
オウンドメディアリクルーティングの主役は、ジョブディスクリプションです。単なる求人票とは違う魅力的なジョブディスクリプションを作ることが、一つひとつのポジションにマッチした人材の採用につながります。
「心理的報酬を求める人が増えてきた状況では、「働きごこち」の魅力因子に注目することが効果的な採用につながる」と語るのは、元「リクナビNEXT」編集長で、現在はルーセントドアーズ株式会社 代表取締役を務める黒田真行氏。本連載寄稿記事の最終回となる4回目の記事では、“より進化したジョブディスクリプション”に関する内容をお届けします。
職場や仕事に対して、どんな心理的な魅力因子のバリエーションがあるのか、また、具体的にそれをどのようにジョブディスクリプションに展開していくのかを解説します。求める人材に響くジョブディスクリプション作成のためにぜひ参考にしていただければ幸いです。
黒田 真行氏
ルーセントドアーズ株式会社 代表取締役。1988年リクルート入社。「リクナビNEXT」編集長、「リクルートエージェント」ネットマーケティング企画部長、リクルートドクターズキャリア取締役など、30年近く転職支援事業に関わる。日本初の35歳以上専門の転職支援サービス「Career Release40」を運営。2019年、中高年のキャリア相談プラットフォーム「Can Will」開設。著書に『転職に向いている人 転職してはいけない人』ほか。
外発的モチベーションの効用限界
日本の企業ではこれまで、「給料が上がること」「上司や仲間から評価されること」「昇進・昇格」などのモチベーション刺激策がマネジメント上のツールとして活用されてきました。これらは会社の仕組みと言う外部からの刺激によって生み出されるものとして、「外発的モチベーション」と呼ばれています。これらの刺激は、従業員のマインドに活力を生み出し、能力を引き出す重要なきっかけとして機能してきました。
その一方で外部からの刺激だけに依存することの限界も指摘され始めています。給料が上がった瞬間には当然、承認欲求が満たされ、「もっとがんばってさらに上を目指すぞ」という意欲の源泉になります。ですが、業界や会社自体の業績がひとたび停滞し始めたり、本人の成果が今一つ上がらないスランプに陥ったりした時などには給料が上がらないため、ダウンすることも考えられます。するとそのことが不満の種になり、仕事へのモチベーションを低下させる可能性が高まってしまいます。給料を上げて新しい刺激を与え続けなければ、いつまでも不満がくすぶり退職の原因にさえなってしまいます。
外部からの刺激は慣れてしまうと効果が希薄化し、さらに強い刺激を与えなければ満足できなくなってしまうのです。
また、人間には一般的に、他人から指示されたり、束縛されたりすることを嫌う性質があります。逆に、自分の自由意思で行動を決めることができると思えると、自己効力感を実感し、モチベーションが強まります。こうした達成感や充足感からの喜びは、自主的な「内発的モチベーション」と呼ばれています。自己決定感とも呼ばれるこの刺激は、強い当事者意識を生むので強靭なものになりやすい傾向があります。
内発的モチベーションから生まれた行動に対して外的報酬が与えられると、「好きだからやっている」という気持ちを阻害することになり、内発的モチベーションが弱まってしまうこともあるそうです。
しかし現実には、いくら仕事が好きだからと言って無給で働くわけにはいきません。また、最初は単に仕事として給料をもらっているから取り組み始めたことでも、仕事に慣れ親しむうちに楽しくなり、徐々に主体的に課題に取り組んでいくようになることもあります。そのなかで貢献感を感じながら成長していくというケースが一般的だと思います。
内発的モチベーションと外発的モチベーションをどうバランスよく発揮してもらえる人材を集め、成果につなげてもらえるかということも、ジョブディスクリプションの作成段階からスタートしています。
心理的報酬を形成する「働きごこち」の魅力因子とは
日本の採用支援サービスは、エンジニアやスペシャリストなどを除くと、基本的には「買い手市場」の構造を基本に発展してきました。結果的に、メディアが企業の求めるターゲットに対して分類され、大量の採用情報がわかりやすいインデックスで検索できるように求職者に提供され、その求人に手を挙げた応募者群のなかから企業が候補者をピックアップしていくという考え方です。
