採用サイトを作る時にやるべき6つのこと 株式会社ベイジ代表 枌谷力氏

顧客獲得を目的とするマーケティング型のウェブサイトを制作する時、いきなりウェブサイトの制作に着手することはありません。

顧客にインタビューをし、ユーザーテストをし、必要であればアクセス解析を行って、現状や顧客のニーズを把握します。その現状分析に基づき、マーケティング戦略と連動するしかるべきウェブ戦略を立て、その方針に従ってコンテンツを発案し、ウェブサイトを設計していきます。

このようなプロセスは採用サイトも全く同じです。顧客が求職者になるだけで、訪問者のニーズを掴み、それに応えられるコンテンツを発案し、上流である採用戦略と連動する採用サイトの戦略を立てるのが、本来の筋道です。

しかしながら実際には、ウェブ制作会社に声をかけ、ヒアリングしてもらった上で、コンテンツ案の企画書を出してもらい、その後はウェブ制作会社に任せて確認だけしていく、といった進め方が多いのではないでしょうか。

その進め方では、採用サイトの軸が定まらず、検討が深まるにつれて採用担当者や人事部長、あるいは経営者の間で判断が揺れ、明確な意図や方針が見えない、求職者に魅力が伝わりにくい採用サイトになりかねません。

また、採用サイトの機能を最大限引き出す採用サイト外の施策、たとえばオウンドメディアやSNSなども、採用サイトの検討と並行して進めておくべきでしょう。このようなことまで考えて採用サイトが作られているケースは、まだ少ないように思います。

そこでこの記事では、採用サイトを有効利用するためにも、採用サイトを作る前に、あるいはそれと同時に、やっておいた方がいい6つのことについて、私たちの経験も交えながら解説いたします。

枌谷力氏。株式会社ベイジ代表。新卒でNTTデータに入社、4年間の営業経験の後、デザイナーに転身。2007年にフリーランスとして独立。 2010年にウェブ制作株式会社ベイジを設立。2017年にはマーケティング会社ナイルのUX戦略顧問就任。BtoBマーケティング、採用マーケティング、UX/UIデザイン、ライティングを得意分野とし、BtoB企業を中心に数々のウェブサイトを手掛ける。 オウンドメディアとSNSにも精通し、自社のマーケティングおよび採用においても大きな成果を生み出している。


(1)社内アンケート

ウェブサイトを作るに当たって、想定される利用者の声を聴くことは鉄則と言えますが、採用サイトであれば、身近に代表的な利用者が存在します。それが自社の社員です。

ほとんどの社員は、元求職者です。特に入社3年以内の社員であれば、記憶も新しく、最近の求職者と心理や行動特性もさほど変わらず、実用性の高い示唆に富んだ意見が手に入る可能性があります。

このような社員の資産を採用サイトに活かすため、私たちが採用サイトのお手伝いをするときには、以下のような質問項目を設定したアンケートを必ず行っています。

Q1. 今の会社に応募する時、どのような手段を用いましたか?
Q2. 今の会社を最初に知ったのは何がきっかけですか?
Q3. 今の会社を最初に知った時の、率直な第一印象を教えてください。
Q4. 今の会社に応募しようと思った理由を教えてください。
Q5. 今の会社以外に候補だった企業と比べて、どこが良かったか教えてください。
Q6. 今の会社に決めた理由を教えてください。
Q7. 入社するまで気付かなかった今の会社の魅力を教えてください。
Q8. 転職するとき特に知りたかった情報を教えてください。(3つまで)
Q9. 今の会社に限らず、転職する時にその会社の採用サイトを見ましたか?
Q10. 良い採用サイトの条件をできるだけ具体的に教えてください。
Q11. 良くない採用サイトの条件をできるだけ具体的に教えてください。
Q12. 今の採用サイトには、どのような情報、機能、デザインがあると応募が増えると思いますか?

