コロナ禍でシニア人材の採用はどう変わる?


働く意欲のある、元気なシニア世代が増えています。経済産業省が2018年に産業構造審議会で発表した「2050年までの経済社会の構造変化と政策課題について」(※)によれば、高齢者の体力・運動能力は14年前と比べて約5歳若返り、70歳以降も働きたいと望む高齢者は8割にのぼります。
 
これまで政府は、シニア世代が能力を十分に発揮して活躍できるよう、法整備を進めてきました。しかし、2020年以降のコロナ禍は経済活動に大きな影響を及ぼし、雇用計画の変更を余儀なくされた企業は少なくありません。そうした中で、シニア世代の就業状況にはどのような変化が起こったのでしょうか。
 
シニア市場に関するアドバイスやコンサルタント、シニア世代の取材・執筆活動を行うシニアライフアドバイザーの松本すみ子さんに、コロナ禍におけるシニア世代の雇用状況や採用課題についてお話を伺いました。
 
(※)経済産業省「2050年までの経済社会の構造変化と政策課題について」(2018年)

 
 

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シニア世代を含め、今後の雇用は少数精鋭主義になる


――まず始めに、働くシニア世代を取り巻く現状について教えてください。
 
現在、多くの企業で定年退職後も65歳までの再雇用が行われています。この背景にあるのが、高年齢者雇用安定法です。この法律は、シニア世代が活躍できる環境整備を目的に制定されたものです。2021年4月には再び改正され、雇用主側は70歳までの就業機会の確保措置を講じることが努力義務になります。
 
――働く意欲が高いシニア世代にとっては朗報ということでしょうか。
 
いいえ、そのまま70歳まで必ず会社にいられると思うならば、それは間違いです。「就業機会確保措置」として、企業は従業員に再雇用以外の選択肢を提案することも可能です。独立を支援したり、事業主や委託先の団体が行う社会貢献事業への参加をサポートしたりなどですね。企業は、従業員を70歳まで必ず自社で継続雇用しなければいけないわけではありません。
 
――多様な選択肢を得る好機と考えるかどうかによって、受け取り方は変わりますね。では、このたびのコロナ禍がシニア世代の就業状況に及ぼした影響はどのようなものでしょうか。
 
コロナ禍以前は人口減少に伴う労働力不足もあり、多くの企業が定年後のシニア世代を非正規社員として再雇用してきました。
 
しかしコロナ禍で今後の経済状況が不透明になり、シニア世代に限らず被雇用者全般に対する企業の目線がシビアなものへ変化しています。加えて、テレワークの推進や副業の許可など新たな働き方を取り入れる動きが広がりました。コロナ禍を機に従来の働き方を見直し、適応能力がある人だけを雇用する少数精鋭主義に移ってきています。
 
また同時に、担当職務を明確にした上で採用を行う、ジョブ型雇用への注目が高まっています。
 
日本は長年に渡って、メンバーシップ型雇用を行ってきました。職務を限定せず、組織の一員として採用する雇用形態です。採用後は組織内で異動を繰り返し、様々な仕事を経験させてゼネラリストへと育て、自社で定年を迎えさせる。こうした仕組みを多くの日本企業が取り入れてきました。
 
しかし、多くの国では、業務内容をベースとしたジョブ型雇用が主流です。報酬も、年齢や役職に関わらず担当職務によって決まるという考え方が浸透しています。グローバル化が進み、日本でもスキルを重視するジョブ型への関心が高まっていた中、コロナ禍で働き方が変化し、さらに注目度が上がった状況です。

 
 

スペシャリスト型へ視点を変えて「いい人材」の採用につなげる


――ジョブ型雇用への関心の高まりを受けて、シニア世代と企業側それぞれが意識するべき点はなんでしょうか。
 
質問にお答えする前に、メンバーシップ型雇用が普及した背景をお話しますね。日本は戦後経済を強力に推進するため、大量の労働力を確保する必要がありました。それには企業が従業員を一括採用し、長期的に育成するシステムが適していたのです。シニアはこうした時代背景のもとで働いていた世代です。長期的に同じ会社で働くことが前提だったので、1つの特化した専門スキルを磨くよりも、広い範囲で役立てられるスキルを身に付けることが求められてきたのです。
 
