入社エントリとは
「入社エントリ」とは、企業への「入社」にまつわる文章をネット上に「投稿」=「エントリ」したもの全般を指します。入社エントリと同じような形で、企業を退職したことを報告する「退職エントリ」も存在します。日本における入社エントリと退職エントリは、2000年代に普及したブログ、そして2010年代のSNSの盛り上がりにともなって生まれた文化です。特にIT系企業に勤める人、エンジニアを中心に広まっていったと言われています。
入社エントリの多くは、noteやブログなどネット上のプラットフォームに投稿されています。ただ、FacebookやInstagramなどのSNSアカウントに投稿された入社報告も、広義には入社エントリと言えるでしょう。
ちなみに退職エントリは退職してすぐに投稿されることが多いですが、入社エントリは「実際に入社してみてどうだったか」という感想を書くことが多いので、入社後しばらく経過してから投稿されるといった特徴があります。入社エントリの場合、入社後数カ月〜1年経ってから投稿されることも少なくありません。
入社エントリを書く理由
入社エントリを書く理由は人によって様々ですが、一般的には環境の変化について周囲の人へ報告することを目的としているケースが多いようです。これまで仕事でお世話になってきた人、家族や友人など周囲の人に対する感謝や、今後も関係を続けていきたいという気持ちを伝えるためでしょう。
ちなみに普段お付き合いがある人だけでなく、ネット上で交流がある人たちへ報告したいという理由から、SNSに入社エントリを投稿する人も少なくありません。
他にも、以下のような理由で入社エントリを書くケースが見受けられます。
◆自己紹介
入社する企業でこれから同僚となる従業員に自分を知ってもらうため、過去の経験や今後挑戦したいことなどを、自己紹介のような形で投稿します。
◆転職ノウハウの共有
その企業へ入社するためにどのような準備をしたのか、自身の転職ノウハウを、その企業・業界での就職を希望する人たちへシェアしたいという目的で投稿します。自分もネット上の情報を参考に就職活動を成功させた場合は、同じような人たちを助けたい気持ちがあるようです。
◆学生向けの就活ノウハウの共有
主に新卒社員が、学生時代にどのような就職活動を行なって企業に就職することができたか、そのノウハウを現役の就活生に共有するために投稿します。
◆次の仕事に対する期待
入社した企業でどんな仕事をするかをアピールすることで、仕事の相談がきたり、案件を受注できたりすることを期待して投稿します。
入社エントリによく書かれていること
入社エントリの内容は人それぞれですが、一般的には以下のようなトピックが書かれています。
- 転職を考えたきっかけ
- 企業選びや就職活動で心掛けたこと
- 採用面接やテストに向けて行った対策
- その企業への入社を決めた経緯
- 今回の就職活動で得た知見やノウハウの公開
- 入社してからの感想
- 今後この会社で取り組みたいことや目標
入社のノウハウを公開している人の場合は、採用フェーズでどのようなテスト対策、面接対策を行なったかを記載していたりもします。守秘義務もあるため全ての採用情報を公開しているケースは稀ですが、一部にはOB・OG訪問、エントリーシートの書き方、テストの内容や面接の回数・内容を明らかにしていることもあります。こういった情報を知りたくて入社エントリを読む求職者や求職検討者が多くいるのも事実です。
新卒社員として入社した人の場合は、学生時代にどのような目標を持って就職活動を行なったか、どのような経緯で内定に至ったか、その企業の内定を受諾した理由、入社するまでの期間の過ごし方、入社式・研修など入社前後の体験、配属されてから実際に仕事をしてみての感想、今後の目標などを記載することが多いようです。
入社エントリが企業にもたらす効果
入社エントリは、企業名を具体的に示した上で執筆されているケースが多めです。そのため、入社エントリの内容はその企業への就職を考えている人や、同じ業界で働いている人など、様々な人から注目されるので、企業への影響も大きい情報であるといえます。入社エントリの盛り上がり方によっては「いま〇〇業界では〇〇社が人気なのか」といったトレンドを生み出すこともあるため、企業としては入社エントリの投稿が増えるほど、人気企業である印象を与えられるというメリットもあります。
また、入社エントリが入社する企業で働く人たちに向けて執筆されているケースは、配属部署だけでなく、部署や役職を超えて社内のメンバーが新入社員を知ることにつながります。簡単に口頭で自己紹介されるよりも、掘り下げた情報が書かれている入社エントリを読むほうが、迎え入れる従業員側も新入社員の人となりを詳しく知ることができます。その結果、入社後すぐに新入社員とのコミュニケーションが活発になるかもしれません。これは企業の人事担当者として受け入れ体制を整える上でも、好ましい状況なのではないでしょうか。
ちなみに、一部の企業では企業側が、新入社員に入社エントリの投稿を依頼しているケースもあります。これは、新卒社員に将来のキャリアを思い描いてもらうことや、ロジカルに物事を考え整理し、文章を執筆するスキルを向上させたいという意図があります。他にも、自社の注目社員を社外に発信することで企業価値を向上させ、採用ブランディングに繋げる目的もあるようです。ただし入社エントリに「書かせている感」が出てしまうと、面白くないと思われシェアされづらい傾向もあるため、この点は企業側として注意が必要でしょう。
企業価値に影響する可能性もある「入社エントリ」
入社エントリは、企業のブランドに少なからず影響を与えます。どのような入社エントリがあるかによって、その企業のイメージは大きく変わってきます。企業として日頃から誠意を持って採用活動を行い、入社時も丁寧に対応することが好意的な入社エントリの投稿につながるかもしれません。
また、企業の採用担当者や広報担当者は、求職者やステークホルダーからの問い合わせにも適切に対応できるよう、自社の入社エントリをチェックしておくことも重要です。好意的な内容の入社エントリがあった際には、積極的に会社のブログやSNSなどでシェアすることで、企業価値を高められるでしょう。退職エントリとは異なり、会社の公式アカウントでシェアしても問題は無いと思います。
<取材先>
core words株式会社 代表・佐藤タカトシ
1976年1月1日生まれ。2001年4月、リクルートコミュニケーションズ入社。11年間に渡り、大手自動車メーカー、大手素材メーカー、インターネット関連企業、流通・小売企業など、100社以上の採用ブランディング、採用コミュニケーションを支援。マネージャー、クリエイティブディレクターを務めたのち、2012年7月、大手IT企業に転職。採用チームに所属し、採用ブランディングとダイレクトリクルーティングをメインミッションとして活動。2015年7月、core wordsを設立。東京大学理学部卒。東京大学大学院理学系研究科修了。
TEXT:中森りほ
EDITING:Indeed Japan + ノオト