Q&Aで理解する、問題社員へのトラブル対応
Q1.就業規則で定められた始業時刻に1時間遅れた社員。終業時刻後に1時間の残業をして帰宅しました。やはり企業は残業手当を支払わなければいけないのでしょうか?
A1.原則的には、残業手当を支払う必要はありません。
労働基準法第32条により、「1日8時間 週40時間」が労働時間の上限と定められています。これを「法定労働時間」といい、上限を超えて従業員が働いた場合、企業は25%以上の割増賃金(残業手当)を支払わなければいけません。
例えば、9時から18時(休憩1時間)が定時の場合、始業時刻に出社して19時まで働いたら1時間分の残業手当がつきます。しかし、遅刻や早退などがあれば、その時間を控除して労働時間を算定します。これを「ノーワーク・ノーペイ」の原則(労働基準法24条)といい、従業員が働いていない時間に対しては、雇用主である企業は、賃金を支払う義務がありません。
今回の質問に挙げられた例では、定時の1時間後の19時まで業務を行っていますが、1時間遅刻をしているので、実質8時間を超える労働は発生していません。残業には該当せず、残業手当もつかないことになります。ただし、就業規則に「終業時刻以降に働いた場合は、残業手当を支給する」と明文化している場合は、時間外労働による割増賃金の支払い義務が生じるので、就業規則を作成・変更する際は、くれぐれも表記に注意しましょう。
残業手当が発生しないとはいえ、社員の慢性的な遅刻を許容するのは、他の社員の不満や仕事へのモチベーション低下にもつながりかねません。社員の素行不良を改善するには、まずは当該社員へ注意して改善を促し、それでも勤務態度が改善されなければ昇給や賞与の査定にも反映させるといった方法が一般的です。しかし、それだけでなく、上司が当該社員に振る舞いの理由や考えを聞き、どうすれば遅刻を改善できるのか、一緒に考えながら取り組んでいくといった方法もあるでしょう。
Q2.リモートワーク中の社員。勤務中に電話をしても連絡がとれず、提出物の締切期限も守られない日がありました。確認したところ、この日はサボっていたことを本人が認めました。欠勤扱いにできますか?
A2.今回の場合は、本人が「仕事をサボっていたこと」を認めているので、「ノーワーク・ノーペイ」の原則に基づき、「欠勤控除」にすることができます。
また、会社が認めれば「有給休暇」扱いとすることも可能です。「欠勤控除」と「有給休暇」の違いは、「給与を支払うか支払わないか」という点です。「欠勤控除」の場合は、欠勤した分の賃金を給与から差し引きますが、「有給休暇」なら出勤時間の労働義務を免除されるので賃金を支払うことになります。まずは話し合い、社員本人の事情を聞いた上で、適用するようにしましょう。
ただし、「欠勤控除」の計算方法を定めた法令上の規定はありません。実際に「欠勤控除」を行う場合は、トラブル防止のためにも就業規則に明記しておくよう注意しましょう。
また、サボっているわけではないけれど、テレワークによって生産性が低下する社員もいます。若手社員や入社したばかりの社員は上司の状況が分からず、連絡するのを躊躇してしまい、自分で悩みを抱え込んで仕事の進みが悪くなるようです。
この状況を改善するには、組織をまとめている上司がカギになります。普段よりこまめにメンバーの成果を確認したり、1日に1回以上は雑談タイムやランチミーティングなどでコミュニケーションを図ってメンバーが孤立しない工夫をしたりすることが大切です。違う部署の先輩をメンターとして付ける、人事部を相談窓口にするなど、上司に打ち明けにくい悩みを相談できる場を作っている企業もあります。
Q3.社員がSNS上の個人のアカウントで会社への不満や社内事情を書き込んでいることが発覚。人事労務担当としてはどのように対応するべきでしょうか?
A3.基本的には、社員がプライベートで使用しているSNSアカウントに対して、企業側が管理・規制することはできません。しかし、社員が下記のような行動をとった場合は、企業が何らかの対応をとることができます。
- 社内情報や顧客情報などを投稿した場合
- 自社の著作権や商標権などを侵害する情報を投稿した場合
- 自社を誹謗中傷する投稿をした場合
- 自社の信用を損なうようなデマや写真(動画)を投稿した場合
このような投稿を見つけたら、企業は下記の対応を検討しましょう。
1. 事実関係の確認
不適切な書き込みや投稿などを発見したら、まずは人事労務担当者が関係部署の上司や書き込んだ社員本人に事実関係を確認します。本人が書き込んだのか、書き込まれた内容は事実か、どういった根拠に基づいて書き込んだのかなどを調査します。
2. 投稿内容の削除要請
事実関係を確認した上で、投稿者本人に問題となる投稿をすみやかに削除するよう要請します。こうした確認や要請は、会社を代表して、上司または人事労務担当部署の責任者から行いましょう。
3. 従業員への処分
懲戒処分の対象になり得るかは、投稿内容や影響度により異なるため、具体的な処分は個別に判断していくことになります。事前に就業規則に、不適切なSNS投稿を想定した懲戒事由を定めておくことも必要です。
処分内容は、影響が軽微で本人が反省していれば厳重注意で済ませることが多いでしょうし、企業のイメージダウンや売上減少、信用度の損失など、被った損害の大きさによっては、懲戒処分の対象とすることも考えられます。処分が厳しすぎないか確認したい場合は、弁護士に相談しましょう。
事前に行うべき具体的な対策は、次の3点です。
◆SNS利用のガイドライン作成
企業は社員向けにSNSを活用する際の注意点や禁止事項などを取り決めておきましょう。実際に、他社で起きたトラブル事例を共有するのも、社員のコンプライアンス意識向上につながります。
◆社員へのSNS教育
作成したガイドラインを題材に、定期的な勉強会を行いましょう。SNSの正しい活用方法を浸透させ、トラブルを未然に防げます。
◆就業規則の明記や誓約書の提出
就業規則上の服務規律や懲戒事由に「SNSでの不適切な投稿に関する行為」を処分対象として明記したり、個別に誓約書を交わしたりするのも、一定の抑止力になります。
事後対応だけでなく、事前の対策や再発防止の工夫も忘れずに
社員の素行不良によるトラブルを最小限に抑えるためには、事後対応も大切ですが、事前の対策や再発防止の工夫・施策も欠かせません。社員が同じ過ちを繰り返さないよう、人事労務担当者は根本的な原因を解決するためのガイドラインやルールを作成し、現場の管理職の人たちと連携して意識づけをしていきましょう。
※記事内で取り上げた法令は2021年2月時点のものです。
監修:うたしろFP社労士事務所 社労保険労務士/1級FP技能士CFP® 歌代将也
TEXT:西谷忠和
EDITING:Indeed Japan + ノオト