
自社メディアを通して企業情報を求職者へ届けるオウンドメディアリクルーティングが、人材採用競争を勝ち抜くために不可欠となっている昨今。特に、採用の情報発信のデジタル化が進むなかでは、オウンドメディアリクルーティングにマーケティングや広報で培われたメソッドを取り入れて、採用戦略をアップデートすることが欠かせません。
本連載では、デジタルマーケティングを軸に多様な事業を展開するナイル株式会社で採用を統括する渡邉慎平氏が、マーケティングや広報の思考法を取り入れた採用戦略のアップデートについて、理論と実践の両面から紹介します。
前回の記事では、採用コンセプトダイアグラムを用い、「求職者視点」に立った採用活動を実現する方法についてお話しました。
2回目となる今回の記事では、具体的な採用施策に取り組んでいく際に、「広報」や「マーケティング」の考え方を取り入れる方法についてお話します。
渡邉慎平氏
ナイル株式会社 人事本部 採用グループマネージャー。慶應義塾大学卒業後、ナイル株式会社(当時ヴォラーレ株式会社)に新卒入社。300社以上のWebマーケティング支援に携わり、30名弱の組織のマネジメントを経験。2018年5月に人事へ異動し、採用と広報を担当。
キャンディデイト・ジャーニーマップに沿って採用プロセスを可視化する
「求職者視点」で作った採用コンセプトダイアグラムは、期待する態度変容ごとに施策を考えるのが特徴であり、時系列ごとに施策を捉えづらい面があります。そのため、まずは企業の採用活動プロセスの流れに沿って施策を整理する必要があります。そこで使えるのが「キャンディデイト・ジャーニーマップ」というフレームワークです。
キャンディデイト・ジャーニーマップは、求職者への認知から採用に至るまでのプロセスを時系列ごとに整理したもの。キャンディデイト・ジャーニーマップは、1回目の記事で紹介したように「求職者の視点に立った」ものであることが重要です。
採用コンセプトダイアグラムを使いつつ、求職者の視点に立ったキャンディデイト・ジャーニーマップの描き方

プロセスをどこまで細かく分けるのかは課題感や行う施策によって変わりますが、今回は下記のように5つのフェーズに分類しました。
- 認知獲得
- 応募〜選考前
- 選考中
- 選考終盤〜内定オファー
- 内定承諾〜入社

まずは、採用コンセプトダイアグラムで洗い出した、求職者の行動や態度変容を促すコンテンツや施策を、採用フェーズごとに分類していきます。認知獲得フェーズ、選考中フェーズ、内定フェーズなど、どのフェーズに施策が集中するかによって、自社の採用課題やボトルネックがどこにあるのか、その重要度や優先度が見えてくるはずです。
採用活動で行うのは「アトラクト」と「見極め」の2つだけ
細かい施策は挙げたらきりがありませんが、採用活動においてやるべきことは大きく2つだけ。それは「アトラクト」と「見極め」です。
- アトラクト:企業理念や実現したい世界、自社プロダクトの魅力や可能性、どんな人材が活躍しているのか、どんな社風か、入社したらどんなスキルや経験が得られるか、など
- 見極め:ミッション・ビジョン・バリューへの共感があるか、カルチャーフィットしているか、ジョブディスクリプション要件を満たす人材か、など
基本的に行っていく採用施策は、このいずれかに効くものでなければいけません。オウンドメディアリクルーティングで提唱している「シェアードバリューコンテンツ」と「ジョブディスクリプション」も、アトラクトと見極めのいずれか、または両方の役割を担います。
施策を考えるうえでは、どのフェーズにおける施策なのか、アトラクトと見極めのどちらに効く施策なのかを考えてみると良いでしょう。
「採用広報」と「採用マーケティング」の考え方
ここでいったん話は変わりますが、「採用広報」と「採用マーケティング」の考え方についてふれておきます。
採用広報、採用マーケティングのいずれも、元々は企業のマーケティング活動で使われていたオウンドメディアやコンテンツマーケティングの取り組みが、2016年くらいから採用領域においても活用されるようになり、定着してきた概念だと考えています。
企業によって考え方や解釈は異なるので、今回は便宜的に下記の説明を定義としたうえで解説します。
採用広報
「広報(広く報せる)」と「狭報(狭く報せる)」の2つに分類される。「採用広報」は広く露出することによって、企業の認知向上へつなげる取り組み。「採用狭報」は採用選考を今受けている求職者に向けて、興味喚起や理解促進へつなげる取り組み。
発信する情報のイメージ
- 採用広報:DX、D&I(ダイバーシティ&インクルージョン)、リモートワーク、複業/副業、SDGsなど、世の中の興味関心事や課題に関する発信
- 採用狭報:企業理念、事業の魅力や展望、プロダクトの成長、活躍社員、社内制度や福利厚生など求職者の興味関心につながる発信
採用マーケティング
Webマーケティングの特徴である「データが取れること」と「パーソナルアプローチがしやすいこと」の2つを採用活動に活かそうとする取り組み。「集客」「接客(回遊)」「再来訪」「効果測定」の4つの施策がある。
Webマーケティング施策の例
- 集客:リスティング広告、SNS広告、SEO、オウンドメディア
- 接客(回遊):EFO、LPO、Web接客
- 再来訪:リターゲティング広告、メールマーケティング
- 効果測定:アクセス解析
採用マーケティング施策の例
- 集客:SNS広告、会社紹介ウェビナー、オウンドメディア(採用サイトや採用ブログ)
- 接客(回遊):採用サイトのEFO、LPO、Web接客
- 再来訪:リターゲティング広告、メールマーケティング
- 効果測定:採用サイトや採用ブログの歩留まりデータの可視化、アクセス解析
今回は便宜的に上記の分類をしましたが、各施策はそれぞれMECE(*)になるものではなく、下記図のように重なりあう部分があります。
*MECE(Mutually Exclusive, Collectively Exhaustive):ロジカルシンキングにおいて重要な概念で、「ダブりがなく、漏れもない」状況を意味する

