オムロン エキスパートリンク株式会社 リクルーティングセンター キャリア採用グループ長・田那村俊也氏と筒井まどか氏

制御機器、社会システム、ヘルスケア、電子部品、環境など、事業フィールドが多岐にわたるオムロングループ。多角的な事業展開に加え、グローバル企業でもあり、多様な“人財”が個性や能力を存分に発揮し、活躍できる企業を目指す同社。ベースには企業理念がある。創業以来、「事業を通じて、より良い社会づくりに貢献する」という使命のもと、世に先駆けてイノベーションを生み出すという「ソーシャルニーズの創造」へのチャレンジを続けている。

そんなオムロングループの採用に対する考え方や情報発信について、同社人事部門を担当するオムロン エキスパートリンク株式会社 リクルーティングセンター キャリア採用グループ長・田那村俊也氏と筒井まどか氏が語る。

オムロン エキスパートリンク株式会社 リクルーティングセンター キャリア採用グループ長・田那村俊也氏と筒井まどか氏
【写真右】田那村 俊也氏。大学卒業後、立石電機株式会社(現:オムロン株式会社)にエンジニアとして入社。産業オートメーション事業での商品企画、営業、事業企画、マーケティング、プロモーションなど幅広い業務を担当。その間、4カ国10年の海外駐在を経験。2018年よりオムロンエキスパートリンク株式会社に転籍、オムロングループのキャリア採用を担当。事業部門で活用したフレームワークや新たな採用手法を取り入れ採用活動を実施。本社広報部門と連携し採用広報の展開に携わる。
【写真左】筒井 まどか氏。 大学卒業後、レディースアパレルのマーチャンダイザーとして新規ブランドの立ち上げ等を経験し、2015年オムロン パーソネル株式会社(現:オムロン エキスパートリンク株式会社)へ入社。オムロングループの新卒採用を担当。戦略策定やATS設計、インターンシップ企画など一貫して学生目線を重視したグループ採用をリード。2019年8月よりキャリア採用を担当。新卒採用で培った前例にとらわれない採用手法でオムロングループそれぞれへの拡大に携わる。

事業成長のための“人財”投資としてキャリア採用に注力

――採用の概況について、新卒採用、キャリア採用それぞれについて教えてください。

田那村:2018年度は新卒で187名(2019年4月入社)、キャリア採用は通年で実施しており217名を採用しました。2016年度までは新卒のほうが多かったのですが、キャリア採用を積極的に始めた2017年度から逆転しました。

――2017年からキャリア採用に注力し始めたのはなぜですか。

田那村:2017年から開始した中期経営計画において、2020年以降の事業成長を狙い、AI、ロボティクス、IoTという3つの分野を注力することになりました。そのために、既存の“人財”ではまかなえない知見を持った即戦力となる“人財”を増やすことにしました。中途採用は、次期長期ビジョンを見据えた新たな成長戦略達成のための“人財”投資という位置付けです。

――どのような資質を持った“人財”を採用したいと考えていますか。

田那村:求人の内容によって違いますが、新しい技術の領域においては技術者採用が中心なので「専門性の高い方」を中心に採用しています。また、企業理念を実践するにあたって私たちが大切にする価値観、「ソーシャルニーズの創造」「絶えざるチャレンジ」「人間性の尊重」の3つの価値観に賛同、共感していただける方ですね。3つの価値観はどれも簡単な言葉でわかりやすく書かれていますが、賛同するだけでなく実践することが重要です。実践できるだろうという人を選ぶ傾向はあります。

企業理念を社内に浸透させることでマッチング精度を上げる

企業理念や企業文化を発信することの意味を語る田那村氏と筒井氏

―――企業理念や企業文化を発信することの意味をどのように考えていますか。

田那村:当社で働く上で、全てのベースは、会社にとっての憲法ともいえる社憲です。
「われわれの働きで われわれの生活を向上し よりよい社会をつくりましょう」という言葉は、創業者立石一真が1959年に制定しました。

その後のオムロングループは、社憲を発展の原動力として、数々の世界的なイノベーションを生み出し、事業を通じて社会の発展と人々の生活の向上に貢献してきました。1990年以降は、社憲の精神を企業理念へと発展させてきました。2015年には、グローバルでわかりやすく、より実践的な内容にしようということで、現在の企業理念に改定しました。改定以降は、社憲を「Our Mission」、企業理念の実践にあたって私たちが大切にする価値観を「Our Values」として、「ソーシャルニーズの創造」「絶えざるチャレンジ」「人間性の尊重」を発信しています。

弊社の事業の大半がBtoB(企業間取引)ということもあり、応募者に「オムロンはどんな会社なのか」をしっかりと理解いただけていないという課題がありました。

加えてここ数年の求職者が求める条件の変化から、企業理念や文化を意識した情報を積極的に発信することで、より理解していただいたうえで入ってきてもらえるようにしています。

