
ソーシャル経済メディア『NewsPicks』や企業・業界情報プラットフォーム『SPEEDA』などのサービスを提供している株式会社ユーザベース。2つの経済情報プラットフォームを軸に成長し、創業から10年以上経って社員数も大幅に増えた。さらに、グローバル展開も推し進めている。その過程で「経済情報で、世界を変える」というミッションを掲げ、共感、そして体現できる人材を迎え入れてきた。カルチャーチームHead of Culture & Talentの西野雄介氏に、オウンドメディアによるミッションやカルチャーの発信、メッセージを明確に打ち出したジョブディスクリプションなど、ユーザベースが進める採用戦略について聞いた。
オウンドメディアを中心に会社のミッションとカルチャーを発信

――採用難と言われる今、ユーザベースは自社の採用サイトや運営するオウンドメディア「UB Journal」でミッションやバリューを積極的に打ち出されています。そうした姿勢は採用活動において、どういった影響をもたらしているのでしょうか。
わかりやすいところで言うと、たくさんの方がオウンドメディア「UB Journal」(※1)を通して応募して来てくださるという効果が挙げられます。事業に対する関心・共感のほかに、ミッションやバリューを見て「この会社で働きたい」という思いを持って応募してくださる方の率が高い印象があります。
※1「挑戦する人を後押しする」をコンセプトに、社内のブランディングチームが制作しているコーポレートメディアで、採用のための情報発信も行っている
たとえば他社のメディアに載った経営メンバーのインタビューを読んでミッションに共感して来てくださる方もいます。また、「UB Journal」では、事業を紹介するだけでなく、働くママやパパなど社員の素顔や自由度の高い福利厚生をトピックとして記事化しており、弊社のカルチャーや働いている社員に魅力を感じて応募してくださる方もいます。
――ユーザベースは「経済情報で、世界を変える」というミッションがあり、その下にバリューである「7つのルール」という行動指針を設けています。UB Journalの記事では、社員がどのようにバリューを体現しているのか読み取れます。応募してくる方々は、こうした具体的な行動指針まで理解してエントリーされているのでしょうか。
おっしゃるように、弊社では社員がお互いの力を結集するために、共通の価値観として以下の「7つのルール」を設けています。
- 自由主義で行こう
- 創造性がなければ意味がない
- ユーザーの理想から始める
- スピードで驚かす
- 迷ったら挑戦する道を選ぶ
- 渦中の友を助ける
- 異能は才能
採用面接の場で感じるのは、「7つのルール」に限らず、UB Journalなどを非常に読み込まれて来ている方が多いことです。企業研究をされているだけ、面接におけるディスカッションの中身もより深くなります。一方で、UB Journalに載っている情報は単純に面白いので、記事を読んでいるうちに弊社についての理解が自然と深まっていく側面もあるかもしれません。特に、現場のリアルを伝えたり、社内のいろんなところにある見えない才能を見える化していったりすることを制作チームは意識しています。
ミッション・バリューを理解した現場の社員が採用プロセスもリード