その際に提供されてきた情報コンテンツは、
- 企業が求める職種
- 企業が求める学歴・年齢
- 企業が求める経験・スキル
- 企業が与え得る給与・待遇
- 企業が与え得る予定のポジション
などの企業目線の情報が中心でした。
しかし時代の変化とともに、求職者側の選職行動が変容し、可視化された金銭的報酬や、経験・スキルだけではなく、内発的モチベーションを刺激する心理的報酬を重視する傾向が強まってきました。この心理的報酬は、これまでかなり大雑把に「やりがい」という言葉で表現されてきたものと似ていますが、個々人の価値観や志向を分析していくと、非常に多様なものであることがわかってきました。
少し古い調査にはなるが、2005年に行われた株式会社リクルート(現在の株式会社リクルートホールディングス)の分析によれば、個人が働くことに対して感じる「魅力因子」は、大きく分けて「仕事・職務についての魅力因子」と「組織・職場についての魅力因子」に分類され、それぞれ32項目、全64項目で構成されています。

大雑把に「仕事にやりがいがある」というだけではなく、さらに一歩踏み込んだ「働きごこちの魅力因子」を、職種別・配属組織別にジョブディスクリプションに反映することでさらに深いマッチングを目指すことが可能になります。
ハイパフォーマーの魅力因子からジョブディスクリプションを言語化
では、実際に、この魅力因子をどのようにジョブディスクリプションに反映させればいいのでしょうか。魅力因子を活用できる分野は幅広いのですが、ジョブディスクリプション作成において活用するには、社内で実際に好業績を生み出して活躍しているハイパフォーマーがカギになります。
ハイパフォーマーの定義は、業界や職種、企業の価値観ごとに違いがありますが、自社の各部門において定義づけを行った後に、そのモノサシで上位に該当するハイパフォーマーを抽出し、まずは属性や経験・スキルなど可視化されうる共通点を把握した上で、その人たちへのインタビューを実施します。
インタビューで得たい回答は大枠、以下の3つの観点です。
- 仕事や職場に対して、どのような魅力因子を求めているのか
- 仕事や職場において、どのような魅力因子を得られているのか
- その魅力因子は、どのような事実から生まれているのか
これらを明確化させることで、マッチングのために「心理的報酬」を想起させる情報として活用しうる材料を入手します。
ハイパフォーマーが求める魅力に対して充足度が高い項目は、まさにその仕事や職場の「働きごこち」の強み因子となり、それに紐づく事実をジョブディスクリプションに表記することで、よりマッチングの精度をベストに近づけることが可能になります。
逆に、ハイパフォーマーが求める魅力に対して、充足度が低い項目は、仕事や職場の改善すべきテーマとなりえます。
ほかにも、好業績社員がもともとは求めていなかったが仕事を通じて得られている項目は、意識していなかったが存在する魅力因子です。これは採用広報上の武器となるので、紐づく事実をもとに追加すべきコンテンツとして活用することも考えられます。
報酬や学歴、経験、スキルといった可視化しやすい情報だけではなく、これまで目に見えにくかった、仕事や職場で得られる「働きごこち」の魅力因子を言語化し、事実情報と紐づけていく演繹的な方法は、多くの企業で実績を生み出しています。
ぜひ進化系ジョブディスクリプションとして、豊かな情報でマッチングの精度向上を実現する参考にしていただければ幸いです。
この連載の記事一覧
- ジョブ型雇用の拡大とメンバーシップ型雇用の限界 ――ニューノーマルの時代に読み解く、ジョブディスクリプションの本質 vol.1
- ジョブ型雇用の拡大で企業に求められる変化、職務要件定義とジョブディスクリプション ――ニューノーマルの時代に読み解く、ジョブディスクリプションの本質 vol.2
- 採用を進化させるために不可欠な「経営戦略と人事戦略」の一体化とは ――ニューノーマルの時代に読み解く、ジョブディスクリプションの本質 vol.3
- ハイパフォーマーが感じる「働きごこち」を言語化した、進化系ジョブディスクリプションで訴求する――ニューノーマルの時代に読み解く、ジョブディスクリプションの本質 vol.4