こちらを向くオイシックス・ラ・大地 HR本部 人材企画室 人材スカウトセクション マネージャーの三浦孝文氏とオイシックス・ラ・大地 HR本部 人材企画室 人材スカウトセクション デザイナー採用責任者 兼 採用広報担当の小川佐智江氏

オイシックス株式会社が2017年10月に大地を守る会、2018年10月に、らでぃっしゅぼーや株式会社と経営統合して生まれたオイシックス・ラ・大地株式会社。オイシックス・ラ・大地としてミッションやバリューを求職者へ発信するに当たり、どのような課題を持っていたのか。また、食のEC化を牽引する存在として、エンジニアやデザイナーの獲得にどんな工夫をしているのか。オイシックス・ラ・大地 HR本部 人材企画室 人材スカウトセクション マネージャーの三浦孝文氏と、同社人材スカウトセクション デザイナー採用責任者 兼 採用広報担当の小川佐智江氏が、同社におけるオウンドメディアの活用法について語った。

こちらを向く三浦孝文氏と小川佐智江氏
小川 佐智江氏。東京農業大学栄養科学科を卒業後、予防医療普及プロジェクトのインターンを経て、業務用食品卸会社へ就職。2015年、日本酒好きが高じて応募した「ミス日本酒(Miss SAKE)」コンテストで優勝し、世界10カ国を巡り日本酒のPR活動を行う。2017年1月、オイシックス・ラ・大地に人事として入社。採用広報を中心に採用を担当。

三浦 孝文氏。関西学院大学を卒業後、新卒入社した株式会社D2Cで採用全般、Cookpad株式会社で採用と子会社人事機能立ち上げを経験後、現職。社外では「人事ごった煮会」という1300人を超える人事担当者が参加する人事コミュニティーを発起人として運営。さとなおオープンラボ7期生。Business Insider Japan主催「Game Changer 2019 Leadership」部門 グランプリ受賞。

ミッションやカルチャーを現場文脈に沿って発信し、ミスマッチを防ぐ

インタビューをうける三浦孝文氏と小川佐智江氏

――2年続けて2社との経営統合を行い大きな変化を迎えられたわけですが、採用情報を発信する上で核となるミッションやバリューは、どのように策定されたのでしょうか。

三浦:当社は「これからの食卓、これからの畑」を作っていくことをミッションとして掲げ、生産者様とお客様の間に立って両者をつなぎ、新たな価値を生み出し、提供していく事業を行っています。

食に対する根幹の理念は3社に共通する部分がありましたが、それぞれ会社の成り立ちや社風は様々でした。ただ、発表から正式な統合に至るまでに、当時のオイシックスと大地を守る会、そして、オイシックスドット大地と、らでぃっしゅぼーや、3社の社員同士、経営者同士でコミュニケーションを深め、ともに事業を育てながら時間をかけて準備してきました。現在、統合フェーズは完了し、その先の中期経営計画に向け、事業部ごとに戦略を立てて実行し、進化の時期に入っています。

採用チームとしては、「これからの食卓、これからの畑」の部分で新しい価値をお客様に届けられるサービスや商品を作っていくための人材を迎えようと、積極的に採用活動を行っています。現在は年間70〜80名の正社員採用を主に中途採用で行っています。この1〜2年はエンジニアやデザイナーなどスペシャリスト系人材や、第二新卒の採用を推し進めています。

――どのような価値観を持つ人材を採用したいと考えていますか。

三浦:これからの食卓、これからの畑を作っていくというミッションに対する共感は前提にあった上で、変化に対して柔軟であることが大切です。2年間で2回経営統合するなど、変化が激しい会社ですから、今後も様々な変化があると思います。面接では、アンラーニングできるかどうかに関連する質問をよく聞きます。成功体験に縛られると、「前の会社ではこうだった」と言ってしまいがちです。それが悪いわけではありませんが、変化の多い我々には合いません。昨日までの成功体験だったとしても常に学び直しながら、経験も必要に応じて活かしていけるよう、面接で双方が納得いく形になれるよう進めています。

――価値観のマッチング精度を上げるために、会社のカルチャーを伝えることについてはどう考えていますか。

小川:当社の仕事内容や社風ですと、外から見えるイメージと社内の実態はけっこうギャップがあると思っています。お客様の9割は女性で、そのうちの半分は小さいお子さんをお持ちのお母さんですし、オーガニックや生産者様の顔を前面に打ち出すことが多いので、柔らかいイメージが会社のブランドになっています。ただ、社員には若くて活躍しているメンバーも、将来起業したいという熱量を持って働いているメンバーもいます。