――ミッションやバリューをオウンドメディアで発信することは、社員にも影響を与えているのでしょうか?
「7つのルール」は主文、副文(※2)ともに社内のいろいろなコミュニケーションの場で飛び交っています。大きな意思決定の場でも、小さなプロセスを改善する意思決定でも、「7つのルール」を軸として「それはユーザベースらしいよね」「これはユーザベースらしくないからもう少し議論をしよう」といったコミュニケーションをしながら答えを出しています。
※2 上記の7つあるルールが主文で、それぞれに解説を加えた副文が添えられている
たとえば「異能は才能」の副文には、「フェアでオープンなコミュニケーションを徹底する」と書いてあります。「オープンコミュニケーション」は会社でよく耳にする言葉で、言い換えると「モヤモヤを心のなかに持ったまま前に進むのはやめよう」ということです。ただ、社員は同じ価値観を持っているとはいえ、みんな違う才能を持っていて、それぞれ多様な考え方があります。時には真摯にぶつかりあった結果、齟齬が生まれたり、相手を傷つけてしまったりすることがあるかもしれません。そのため、社内でも機会があるたびにワークショップを開いて、「オープンコミュニケーションとは何か」について話し合っていますし、外にも発信しています。
――社員が自社のミッションやバリューをよく理解していることは、採用プロセスにも影響を与えているのでしょうか。
弊社の場合、現場の社員から採用がスタートしていると言えるほどのカルチャーがあります。11年前の設立当時から、経営メンバー以下、社員みんなが、採用が事業の成長につながることを意識しているのです。自ら採用情報を発信してエージェントとコミニケーションしたり、メディアに出たりして仲間集めをしています。会社の規模が大きくなったので、そろそろ人事が必要ではないかという流れで人事の役割を担う「カルチャーチーム」ができました。
こうした背景がありますから、現場が採用をイニシエートする力がとにかく強く、現場の社員が面接に必ず参加したり、来てほしい人がいれば一緒に食事してお互いの理解を深めたりするなどと採用に深くコミットしています。
――一般的な企業で採用というと、まず人事があって、次に現場を巻き込んでいく形が多いと思います。ユーザベースの場合は、まず現場があって、そのあとに人事が立ち上がった点がユニークなカルチャーを生み出した理由の一つに思えます。
人事というと、普通はプロセスをコントロールして採用の効率化を図るもので、現場がおかしな動きをしないようにガバナンスをかけたりする役割を持っています。それも重要なのですが、弊社では思い描いたような採用を実現するには現場のコミットが必要だと感じています。ただ、現場には本来の仕事があるので、採用担当者は現場にあまり負担をかけないようにプロフェッショナルとしてサポートしながら、いい意味で切磋琢磨していきたいと考えています。また、会社へのカルチャーフィットをフラットに見るという側面で、カルチャー面接をする役割も担っています。
――現場の社員が面接にも立ち会うということですが、どんな方を採用したいと考えていらっしゃいますか。
基本的には会社のバリューやカルチャーにフィットする原体験をお持ちの方です。「7つのルール」は我々の価値観であって絶対解ではありませんが、私たちとしては、自分たちと同じような人生を歩んできた人、同じような価値観を大切にしてきた人を仲間として見つけたいと願っています。「7つのルール」は言葉尻だけを捉えると誰でも共感できるかもしれませんが、共感してもらうだけでなく、過去にそういう生き方をしてきたかどうかを面接では見極めたいと考えています。
ジョブディスクリプションにもミッションを明確に打ち出す

――ジョブディスクリプションには客観的な情報だけが記載されることが多いなか、ジョブディスクリプションにおいてもミッションへの言及がされていますね。
弊社ではミッションに共感できるかが採用の決め手になっているからです。スキルが豊富にあっても、ミッションが合わなければ採用は難しいです。バリュー>ミッション>スキルという優先順位で見極めています。だからこそ、ジョブディスクリプションにも弊社のメッセージを明確に打ち出しておくことが肝要です。
――ジョブディスクリプションの作成はカルチャーチームで行なっているのですか。それとも募集するチームの方が作成されているのですか。ジョブディスクリプションを丁寧に作ることの効果や、その役割についてお聞かせください。
そのときによって現場のマネージャーが書いたり、カルチャーチームでヒアリングして書いたりと様々です。効果や役割については、初期のミスマッチをなくすことが最重要と考えています。ジョブディスクリプションがどれだけよくできているかによって、会社のカルチャーや現場感の伝わり方が変わってきます。
会社の持つ多様性を武器にグローバルへメッセージを伝える

――ユーザベースは『NewsPicks』が米国へ進出したり、同国のメディア『Quartz 』を買収したり、BtoBの『SPEEDA』事業をアジアで展開したりするなど、日本からグローバル展開されています。採用情報発信では、どんなことをしていきたいと考えていらっしゃいますか。
ユーザベースのミッションである「経済情報で、世界を変える」の「世界」は、文字通りグローバルのマーケットを指すので、常にグローバルに意識を向けています。そこで大切になるのが多様性です。現在、ユーサベースにはグループ全体で15カ国前後の国籍の社員がいます。この多様性を武器に組織として成長していることは、メッセージとして発信しなければいけないと思っています。ここで言う多様性は、国籍だけでなく、社員それぞれのライフステージであったり、職種であったりと多岐に渡ります。社員一人ひとりが多様性に対する感受性を上げて、お互い尊重し合って生きる文化を作っていかなければなりません。
弊社の場合は、出社義務のないスーパーフレックス制度や在宅勤務が可能なリモートワーク制度、有給休暇とは別に7日間の休暇を年2回取得できるロングバケーション制度など、充実した福利厚生の制度があり、多様な働き方をサポートしています。同時に、それを享受する社員には、最大の成果を出すために自分自身が働き方をデザインしていく責任もあります。
私は直近まで10年ぐらいシンガポールにいて、日本の会社ではありましたが、外国人が多い会社にいました。グローバルかつ多様性が問われる環境で働くことや、それに伴う価値観を、私自身も大切にしてきました。ユーザベースが世界に出て、グローバルで一流のプレイヤーになっていくためにも、そういったバリューをメッセージとして伝えていくことが大事だと考えています。