採用サイトはつい、企業側の視点、企業側のエゴが強く出てしまいがちですが、社内アンケートを事前に取ると、求職者の生の視点、生の声が把握できます。採用サイトを作るうえで大事な「バランス感覚」を掴むことができます。内定者ではなく、すでに入社している社員に対するアンケートですから、手厳しくも真に迫った意見が知れるはずです。

選択肢も含めたテンプレートは、以下よりダウンロードいただけます。よろしければご活用ください。リンクをクリックすると直接ダウンロードが始まります。

▼採用サイト制作用社内アンケート雛形(新卒中途

(2)ワークショップ

ある程度の規模の企業であれば、採用サイトのプロジェクトと言えども、採用担当や人事部だけでなく、各事業部や経営層を巻き込んで進めていくことになります。そんな時に起こりがちなのが、目に見える成果物ができた段階で関連部署に確認を出した時に、「なんでこんな作りになってるの?」などと、根本的なところで議論が紛糾してしまうことです。そういった事態を避けるためにも、組織間の認識共有、意思疎通の手段として、プロジェクト初期にワークショップを行うのはかなり有効です。

ワークショップとは、ファシリテーターを中心にして一つのテーマに対して皆でディスカッションし、アイデアを出し合うような問題解決法です。ホワイトボードなどに付箋紙を使ってアイデアを出し合い、それについて議論するというやり方が一般的によく行われており、デザイン思考を実践するための手法の一つとしても注目されています。テーマに制約はありませんが、採用サイトのワークショップであれば、「求める人物像」か「採用サイトのアイデア」がテーマとして最適でしょう。

ワークショップを行う利点は、大きく以下の2つに集約されます。

  1. 短時間で大量のアイデアを抽出できる
  2. 組織間の認識やビジョンの共有ができる

1の効果も絶大ですが、特に重要なのが2だと私は考えています。

日常の仕事のなかでは、異なる部署同士の人が集まって議論する機会がない会社がほとんどです。こういった人々が一堂に会し、今まで話し合ったことのない「求める人物像」や「採用サイトのアイデア」について意見を出し合うことは、共創感や当事者意識を作り出し、プロジェクトを良い方向に前進させることになります。

また、ワークショップによって関係者の間で前提が共有されていれば、途中段階の確認でも根本を覆すような議論や決定にはなりにくいでしょう。このようなメリットから私たちでは、採用サイトの検討を開始する段階で、ワークショップを実施することを推奨しています。

なお、社内にファシリテーターの適任者がいない場合は、社外の専門の会社にお願いするといいでしょう。組織間の軋轢やわだかまりがある場合、特定部署の社員が担当するとスムーズに進まないこともあるので、ファシリテーターは第三者にお願いした方がいいかもしれません。

(3)求める人物像の定義

株式会社ベイジ 枌谷力氏

「求める人物像」として、「リスクを恐れず挑戦する人」といったような、会社にとって都合がいい人物像を設定しているケースをよく見かけます。しかし、「そんな人はどこの会社だってほしいよ」といったような設定では、知名度がある人気企業でもない限り、採用サイト以前に採用活動全般がうまくいかないでしょう。

求める人物像は安易に考えるのではなく、組織の特性と人事計画も含めて、慎重にリアリティがあるものを定義すべきです。

たとえば以下のチャートは、縦軸に挑戦/堅実という好む態度、横軸に情緒/論理という好む思考特性を設定し、主な人物像の種類を4象限に分類したものです。

変革志向(挑戦志向且つ情緒性重視) 重視する価値:先進性、斬新さ、新鮮さ、刺激 好まないこと:ルーチンワーク、過度なリスク回避 得意分野:画期的なアイデアの発想、リスクを取った挑戦、トレンドのキャッチアップ 苦手分野:ルールやガイドラインに厳格であること、緻密で変化の少ない業務 知りたいこと:進歩的な会社か?刺激的な会社か?退屈しない会社か?出る杭を打たないか? 成果志向(挑戦志向且つ論理性重視) 重視する価値:成果、実績、実力、数字 好まないこと:曖昧な成果、ローリスクローリターン 得意分野:具体的な目標設定、目標達成のための創意工夫、数字で見える成果の追求(ゲーム的発想) 苦手分野:感性や情に訴えること、正論に反する柔軟な対応、成果よりも人間関係を重視する仕事 知りたいこと:業界No.1か?実績が豊富か?成長企業か?曖昧な評価はせず成果を認める社風か? 協調志向(堅実志向且つ情緒性重視) 重視する価値:調和、合意、満足度、笑顔 好まないこと:衝突、攻撃、リスクの高い意思決定 得意分野:関係者の調整、上司や部下への配慮、ムードメーカー的役割 苦手分野:合意のない意思決定、熱意で押し切ること、痛みを伴う革新的なアイデアの早出 知りたいこと:楽しい雰囲気か?人間的なつながりが深いか?アットホームか? 正確志向(堅実志向且つ論理性重視) 重視する価値:ルール厳守、正確無比、整理整頓 好まないこと:雑な仕事、ダブルスタンダード 得意分野:ルールの整備、プロセスの改善、法令やルールの遵守、品質向上 苦手分野:曖昧で感覚的な仕事、ルールやガイドラインのない業務、正解がないことに結論を出すこと 知りたいこと:制度や体制はしっかりしているか?清潔で整理された職場環境か?