統合して社員が増えたこともあり、大企業感や安定感を求めて応募される方もいらっしゃいます。ただ、社風はベンチャー感が残ったままなのでミスマッチが起きてしまいます。採用サイトにあるトップページの映像は、まさしくそのギャップを埋めるため、実際働いているメンバーにいつものミーティングの様子を撮らせてもらいました。

note、ブログ、Pinterestを目的に沿って活用、職種や事業の具体的な情報を発信

インタビューをうける三浦孝文氏

――採用サイト、公式note、「Oisix ra daichi Creator’s Blog」、Pinterestによる「oisix ra daichi design farm」など、様々なメディアで情報発信しています。それぞれの違いはありますか。

三浦:noteは会社の未来や方向性について、事業、あるいは人を軸に光を当てながら発信しています。noteについては社内外の読み手に関係なくコンテンツとして純粋に価値あるものにしたいという思いがあります。求職者だけでなく、社内でも「うちの会社は面白そうなことをしているな」と思ってもらえるような記事を作っていくよう心がけています。それもあって、外部ライターで我々の大切な仲間でもある井手桂司さんに企画から加わってもらっています。井手さんはもともと当社の事業に関心や共感を持っていただいたこともあり、専門性を持つだけでなく熱量が高い。社内イベントや社員研修などにもどんどん参加してもらい、会社の中を知ってもらいながら一緒に社内を巻き込み、企画を作っています。

Creator’s Blogはエンジニア自身が主体的に行ったイベントや勉強会、ミートアップなどの内容を発信できる場として活用していて、Pinterestはデザイナーのポートフォリオとして、ブランドや商品、アートディレクターごとに見せています。また、ビジネスSNSであるWantedlyでは若手社員を軸に発信しています。

求めている人材像に関するメッセージは各コンテンツ内に入っていますが、さらに社員のインタビューでは、それぞれの職種や事業に踏み込んだ具体的な内容を打ち出すようにしています。たとえばEC事業のインタビュー記事であれば、具体的にEC事業部のミッションがどんなものか、どんな目的を持っているのか、売上目標はいくらか、お客様にどういう価値を提供するのか、今なにが課題か、といった情報が伝わる内容を意識しています。

――オウンドメディアで採用情報を発信することで、マッチング精度が上がった実感はありますか。

小川:具体的な数字はありませんが、応募いただいた方のなかに「noteを見ました」などと言っていただけることが最近肌感覚として増えているので、興味を深めてもらう材料として見てもらえていると思います。

三浦:たとえば求人ページのエントリー前に、関連する記事を読んでもらえるような機会を作ったり、エージェントさん経由の場合は、一次面接から二次面接に通過するとき「次の面接官に会うまでにこの記事を読んできてください」といった形で使ったりして、読んでもらえる機会を意図的に組み込んでいます。

オウンドメディアによる情報発信で、採用活動に社員を巻き込む

インタビューをうける三浦孝文氏と小川佐智江氏

――オウンドメディアでの情報発信は、他部署の社員を採用活動に巻き込んでいくことにも役立っていますか。

三浦:オウンドメディアを通して我々が伝えたいもの伝えていくことを2年半やってきて、この半年から1年近くの間に社内の採用に対する向き合い方が変わってきたなと感じています。記事を数本作るといった短期的な取り組みでは無理で、継続して溜めていくことが大切だと実感しています。

小川:社内から記事を見ましたという声も多くもらいますし、今度取り上げてほしいという声ももらうようになりました。noteできちんと記事を作っていくと、ここに載ることが誇らしいと思ってもらえることがあるのは新しい気付きでした。

三浦:noteに力を入れているのは、クリエイティブでおしゃれさがあるプラットホームだからで、社内からもちょっと違うものとして見えるようです。インタビュー記事を制作するなかで、社員も縦横斜めのコミュニケーションをする機会を持つようになります。その声をコンテンツ化していくなかで、彼らにも当事者意識が生まれてきます。最初の1年目に比べたら、社員の協力を得るのも圧倒的にやりやすくなっています。最近は経営側と採用の話をする機会も増えてきて、経営側からnoteの話をしてくれたりもします。

インタビューをうける小川佐智江氏

――社員の協力を得られるようになると、採用方法の幅も広がっていきそうですね。

小川:もともと経営陣も積極的に人に声をかけたりして、リファラル採用はやっていました。今はコンテンツを使って声をかけたり、SNSで知らせて知人が興味を持ってくれたりと新しい動きが生まれています。今年4月から9月までの採用活動でも、リファラル経由で入社してくれる人が全体の25%を超えてきました。その他は大まかに言うと、エージェント経由が35%、サイトからの直接応募が25%、スカウト経由が15%です。

