Owned Media Recruiting 実践企業事例:日本ガイシ株式会社/日本ガイシ株式会社 人材統括部 人事部 採用グループ マネージャー 小川保典氏

電線の導体を絶縁して固定するのに使われる「がいし」から発展し、独自のセラミック技術を生かしてエネルギー、 エコロジー、エレクトロニクスと幅広い事業領域で世界中に製品を供給している日本ガイシ株式会社(以下、日本ガイシ)。採用難の時代、名古屋にあるBtoBの企業に、日本全国から高い技術を持つ求職者が多く集まる。

情報発信を軸にした採用・広報活動を継続し、認知度を高めて人気企業となった日本ガイシの採用戦略を、人事部 採用グループ マネージャーの小川保典氏に聞いた。

日本ガイシ株式会社 人材統括部 人事部 採用グループ マネージャー 小川保典氏
小川保典氏。日本ガイシ株式会社 人材統括部 人事部 採用グループ マネージャー。2001年に日本ガイシへ新卒で入社してから10年間、エネルギーインフラ事業本部で海外営業や管理会計を担当。2011年に社内公募により人事部へ異動。2020年4月からは採用グループのマネージャーに就任。新卒採用、キャリア採用、契約・派遣社員の管理など採用の全領域を統括する。

高い選考ハードルを保ちつつ、人材を確保するには

高いレベルの人材確保について語る、小川氏

――日本ガイシでは、採用難といわれる昨今において、高いハードルでの採用を実現されているとお聞きしました。

小川:ええ、現在キャリア採用では年間50〜70人を採用していますが、応募者は1年で2000〜2500人ほどになります。人事部による書類選考を通過するのが600〜700人、さらに部門による書類選考でその半分ほどになります。面接までに行く人はおよそ10%。書類選考すらなかなか通らないのが現状です。

――求職者に求めるレベルはかなり高いのですね。

小川:当社は世界シェアが高い製品が多く利益率も高いので、ラクに働けるのではないかと思われがちなのですが、実際は逆です。世界シェアが高いということは全世界から一番レベルの高い仕事が求められるので、当然高い技術や知識が必要になります。

特に近年は、事業が伸びているのと、人手不足、働き方改革といった社会的な要請に応える形で、当社の求めるスキルを持つ技術職のキャリア採用に力を入れました。この5年間で350人弱採用と、当社としても特に多い水準でした。

優秀な人材は欲しいが、採用のハードルは高く保ちたい。そこをどう実現するかを考えています。

「100年前から、SDGs発想」――グローバルや社会貢献をアピール

日本ガイシのバリューについて語る、小川氏

――優秀な人材にアプローチするため、日本ガイシではどのようなバリューを発信されているのでしょうか。

小川:はい、「100年前から、 SDGs発想。」というコピーを使って企業理念を伝えることで、グローバルや社会へ貢献している企業であることを広くアピールしています。ホームページに限らず、ブランド広告のクリエイティブもSDGsを意識していますし、ニュースリリースもSDGsのどの目標に貢献しているのか最後にラベルを付けています。なかでも特に意識しているのは「環境貢献」です。実際、環境貢献製品の比率が高いことに将来性を感じて、応募される人が多いですね。

さらに、ただSDGsに貢献するだけでなく、それにより収入を得ることができている会社ということも忘れずにアピールしています。利益がしっかり出ているということは、特にキャリア採用において大きなポイントです。利益があることでサステイナブルにSDGsへ貢献でき、新しいことにチャレンジできたり、次の世代への投資ができたりすることにつながります。

BtoBの壁を超える「キャラクター」を活用した情報発信

日本ガイシのキャラクター「クロコくん」
本社エントランスには「クロコくん」の人形が来客者を迎えている。ホームページでは「クロコくんのヒミツ」コンテンツも見ることができる

――日本ガイシのような「BtoB企業」で専門性の高い企業は、まず「何をしている企業」なのかを知ってもらうまでのハードルが高いのではないかと感じています。いかにして潜在的な求職者にアプローチし、さきほどの「理念」や「事業内容」を伝えているのでしょうか。

小川:弊社のようなBtoB企業は消費者と直接コミュニケーションが取りづらいため、認知までのハードルはあります。そこで自社のキャラクター「クロコくん」を活用した施策を行っています。

――可愛らしいキャラクター「クロコくん」がコミカルに業務内容を説明するテレビCMは継続的に放送されていますね。

小川:ええ、やはりキャラクターの影響力は大きいと感じます。「日本ガイシ」という社名は知っていても、社名以上のことを知るまでにはハードルがあるようですが、クロコくんを使うと「社会の黒衣として見えないところで生活を支えている会社である」ということがすぐに伝わります。難しい説明をショートカットでき、企業理解が一歩早く進むのです。

実は、黒衣が初めて登場したのは1995年。当時はイラストではなく本物の役者の黒衣でした。「小さい頃に黒衣のCMを見たことある」と言って入社した人も多いですね。1999年に「黒衣くん」というネーミングでマスコット化し、その後も広告に使い続けてきましたが、2016年に今の大きな瞳を持つキャラクターに再定義し、採用のために積極的に使い始めたのです。

現在、全国ネットのテレビCMのほか、SNSも活用してタッチポイントを増やしています。2019年には世界的人気アニメのキャラクターとコラボした広告を期間限定で展開し、国内外で話題を呼ぶことができました。