求める人物像を「挑戦する人」に設定するというのは、挑戦思考×情緒性重視の象限に属する「変革思考」の人物を求める考えになりますが、このような人物だけで構成されるべき企業というのは、それほど多くないように思います。

多くの企業には、「変革思考」も「成果思考」も「協調志向」も「正確志向」も必要であり、適材適所の組織戦略であるべきです。そして採用戦略は、こういった組織戦略を実現するものであるべきです。このように考えていくと、「挑戦する人」にフォーカスした求める人物像には、ほとんどならないはずです。

求める人物像がリアリティを欠くと、その人物像を前提として作られる採用サイトもコンテンツも、当然ながらリアリティを失います。こう考えると、いかにリアリティある人物像を設定するかは、採用サイトの根幹を揺るがす重要なテーマと言えます。

求める人物像の設計に決まった手法はありませんが、さきほどご紹介したようなワークショップで決めていくのも一つです。しかしこれは、採用のみならず、組織戦略、さらに言えば事業戦略全体にも関わる重要なテーマであり、その意味では本来、経営レベルで考えるべきテーマとも言えるでしょう。

(4)採用戦略と求職者行動の整理

求める人物像を考えていくと、当然のように行きつくのが採用戦略の全体像です。求める人物像にリアリティがないと採用サイトにリアリティが備わらないように、採用戦略に戦略性がなければ、採用サイトは戦略的なものに仕上がりません。

たとえば、「採用サイトをリニューアルすることで、採用サイトからの応募を増やし、中途採用における転職エージェントや転職サイトへの支出を減らす」という計画がうまくいくかどうかは、採用戦略の全体像が描けていれば容易に答えが出ます。

採用サイトは基本的に、「その企業が採用を行っている」という認知がなければ訪問されず、機能しません。つまり、転職エージェントや転職サイトに認知を頼った採用戦略の場合、採用サイトをリニューアルしても、転職エージェントや転職サイトへの支出を減らすことはできません。正確に言えば、減らすことはできますが、減らせば減らすほど採用サイトへの流入数も減る可能性が高まります。採用戦略の全体像が見えていれば、こういうことが瞬時に判断できるでしょう。

一方で求職者の行動に目を向ければ、エントリー以降も求職活動は続いています。求職者の行動を解像度高く理解できていれば、面接の途中や内定が出た後にも採用サイトを訪問する可能性があることを自然と想像できるでしょう。このような発想があれば、エントリー以外の採用サイトの役割と価値も見出すことができるはずです。

採用戦略の全体像や求職者の行動を整理するのは様々な方法でできますが、私たちの会社ではジャーニーマップを加工したこのようなフレームワークをよく用います。

ジャーニーマップを加工したフレームワークのイメージ。接点・企業の狙い・求職者の行動・サイトの役割の5つの観点を、「期待(認知と興味喚起)」・「納得(自分自身との接続)」・「確信(入社覚悟の醸成)」の3ステップの流れに沿ってまとめている。

思い付きのコンテンツや寄せ集めたアイデアから採用サイトを作り始めるのではなく、このようなフレームワークを活用し、採用戦略全体、求職者の活動の全体を整理しておけば、アイデアの妥当性、適切な組み合わせ方、優先順位なども見えてくるでしょう。

(5)撮影

採用サイトを作るうえで撮影は不可欠です。時々イラストなどを用いた採用サイトも見かけますが、訪問者が一番知りたいのはリアルな社員や職場風景であり、イラストではその目的が達成できません。

実際、多くの採用サイトでは、カメラマンに撮影してもらった社員たちが主役の写真が使われており、その点において異論はないでしょう。

ただここでさらに注意したいのは、演出されすぎた、綺麗に加工されすぎた写真を撮ろうとしないことです。

繰り返しますが、求職者が採用サイトに求めているのは、華やかな演出ではなく、リアリティです。撮影写真においても、プロのカメラマンを使って最大限美しく撮影するのではなく、プロのカメラマンを使って実際の職場を等身大で再現するような撮影がなされるべきです。