三浦:人材が不足していると言われるエンジニア採用でも効果があります。この1年ほどでエンジニアがブログを書くだけでなく、外部イベントへの登壇など積極的に広報活動を行ってくれるようになり、基盤系のエンジニアの応募が増えました。「Creator’s Blog」によって応募の数が大きく増えたわけではありませんが、求職者の理解度や志望度が高まっていると思います。

小川:当社は有機野菜のイメージが強いので、「エンジニアがいるんですね」という声をいただくことが多かったのです。そういった意味でもエンジニアが情報発信することは意味があります。メディアだけでなく、勉強会やカンファレンスの情報発信をすることで、リファラル採用にもいい影響が出ているように思います。人事としては、エンジニアと一緒に情報発信やイベントなどの機会をどんどん作っていければと思います。

――ジョブディスクリプションも、現場社員と一緒に作成されているのでしょうか。

小川:ジョブディスクリプションに限らず、情報は具体的に出していきたいと考えているので、各職種の社員に業務内容を書いてもらったりヒアリングしたりしながら一緒に作っています。

最近は、今行っている業務や当社が求める人材像だけでなく、各現場でどういう課題があり、今後どういうチャレンジをしていきたいのかなど、ストーリー要素も伝えたいと考えています。さらに言うと、実際に働いている部長はどんな経験をした人か、各ポジションのキャリアイメージはどんなものか、こちらから提供できるものはなにか、といった求職者の役に立つ要素も求人情報のなかに今以上に落とし込んでいけたらと考えています。

これがベストというわけではなく、どうすればもっと理解が深まるか、興味を持ってもらえるか、面接で会ったときにお互い相思相愛の状態を作れるかを考えながら工夫し続けています。当社の社風や行動規範もあるのですが、採用活動においてもお客様の視点に立って設計していきたいと考えています。

伸びしろのある食ビジネスで勝負していくためにも、採用情報発信は必須

壁に描かれた淺井裕介氏の「八百万の物語」
絵描きの淺井裕介氏が描いた「八百万の物語」。オイシックス・ラ・大地と縁の深い農家から44種類の土を集めて描かれている。

――オウンドメディアによる採用情報の発信が大きな効果を上げていることが伝わってきましたが、今後のさらなる発展のために課題はありますか。

三浦:日本にいると食の課題を感じることはそこまで多くありませんが、グローバルで見ると、植物由来の肉の登場や、環境問題の深刻化など多くの変化が起きています。私たちはそういうことも含めて、食ビジネスにはまだまだ伸びしろがあると考えています。そもそも日本における食のEC化比率は約2.6%です。服が12〜13%で、書籍は30%を超えるなかで、食は90%以上伸びる余地があります。

統合によって売り上げが約640億円、社員も735人となり、ようやく1000億円、2000億円の勝負ができるスタートラインに立ったと考えています。数十億円規模のベンチャーはたくさん生まれていますが、その次を狙えるチャンスのある会社はそんなに多くないと思うので、そこを目指していきたいです。日本のマーケットに限らず、世界的に見ても食のEC単体で成功している会社がないなか、私たちはその先駆者になれるチャンスがあると思っています。

これからビジネスを拡大していくためにも、採用情報の発信によって求める人材に知ってもらったり、興味を深めてもらったりすることが欠かせません。採用サイトのTOPにある「ニュース」ページでは、自社コンテンツも外部メディアに掲載された当社関連のコンテンツも集約して、プラットフォームのように発信しています。それには狙いが2つあります。1つは求職者に向けてタイムリーに情報を届けることです。もう1つ重要なのは、社内に向けてのインターナルコミュニケーションです。メディアに載ることで、「うちの会社は事業を応援してくれる」「取材されて嬉しかった」「事業作りをがんばろう」と思ってもらいたいのです。採用広報は求職者採用のためだけでなく、社員の応援サイトでもあると、私たちは考えています。

小川:会社のいいところはふだん恥ずかしくて言いにくいものですが、インタビューされると引き出されて言語化できます。取材を受けた者だけでなく、私のようにインタビューをしているメンバーや記事を読んだ社内のメンバーにも、あらためて会社の魅力を感じてもらうきっかけになります。そういった意味でもオウンドメディアでのインタビュー記事は続けていきたいと思っています。

――会社としての哲学や、めざしたいビジョンを持っているのは強いですね。

小川:そう思います。執行役員もよく言うのですが、事業を広げることに罪悪感がないというのは大きいです。食べて心から美味しく、素敵だと思えるものを広げていくことを、社員みんなが違和感なくやっています。カルチャーが全然違う会社であったにも関わらず、統合がスムーズに完了した理由の一つとしては、丁寧なコミュニケーションを心がけたこと以外にも、根本として持っている思いがみんな一緒だったことが大きかったと思います。採用広報もまだまだこれからなので、社員と一緒にいろいろと生み出していきたいと思います。