広報と採用が連携し、採用のために情報発信を行う

「日本ガイシ」のホームページのキャプチャ
日本ガイシのホームページには、イラストなどを活用したわかりやすい解説コンテンツが多数掲載されている

――ホームページには「セラミックアカデミー」「日本ガイシの解決テクノロジー」など、セラミック製品や科学技術についてより詳しく解説するスペシャルコンテンツもありますね。家庭で気軽にできる実験を紹介する「NGKサイエンスサイト」もユニークです。

小川:実はこれらの企画はホームページだけでなく、科学雑誌「ニュートン」にも家庭でできる科学実験の記事広告として継続的に掲載しています。このような企画はテレビCMやキャラクターと同じく、日本ガイシを多くの人に知ってもらう役割を担っています。

それだけでなく採用の観点でも「幅広くいろいろなことができそうな会社」「モノづくりだけでなく子どもたちに向けた発信によって未来を作っていく会社」という印象を持ってもらえているようですね。

「技術」をキーワードに一貫性を持って発信した結果、10年前と比べても圧倒的に見られ方が変わったと思います。まず、日本ガイシという社名の認知度が上がりましたし、「なんとなく知っている」というところからさらに踏み込んだ、高い技術で社会を支えている会社ということを知っていただけていると実感しています。

これらの様々な情報発信を行っていることもあり、愛知県の会社ではありますが全国から人材を採用できる点も我々の強みだと考えています。

――一見すると「ブランド広告」ですが、これらの情報発信も採用につなげていらっしゃるのですね。

小川:ええ、私たちBtoB企業は、「知ってもらうこと」が採用の第一歩。社の方針として、人事と広報が連携して採用に軸足を置いた情報発信を行っています。

チャネルはテレビCM、新聞、Web媒体、学生や転職に関心がある人へのターゲッティング広告、SNS。そして関東の電車内のデジタルサイネージ、我々が関心を寄せている大学の最寄り駅の看板広告など、デジタル・リアル問いません。時期やチャネルなど、広報と人事がよく相談しながら進めています。

部署の役割としては、広報は日本ガイシを「知っている人を増やす」ことを担当。採用は求職者が当社をノックする直前から入社するまでを担当します。2つの部署の施策が合わさって初めて応募につながるのです。

経営層も積極的に採用にかかわる体制こそ重要

採用サイトについて語る、小川氏

――採用サイトに訪れた求職者にはどのようなコミュニケーションを取られていますか。

小川:2020年に入って新卒の採用サイトをリニューアルするとともに、キャリア採用のサイトも拡充しました。今、特に重視しているのは、世界的に広く供給している製品が多く、生産がストップすると影響が大きいという「供給責任」のアピールです。

また、当社はセラミックスの会社なので化学系の方によく見てもらえるのですが、事業はいろいろな分野にシフトしており、今は情報技術の経験がある方を求めているということも、キャリア採用サイトを含めて打ち出しています。

さらに、サイト内には企業のカルチャーを知ってもらうための「社員インタビュー」も複数掲載しているのですが、特にこだわっているのは「写真の表情」です。社内の雰囲気が一番出るところですし、パッと見の印象は大きいもの。会社の雰囲気や人をしっかり伝えたいので、やわらかく自然な表情を掲載するようにしています。

日本ガイシのキャリア採用ページのキャプチャ
キャリア採用ページでは転職者インタビュー。入社前と後のギャップや目指すキャリアプランなど、求職者にとって参考になる情報を掲載している

このように、全社で連携・協力しながら情報発信を行えている背景には、経営層が採用を重視し、社内でその意識を徹底しているからだと思います。

――歴史ある企業だと縦割り化が進んでおり、各部門で大きく予算が違うということもあるようです。広報や経営層との連携がうまくいくコツはどんなところになるとお考えですか。

私は2001年に入社し初任配属から10年間は事業部で海外営業や管理会計を担当しました。その後2011年に社内公募に手を挙げて今の人事部に異動しました。2020年4月からは採用グループ全体のマネージャーとして新卒、キャリアだけでなく契約社員や派遣社員も私が責任者として見ています。採用に関わって10年と長いので、様々な部署の部長、役員と話が直接でき、普段から自然な形でコミュニケーションが取れていると思います。

また、当社では面接も経営層が行うことが多々あります。もちろん求職者を見極める目的もありますが、それ以上に求職者の志望度を上げるためです。我々は働いている人みんなが魅力のある会社だと自負しています。経営層が直接話すことで、上辺だけでなく当社本来の姿をより深く伝えることができますし、現場社員だけでなく、経営層に至るまで一貫して魅力的な会社だと示すことができると考えています。

経営層と現場サイドの温度感が同じなので、採用としてはかなりやりやすいですね。

この他、私個人の活動となりますが、名古屋大学、愛知県立大学、同志社大学などにおいて非常勤講師も務めており、グローバルマニュファクチャリングや1・2年生向けのキャリア形成などについて講義を行っています。一見採用に関係ないようにも見えますが、こうした活動も企業価値を高める発信の一つと捉えて積極的に行っています。

――最後にコロナ禍における採用についてなど、今後の展望をお聞かせください。

小川:キャリア採用も新卒採用も、合同説明会を対面で行うことはなくなりました。応募者に配っていた資料をすべてデジタルへ移行し、問題なくできていると考えています。

ただ、実際に来て会社を見ていただくケースが少なくなってしまったことは残念です。社内の様子を我々が撮影して、会社の製品や施設、そこにいる人たちの表情、楽しそうに話しているところなど自然な姿を発信していきたいですね。これからの採用担当には動画編集の技術も求められると思っているので、今、まさにチャレンジしているところです。