被写体に特殊なメイクは必要ありません。不自然なポーズも不要です。日常的な仕事風景を、ただ切り取るだけでいいのです。ライティングが行き届いた「素晴らしすぎる写真」は広告のように見えてしまい、求職者はそこにリアリティの欠如を感じ取るかもしれません。

撮影を実施するタイミングは、採用のコンセプトが決まり、採用サイトの基本的なレイアウトが定まった段階がいいでしょう。モデルを使った広告と異なり、一般の社員が日常業務の合間を縫って撮影に協力することになるため、香盤表などを緻密に作り、無駄なく撮影ができるように手配しておくといいでしょう。また、社員が退職するとその写真は基本的に使えなくなるので、できるだけ多くの写真を撮っておく方がいいでしょう。

このような撮影ノウハウの詳しい内容は、私たちのブログでも詳細にまとめています。よろしければこちらもご覧ください。

ベイジのブログで紹介されている撮影ノウハウの詳細はこちらへ

(6)オウンドメディアやTwitterの運営

採用サイトは、過度な演出をせず、できるだけありのままの姿を伝えるために作られるべきですが、あくまで企業の公式サイトになるため、ありのままといっても限界はあるでしょう。コンテンツフォーマットはある程度決め打ちにならざるを得なくなりますし、更新性の低い常設コンテンツが主役となり、ニュース性のある更新型のコンテンツの掲載は、不可能ではありませんがやや難しくもなります。

そこで、採用サイトと並走して運用したいのが、オウンドメディアとTwitterです。

採用サイトがあくまで認知した後の興味の高まりを助ける場であるのに対して、オウンドメディアの記事やTwitterは、認知そのものを獲得するきっかけになりえます。特にエージェントやメディアへの支出を減らしたいと考えるのであれば、こういった自社で認知を獲得するチャネルの開拓は不可欠になってきます。

オウンドメディアの運営となると、運営が大変で手が回らないとなりがちですが、社内で流通しているコンテンツをそのまま公開してしまうなど運営の工夫をすれば、それほど負荷を上げずに更新することもできます。

たとえば私たちの会社で運営している「ベイジの日報」は、求職者がよく見ているオウンドメディアですが、社員が毎日書いている日報をそのまま流用し、毎週2つほどを更新しているので、さほど労力なく更新・運用ができています。

「ベイジの日報」のサイトキャプチャー
ベイジが運営しているオウンドメディアは、枌谷氏をはじめとして社員の方が発信しているTwitter からの流入も多い

また、クラスメソッド様が運営するオウンドメディア「Developers. IO」は、社員の裁量に任せた更新が行われています。このような社員に裁量を委ねたコミュニティ型の運用によって、月間で200万PV以上を誇る巨大オウンドメディアとなっており、エンジニア採用などで成果をあげているようです。

「Developers. IO」のサイトキャプチャー

SNSに関しては、特にユーザー数が多く拡散性が高いTwitterも活用できるといいでしょう。とはいえ、主に活用したいのは企業の公式アカウントではありません。発信者の顔が見えない公式アカウントは広告/広報的な役割は担うものの、求職者が求める「リアリティ」には直結しません。採用戦略として活用したいのは、社員一人ひとりの個人アカウントです。

たとえば当社では、現在約16人がTwitterを行っており、全体では約8万人のフォロワーがいます。こういった社員のTwitterアカウントが応募のキッカケになった、という求職者は非常に多く、2020年で約120名の「自然応募(転職サイトやエージェントに頼らない自社だけで集めた応募)」が発生しました。Twitterを行っていなければ、これだけの自然応募は実現できなかったでしょう。

ただし、社員のTwitterアカウントを採用戦略に組み込むには注意点もあります。それは、Twitterアカウントはあくまで個人のものであり、会社のものではない、という点です。会社としてはあくまで「推奨する」という立場となり、強制ではなく自主的な活動に委ねる、あるいは協力をお願いする、ということになります。言い換えれば、社員に自由に任せて姿をさらすことこそが、採用施策の一つになるとも言えるでしょう。

こういったオウンドメディアやTwitterは、成果が出るまでに時間がかかることが多いです。そのため、採用サイトの完成やリニューアルを待つのではなく、一日でも早く取り組みを開始するといいでしょう。