キャンディデイト・ジャーニーマップに広報/マーケティング思考を取り入れる

採用広報、採用狭報、採用マーケティングの各施策を、キャンディデイト・ジャーニーマップのフェーズごとに当てはめてみると上図のようになります。
これも明確に分類しきれるものではありませんが、自社の採用施策を当てはめて考えてみると、各施策がどのフェーズにおいて、どんな役割を担うものなのか、採用関係者の思考整理や認識合わせに使えるはずです。
どの役割を担うかによって、施策に対する期待や追うべき指標も変わってくるはずです。たとえば、日常の社内風景や部活動の様子をつづった日記がメインの採用ブログに採用広報の機能を求めて、露出量を追っていくのは得策とは言えません。
採用広報、採用狭報、採用マーケティングは、どれが良い悪いという優劣をつけられるものではなく、企業のフェーズや採用課題によって優先順位や取り組み方が変わります。
「採用狭報」「採用広報」「採用マーケティング」の思考で採用を変革するナイルのオウンドメディア活用法はこちらへ
- そもそも企業認知が低いので、企業認知を上げることが課題
- 応募数は多いが候補者にも社内にも適任がいない、新規事業を作っていける人材からの応募獲得が課題
- 応募数は多いが内定承諾率が低いことが課題
といったように企業の採用課題に合わせて、課題解決につながる施策から取り組んでいくべきです。
今回の記事では、
- キャンディデイト・ジャーニーマップに即して、選考プロセスを設計する方法
- 採用活動で行うべき「アトラクト」と「見極め」について
- 「採用広報」と「採用マーケティング」の考え方について
- キャンディデイト・ジャーニーマップへ、広報とマーケティングの思考をいかに取り込むか
についてお話しました。
次回の記事では、1回目と2回目で紹介したことを踏まえ、ナイルではどのような施策を実践してきたのか、具体的な事例をお伝えします。
※ 所属部門・役職などは2021年4月当時のもので、現在と異なる場合がございます。
この連載の記事一覧
- 採用コンセプトダイアグラムで「求職者視点」を実現――マーケティング・広報の思考法で採用戦略をアップデートvol.1
- 「採用広報」「採用狭報」「採用マーケティング」の思考で実践する、採用プロセスに応じた情報設計――マーケティング・広報の思考法で採用戦略をアップデートvol.2
- ナイルの事例で見る実践オウンドメディアリクルーティング――マーケティング・広報の思考法で採用戦略をアップデートvol.3