社会保険(健康保険・厚生年金保険)とは
そもそも「社会保険」とは国民の生活を保障するために設けられた、公的な保険制度のことです。「健康保険」「厚生年金保険」「雇用保険」「労災保険」「介護保険」の5種類があります。
◆健康保険
加入者本人やその家族による業務外の病気やケガ、出産、死亡に対して必要な給付を行います。人事担当者は、従業員の入社時や退社時の手続きはもちろん、在籍する従業員の傷病手当金、出産手当金、出産育児一時金、療養費などの手続き業務が想定されます。
健康保険を含む社会保険に加入させる義務はある?
事業者は、一定条件を満たすアルバイトを、「健康保険」と「厚生年金」を含む社会保険に加入させる義務があります。これによって従業員が安心して働ける環境を守り、病気や出産などで休職した従業員の所得補償や定年後の年金を提供できるのです。また、広い視点で考えると、経済発展や雇用の安定といった社会的責任を果たすことにもつながります。
社会保険は国が定める制度のため、アルバイト本人に加入の意思があるかどうかに関わらず、加入が義務付けられています。また、社会保険は労働条件のひとつであるため、求人票に記載する義務が発生します。
社会保険の加入義務が発生するケース
アルバイト従業員は以下の(1)を満たす場合、原則として加入義務が発生します。
(1)正社員の4分の3以上の勤務時間と労働日数があること
具体的には、2カ月を超えて働く予定があり、「1週間の所定労働時間」および「1カ月の所定労働日数」が、いずれも正社員の4分の3以上ある場合を指します。
ただし、法改正によって以下(2)のとおり、社会保険加入の適用範囲が広がりました。そのため、(1)に当てはまらない場合でも、「従業員数501人以上の勤務先である」などの以下条件をすべて満たす場合は社会保険に加入させる義務があります。
(2)次の5つの条件を満たすこと
A:週の所定労働時間が20時間以上である
B:賃金月額が月8.8万円以上ある
ただし、以下は賃金月額から除外して計算します。
・臨時に支払われる賃金や、1カ月を超える期間ごとに支払われる賃金(例:結婚手当、賞与など)
・時間外労働や休日労働、深夜労働に対して支払われる賃金(例:割増賃金など)
・最低賃金法で算入しないことを定める賃金(例:精皆勤手当、通勤手当、家族手当)
C:1年以上の雇用が見込まれる
D:従業員数501人以上(厚生年金の被保険者数)の勤務先である
ただし、厚生年金の被保険者数が500人以下の企業でも、「労働者の2分の1以上と事業主が社会保険への加入に合意し(労使合意)、管轄の年金事務所に申し出ている事業所」または「地方公共団体に属する事業所」は501人以上の要件を満たすとみなされます。
E:学生ではない(※夜間や定時制などに通っている学生は加入できる場合もある)
よって、勤め先の会社規模(従業員501人以上か以下かどうか)によっては、適用範囲から外れることもあります。
例:従業員501人以下の会社
→アルバイト従業員の「週の所定労働時間が40時間」で、それが「正社員の4分の3以上の勤務時間と労働日数がある」と判断された。その場合は(1)を満たすため、加入義務が発生。
例:従業員501人以上の会社
→アルバイト従業員の「週の所定労働時間が20時間以上ある」など(2)のA、B、C、Eをすべて満たす場合は、加入義務が発生。
健康保険を含む社会保険の手続き方法
前述の条件を満たすアルバイトがいる場合、日本年金機構に関連書類を提出します。この時、事業所の種類が「強制適用事業所」と「任意適用事業所」のどちらにあたるかによって書類の提出時期が変わります。
◆強制適用事業所
社会保険への加入が義務付けられている事業所。提出期限は会社設立から5日以内です。
◆任意適用事業所
強制適用事業所の対象外でも、従業員の半数以上が社会保険の適用事業所になることを同意し、事業主が適用の申請をした上で、厚生労働大臣の認可を受けた事業所。提出のタイミングは、従業員の半数以上の同意を得たあとです。
◆提出書類
(1)健康保険・厚生年金保険所 新規適用届(※1)
※1 任意適用事業所の場合は「健康保険・厚生年金保険 任意適用申請書」が必要となる
(2)健康保険・厚生年金 被保険者資格取得届
(3)健康保険 被扶養者(異動)届(国民年金第3号被保険者関係届)
(4)健康保険厚生年金保険 保険料口座振替納付(変更)申出書
これらは、日本年金機構のホームページからダウンロードできます。書類は「各都道府県の事務センター」か「所在地を管轄する年金事務所」に郵送や窓口持参、電子申請のいずれかの方法で提出しましょう。
社会保険(健康保険・厚生年金保険)の加入条件を確認し、適切な対応を
健康保険組合や年金事務所は、定期的に事業所を訪問し、従業員を「社会保険(健康保険・厚生年金保険)」に加入させているかどうかを調査します。適正に加入させていないと判明すれば、事業者は本来加入すべき時期まで遡った社会保険の総額を従業員と折半して支払わなければいけません。そうなれば両者に大きな負担がかかるため、加入条件を事前に把握し、適切に加入しておくことが大切です。
※記事内で取り上げた法令は2019年12月時点のものです。
監修:大槻経営労務管理事務所 社会保険労務士 鈴木麻耶さん
TEXT:流石香織
EDITING:Indeed Japan + ノオト