筒井:社内的にも、企業理念の意味や、社員にどういうことを求めているのかなど、詳細を記した冊子を全世界の社員に配っています。また、2012年からはグループ全体で企業理念実践の取り組みを共有、賞賛し、共感・共鳴の輪を広げる運動「TOGA(The OMRON Global Awards)」を行っています。創業記念日である5月10日には、毎年、全世界から選ばれたチームが京都に集まり、日々の仕事を通じた理念の実践内容を発表、共有します。社員が自発的に参加するイベントで、毎年参加者が増えています。社員が自ずと企業理念に立ち返る習慣付けや、企業理念の実践へのチャレンジを促すことができていると思っています。

――企業理念や企業文化を発信していくことで、求めている“人財”とのマッチング精度は上がりましたか。

筒井:そうですね。「TOGA」を当たり前のように毎年経験している社員が面接し、採用サイトで自身の経験を語っているわけですから、あえて企業理念を口にしなくてもエッセンスが自ずと盛り込まれています。そうしたメッセージに共感していただける方に来ていただける効果が出ています。

田那村:押し付けでなく自然に伝わるというのがポイントですね。採用サイトもトップのメッセージを打ち出すのではなく、ボトムから企業理念を実践するにあたって活動している内容を中心に発信しています。ロールモデル、失敗や成功のエピソードを単純に発信するだけでなく、「こういう企業理念のもとで、こういう行動をしている」という紹介をしています。

そのようなコンテンツにふれた方が、入社後も「面接で理念について説明を受けたが、実際、社員は本気で企業理念の実践に取り組んでいるんだな」と感じてくれているので、ギャップはないと思いますね。

採用サイトとオウンドメディアで、企業理念の実践を軸に情報発信

採用サイトとオウンドメディアについて語る田那村氏

――2017年にキャリア採用サイトを立ち上げ、2018年にリニューアルしたと聞きました。

田那村:キャリア採用を増やした当初は技術者の募集が多かったので、技術者目線のサイトを作ったんですね。2018年からは技術者以外のスタッフや女性管理職を積極的に採用したということもあり、より企業理念やダイバーシティを意識したコンテンツに変えた方がいいだろうということでリニューアルしました。

オムロングループのキャリア採用サイトトップページのスクリーンショット
オムロングループのキャリア採用サイトトップページ。(左)ページ最上部。理念を大きく打ち出している。(右)下へスクロールすると取り組みの紹介へと続く。ダイバーシティや女性の働き方などソーシャルニーズを反映した内容となっている

――採用サイトとは別に、オウンドメディア「EDGE&LINK」も運営していますが、その立ち上げのきっかけを教えてください。

田那村EDGE&LINKは2015年に広報部門が立ち上げました。目的は、オムロンの継続的なファン作りでした。事業、技術的なコンテンツ、企業としてのガバナンス、ダイバーシティ、サステナビリティなどの取り組みを、企業理念の実践を軸に掲載しています。2018年にキャリア採用サイトをリニューアルしたとき、EDGE&LINKの豊富なコンテンツを活用したという流れになっています。

「EDGE&LINK」トップページのスクリーンショット
EDGE&LINKのトップページ。「テクノロジー」「社会課題」「ワークスタイル&マネジメント」「文化・教育」の4つの分類で記事が掲載されている

――SNSという手段もあったと思いますが、なぜウェブサイトでの情報発信という形を選択したのでしょうか。

田那村:SNSは主に拡散を目的として活用しています。EDGE&LINKで掲載した記事を日本ではFacebook、グローバルだとLinkedInなどを経由して発信しています。

ただ、コンテンツハブとしてはウェブサイトがより重要だと考えています。記事に興味を持った方が、「他にオムロンはどんなことをやっているんだろう、ほかにどんなコンテンツがあるんだろう」と気になったとき、検索機能やカテゴリ分けなどユーザーエクスペリエンスが優れているからです。現在はそういった形で、ウェブサイトでの発信とSNSの立ち位置を分けています。

人事と広報が連携した一貫性のある情報発信で、正しい企業理解を促す

採用サイトとオウンドメディアについて語る筒井氏

――情報発信にあたり社内の体制はどのようになっていますでしょうか。

田那村:EDGE&LINKではいろいろなケースがあります。編集担当が人事とコミュニケーションして、採用計画をもとに今後発信するべき情報をすり合わせ、それに合わせたコンテンツを作成するという流れが一つあります。また、外部メディアに取り上げていただくために作成したコンテンツを、社内コミュニケーション用にチューニングして自社メディアに掲載する方法もあります。

各部門や事業担当者からEDGE&LINKで取り上げてほしいというコンタクトも増えています。社員みんなで同じ目標へ向かうためのベースになっていると感じます。

コンテンツ制作で意識しているのは世の中の動きです。社会のトレンドと会社へのエンゲージメントは密接につながっているので、企業として発信したいことがある一方で、世の中が求めているものも意識して制作しています。

キャリア採用サイトも採用目線で作りつつ、広報と一貫性のあるメッセージを発信するために、何度もすり合わせをします。人事と広報が協力し、企業としてのストーリーを意識しながら情報発信している点はユニークなところだと思います。

