対局に勝てば最終面接 「将棋採用」でIT人材を集める企業の狙いと“ユニーク採用”のコツ

将棋をしているイメージ


2021年10月、AIソリューション事業を手掛ける株式会社トリプルアイズは「将棋採用」の再開を発表しました。応募者は同社将棋部に所属している社員と対局し、勝てば最終面接へと進むことができます。
 
同社は2019年に将棋採用を開始し、多くの反響を呼びメディアでも取り上げられました。どのような経緯で将棋採用を始めたのでしょうか。将棋採用の狙いやユニークな採用活動を実施するコツについて、株式会社トリプルアイズ取締役 桐原永叔さんと、経営戦略本部 人財開発部の山中千恵さんにお聞きしました。

 
 

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将棋が強い人はITエンジニアに向いている


――はじめに、御社の事業内容を教えてください
 
山中:画像認識を中心としたAIソリューションを提供しています。当社は画像認識プラットフォーム・AIZE(アイズ)を独自に開発し、顔認証を使った勤怠システムやマーケティングツールなど、企業のDXを推進するためのサービスを展開してきました。
 
またSI部門では基幹/情報システムの構築、インフラ基盤やネットワークの運用技術サービスにも力を注いでいます。
 
――「将棋採用」を思いついた経緯やきっかけは?
 
桐原:私は2019年に、創業者で前社長の福原から広報の立ち上げを依頼されて入社しました。まず社内の情報を集めたところ、社員の部活動として将棋に力を入れていることを知りました。そこで「将棋が好きな人たちにアピールすれば、採用のための認知度向上につながる」と考えました。
 
実は過去に、福原が将棋道場で対局した人に声をかけ、「うちでエンジニアとして働いてみないか?」と誘ったことがあったそうです。彼はITの知識はなかったものの、入社後にプログラミングを学び、どんどんスキルを伸ばしていきました。
 
その話を聞き、「将棋が強い社員と対局、勝った人を採用する」というアイデアで「将棋採用」とネーミングしリリースを出したところ、予想以上の反響を得ました。もともと狙っていた将棋関連メディアに取り上げられたのはもちろん、BS放送などにも取り上げられました。
 
――御社は将棋との結びつきが強かったのですね。
 
桐原:福原が将棋好きで、その縁もありアマ将棋の強豪が多く在籍しています。「内閣総理大臣杯 職域団体対抗将棋大会」では、Sクラスで準優勝(第116回大会)するレベルです。
 
――IT人材と将棋、どういう関係性があるのでしょうか?
 
桐原:将棋はロジカルに1手先、2手先……と考えながら駒を置いていくゲームです。将棋が強い人は、処理の流れを矛盾なく組み立てていくプログラマーに向いていると考えています。
 
また将棋には、投了後に対局を振り返る「感想戦」がありますよね。福原は「感想戦は、エンジニアがプログラムを書いた後にPDCAサイクルを回すことと似ている」と話していました。
 
――エンジニアはPDCAをどのように回していくのでしょうか?
 
桐原:IT業界では「アジャイル開発」と盛んに言われるようになっています。アジャイルとは、簡単に言うと大枠だけ決めて着手し、細かな単位でフィードバックを繰り返しながら進めていく開発手法です。プログラマーには、常に振り返りながら現場にフィードバックする能力が求められる。そこが将棋に似ている点なのです。
 
――ITやプログラミングの知識がなくても大丈夫なのでしょうか?
 
桐原:はい。当社では将棋採用だけでなく、未経験者の一般採用も行っています。入社後にしっかり教育するノウハウがあるので、IT関連の知識がなくても問題ありません。

 
 

一般の求人媒体では出会えなかった人に届いた


――最初に将棋採用を実施したのは2019年と聞きました。どのような応募者が集まったのでしょうか?
 
桐原:企画段階では「一人も合格者が出ないかもしれない」と思っていました。当社の有段者はかなりの強豪ばかりなので、そう簡単に勝てないだろう、と。ところが各メディアで将棋採用が拡散されたため、猛者が集う結果になりました。
 
山中:それまでの採用との違いは、「トリプルアイズを知らなかった」という応募者が多かった点です。将棋採用のアプローチによって、一般の求人媒体や人材紹介では探しきれなかった人が当社を知るきっかけになった。そこは大きなポイントですね。
 
――2019年は何名採用しましたか? また、入社後どのようなお仕事をされているのでしょうか?
 
山中:合計11名を採用、うち中途が4名、新卒7名です。配属先はエンジニア、バックオフィス部門、子会社の運営などさまざまで、入社後は一般採用と違いはありません。
 
――必ずしも「将棋採用=エンジニアになる」というわけではない、と。
 
山中:「将棋が強い人はエンジニアに向いている」と考えていますが、もちろん本人の適性や希望も考慮した上で配属を決めます。もしエンジニアよりバックオフィス系に向いているとなれば、そちらの部門に配属となることもあります。そこも通常の採用と同じです。
 
――将棋採用で入社した人の特徴は?
 