そのため、自分の能力についてじっくり考える機会がなかった人もいるでしょう。シニア世代は、まず自分の能力を整理して理解する必要があります。
 
一方の企業側も、ゼネラリスト育成型から変わらなければいけません。会社がこの先どこに向かっていくかを考えた上で、どのようなスキルを持つ人材が必要なのかを明確にして、採用活動を行うのです。長年の慣行を変え、スペシャリストを雇用する方向へ視点を移していく必要があります。
 
――スキルのマッチングがジョブ型への第一歩になるのですね。
 
そうです。たとえば、ITスキルという観点で考えてみましょう。1980〜1990年代にIT産業が大きく成長しました。今の70歳前後の人の中には、IT関連企業で働いていた人も多くいます。IT人材を採用したい企業はそのような時代背景を理解した上でスキルに焦点を絞れば、自ずとシニア世代もターゲットになるはずです。
 
ターゲティングを行い個人のスキルを見極めていけば、シニアの中からもいい人材の採用につなげることができます。最新技術を持っていなかったとしても、素養があるのですから飲み込みは早いでしょう。特に、ITスキルを持った人材が不足している小規模企業は、有望な人材に出会えるのではないでしょうか。
 
シニア世代側も自分の能力を整理して、示すことが重要になります。そうすれば合意した担当職務に沿って働けるので満足度が高く、採用後のミスマッチが起こりにくい。双方にとっていいですよね。

 
シニア世代と一緒に働く男性従業員の様子

 
 

シニア人材採用の課題は、企業からの発信情報がうまく届いていない点


――自社にマッチしたシニア人材を採用するために、人事・採用担当者はどのように求人活動を進めたらいいでしょうか。
 
お話した通り、企業はまずどういった人材が必要なのかスキルの観点から考え直す必要があります。その後は募集要項へと落とし込み、求人サイトへ掲載する企業が多いでしょう。
 
ただ、それは良い方法なのですが、シニア世代にはインターネットを使った求職活動に慣れていない人もいます。自治体や新聞社などが開催する合同説明会への出展などリアルな場を活用する方法もありますが、コロナ禍では難しいですよね。シニア世代との新たなマッチングシステムがあればいいと思うのですが、簡単に作れる仕組みではありません。ネット上で発信する求人情報は思っているほどシニア世代に伝わっていないのが課題ですね。
 
一方で、趣味の仲間や友人との交流にSNSを利用するシニア世代は増えています。LINEやFacebookを楽々と使いこなす人は多いですよ。Facebookに過去に勤務していた会社や職務経歴を載せている人もいますから、そういう人に対して個別にアプローチを試みる方法もあります。
 
シニア世代は自分からネット上の求人情報を見に行く習慣がないことをまず理解して、人事・採用担当者は若い世代とは違ったアプローチ方法を検討することが必要です。
 
――求人サイトの利用と並行して、シニア世代に特化した手段を取ることも有効なのですね。このほか、松本さんが考えるシニア人材採用を成功させるポイントはありますか。
 
お互いにマッチするかどうかを判断するため、数カ月間の試用期間を設けて見極めるのがいいかと思います。それをテレワークで行えば、PC操作やコミュニケーションのスキルを同時に見ることができますよね。
 
企業は従来型の雇用スタイルにとらわれるのではなく、広い視野を持って新たな人材活用への転換を検討してみてください。スキルと意欲を持つシニア世代の活用はそのひとつです。
 
※記事内の情報は2021年1月時点のものです。

 
 
 

<取材先>
松本すみ子さん
有限会社アリア代表、NPO法人シニアわーくすRyoma21理事長、シニアライフアドバイザー、キャリアコンサルタント。シニア市場に関するアドバイスやコンサル、行政などのシニア向け講座の企画・運営・講師、シニア世代の取材や執筆活動を行う。著書に『55歳からのリアル仕事ガイド』(朝日新聞出版)、『定年後も働きたい。人生100年時代の仕事の考え方と見つけ方』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)などがある。
 
TEXT:合戸 奈央
EDITING:Indeed Japan + ノオト

 

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