――こうした取り組みは、社内コミュニケーションや社員における採用への意識付けにどんな影響をあたえていますか。

田那村:エリアや事業をまたいだコンテンツ作りを通してほかの部門や国・地域の活動を知り、それをグローバルベースで共有することにより、社員のエンゲージメントも高まっていると思います。

EDGE&LINKで最近掲載した記事、「Work in JAPAN」は、日本で働く外国籍の社員にフォーカスしています。社員の取り組み、企業の取り組み、さまざまな観点で悩みや努力を伝えるコンテンツになっています。企業のダイバーシティに対する取り組みの紹介としてこういった切り口は今までなかったので、社員からよく読まれています。

EDGE&LINKの記事「Work in JAPAN」のスクリーンショット
EDGE&LINK内に掲載されている「Work in JAPAN」。グローバル企業としての課題の可決を目的とした社内ソーシャルネットワークの立ち上げと、その活動の一環としてのリアルイベントの様子などを紹介する

――情報発信に注力し始めてから、応募人数の推移や候補者の意識に影響は出ていますか。

田那村:募集する職種によって、採用人数やそのために必要な応募数などは大きく変わるので推移については具体的に言えません。ただ、面接で応募動機を聞くと、「企業理念を読んで共感しました」といったことをおっしゃる候補者がかなり増えました。入社後も「本当に企業理念を大切にしている企業なんですね」とよく言われます。

始めの方で、社外の方にオムロンのことをちゃんと理解いただけていなかったと申し上げましたが、以前は「オムロンの何に興味を持ちましたか」と聞くと、「血圧計」という回答が圧倒的に多かったので、非常に大きな変化を感じています。

筒井:オムロングループはBtoB事業が大半を占めていますが、応募者に認知されている商品のほとんどがBtoC事業のヘルスケア商品です。「制御機器事業もあります」と言ってもご存知ない方がほとんどでした。オウンドメディアは正しい企業理解の助けになっていると思います。

――リアルイベントなど、採用サイト以外に実践している採用のための情報発信について教えていただけますか。

田那村:より多くの女性にオムロンのことを知ってもらい、応募いただけるようにするため、2018年にビジネスカンファレンス「MASHING UP」に参加しました。ただ、採用に結び付けることがイベント参加のメインの目的ではありません。それよりもまず、オムロンは女性が活躍している企業だとあらためて感じていただきたいと思っています。もちろん外部にも発信しますが、内部での理解促進や意識付けの意味が大きいですね。

募集の背景を記載したジョブディスクリプションで会社の今を伝える

採用サイトと採用サイトではジョブディスクリプションについて語る田那村氏と筒井氏

――キャリア採用サイトではジョブディスクリプションが細かく記述されています。新卒採用サイトでも各職種に対して「活かせる専攻」を詳細に記載しています。

田那村:「成長に向けて投資している」というメッセージを重視しているので、単に「このスキルが必要です」と羅列するのではなく、募集の背景を必ず一番上に書いています。「将来我々はこういうことを目指している、だからこういう仕事をやっていただくんです」というストーリーや、採用サイトで発信しているコンテンツとの一貫性を、ジョブディスクリプションの作成では心がけています。

筒井:特に中途採用は、どういうことを期待してこの募集をしているか、入社したらどういうことを達成できるかが伝わるような書き方をしています。候補者から見て、自分が会社の成長のために求められていることがちゃんと伝わるように、候補者目線に立ったジョブディスクリプションにしようとしています。

正しいメッセージを正しく発信して、活躍できる“人財”に届ける

――オウンドメディアを使った、採用のための情報発信に関して、課題はありますか?

田那村:それほど大きな課題はありませんが、強いて言えば動画は増やしたいですね。我々が手掛けているのは制御機器が中心なのですが、多くの方は普段目にしない商品です。ロボットは動きを動画で見せたほうがやはりわかりやすいです。ロボットに限らず動画コンテンツは内容を理解してもらいやすいので、これから少しずつ増やしていきたいと思っています。

ただ、動画ありきでなく、あくまでコンセプトやメッセージありきです。内容に応じてインフォグラフィックなど、より伝わりやすい方法を使っていきたいと考えています。

また、キャリア採用はまったく違う文化や価値観の方も候補者となるので、入社後に「入社前のイメージと違う」となるとモチベーションが下がってしまいます。プロモーションの世界ではきれいに飾って見せたい思いもありますが、採用のための情報は自然体で発信し、できるだけありのままをお伝えしたいと思っています。

筒井:会社としてできていないことや課題に感じていることも、「今はこうだけど、これに対してこういう取り組みをしています」ということも含めて発信していければ、入社後のギャップを減らすことができるように思います。

田那村:能力を持った方を前提に採用していますが、能力を発揮できるかどうかはモチベーションにより大きく変わります。自分のやりたいことができないとか、イメージと違ったというのはもったいない話です。充分に実力を発揮して活躍いただけるために、発信するメッセージに気を遣うことが我々の役目だと考えています。