山中:毎日コツコツ積み上げるフローに対して適性があると感じています。大きな業務量を任せても、逆算して「今日ここまでやれば期日に間に合う」と考えられる。締め切り間際になってバタバタするのではなく、自分で決めたところまできっちり進められる人が多い印象です。

 
 

対局中のふるまいや指し方は関係なし 勝負の結果だけで判断


――今回の将棋採用で募集する内容は? 選考方法を教えてください。
 
山中:応募対象者は、2023年3月卒業予定の新卒および中途採用です。現時点(2021年12月15日)で21名の応募者が集まっており、うち新卒者は5名となっています。
 
選考方法は下記のとおりです。

 

  1. エントリー時に履歴書・職務経歴書を提出
  2. トリプルアイズ社員(将棋部在籍・有段者)と対局
  3. 最終面接
  4. 内々定


――それぞれの段階でチェックするポイントはありますか?
 
山中:単なる遊びではなく、あくまで採用のための取り組みなので、形式上は履歴書・職務経歴書を提出してもらいます。ただし書類で落とすことはありませんので、応募者は必ず対局できます。学歴も関係ありません。
 
――いわゆる書類選考は無いのですね。対局は1回あたりどのぐらいの時間がかかるのでしょうか?
 
山中:最短だと20分、最長でも1時間30分くらいで終わるようなルールを組んでいます。また対局については、あくまで結果のみで判断します。対局中のふるまいや指し方は一切関係ありません。勝てば必ず最終面接へ進めます。
 
――最終面接では、どのような話を?
 
山中:きっかけは将棋採用だったとしても、キャリアや人生を歩む上で「本当にトリプルアイズでいいのか?」という点はすり合わせが必要です。面接では「職務経歴は?」「どんな業務をやっていきたいのか?」といった、一般的な質問をしています。ただ将棋が強いという理由だけで入社すると、業務内容やキャリアプランのミスマッチが起きてしまう可能性もありますから。

 
 

人事だけでなく、広報など他部署と連携してアイデアを出す


――最近では「野球採用」「麻雀採用」など、変わった採用手法を取り入れる企業が増えているようです。ユニークな採用を行うメリット、デメリットは?
 
桐原:メリットは、知名度を上げてブランディングに役立つことです。採用面でいえば、欲しい人材のいるクラスターに向けて深く鋭いメッセージを送れます。
 
一方で、デメリットは特化した応募者が集まったとき、その他の要素を評価する軸がないと難しいことです。たとえば、あまり企業研究をしていない人や、マナーを身に付けていない人が応募してきたとき、どうするか。その評価軸を持っていないと、採用/不採用を決められません。
 
実際には長期的に見てみないと分からない部分もあるでしょう。採用時にはマイナス要素があったとしても、新人教育を経たのちに大きく活躍してくれる可能性もありますからね。
 
――“ユニーク採用”を検討している経営者や人事・採用担当者へ、何かアドバイスがあればお願いします。
 
山中:まずはチャレンジしてみることが大事です。現状のやり方でうまくいかないのなら、新たな手法を試してみる。不安要素を並べても意味がありません。反省点はありますが、成果も出てくるので、トライアンドエラーで進めていけばよいのではないでしょうか。
 
桐原:いまは会社を選んでもらう時代です。採用活動そのものが、広報、プロモーション、ブランディングの本質であると捉えるべきです。
 
山中:多くの中小企業は人事部だけで採用活動し、うまくいかずに悩んでいるのではないでしょうか。当社の強みは、フットワークが軽く広報やエンジニア部門と連携しながら採用を考えている点にあると思います。
 
――人事だけでなく、広報など会社全体を巻き込んでいくことが重要である、と。
 
桐原:広報には社内広報、社外広報、採用広報の3つの要素があります。したがって、本来は広報も採用活動に関わらなければなりません。ただ中小企業だと、戦略を立てて採用広報を行っているところは少ないでしょう。
 
少し前までは、代理店が間に入って採用施策を考えている事例もありました。しかしSNSが浸透して以降は、自社のアイデアで動いている企業が目立っています。自社の特徴を深掘りしたうえでアイデアを考え、SNSなどツールを使って拡散する採用施策を検討してみてはいかがでしょうか。

 
 
 

<取材先>
株式会社トリプルアイズ
取締役 桐原永叔さん
経営戦略本部 人財開発部 山中千恵さん
 
TEXT:村中貴士
EDITING:Indeed Japan + ノオト

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