。差別や偏見の問題は、一人ひとりが心がけるだけではなく会社単位で取り組んだほうがいいと思います。

知識を深めるために社内で勉強会を開くのもいいと思います。あとは、それこそ僕が書いた本なんかを会社の本棚に置いてもらったり(笑)。とにかくLGBTQ+についての情報に身近に触れられる機会を作っていく必要があります。
組織として何から始めればよいのかわからない場合は、セクシュアルマイノリティ当事者に意見を求めるというのが一番の近道です。例えばマーケティングにも言えることですが、ターゲット層の当事者が不在のままプロジェクトを進めた結果、当事者を励ますどころか追い詰めてしまったケースは往々にしてあります。よかれと思ってしたことが逆効果にならないように、当事者たちの声にしっかりと耳を傾けることが大切だと思います。
でも何度も言いますが、一括りにLGBTQ+と言っても人それぞれなので、当事者一人だけではなく、数人にヒアリングやアンケートを行い、その上で進めていく。もし、社内にカミングアウトしている人がいないのであれば、LGBTQ+の支援団体などに協力を求めてみるのがいいのではないでしょうか。
――LGBTQ+の知識が広まることで、職場にはどのような良い影響があると思いますか?
LGBTQ+にフレンドリーな環境であれば、「今まで黙っていたけどこの会社だったら言える」とカミングアウトする人が増えるかもしれませんし、それにより当事者が生きやすさを感じることもあるかもしれません。
なにより、自分らしくいられると、心の健康が良くなる。その結果、従業員の生産性が上がり、会社に利益をもたらす可能性だってある。LGBTQ+にフレンドリーな会社を作ることは、ひいては従業員一人ひとりが健やかに仕事ができる環境を作ることにつながり、どんな会社にとってもいい結果をもたらすと思うんです。
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