シニア採用の準備と求人方法
――これからシニア採用をする中小企業は、どんなことから取り組めばよいのでしょうか。
まずは自社が今、どんな人材を求めているかをしっかり認識しましょう。私はシニア世代の求職者に、「スターティングノート」という自己分析方法を指導しています。「スターティングノート」は、今までの生き方を検証し、いったん区切りをつけて、新たな気持ちでこれからの仕事や人生に前向きに取り組むためのものです。
- 過去を分析する
- 現状を見つめる
- 意思確認
- 今後の人生のシナリオと行動プラン作成
上記の4項目について、パソコンやノートを使って自由に書き出し、自身の経験やスキルを振り返ってもらっています。この作業は、企業側も採用活動における自社分析に不可欠です。分析することで浮かび上がった自社が必要とするシニア人材像には、どのようなスキルが求められるのか? そこに焦点を当てた求人を検討してみてください。
――希望する人材像が見えてきたら、次にするべきことはありますか。
シニアという先入観を持たずに、個々の人材のスキルや経験、人柄をきちんと見るようにしましょう。年齢が高くなるほど、個人差は大きくなります。元気で意欲的な70代もいれば、それよりも若いけれど意欲的ではない人もいますから。採用はじっくり時間をかけて行うことが重要です。1~3カ月程度の試用期間を設けて、その間に見極めるのも一つの方法でしょう。
――個々のスキルや人格とは別に、その世代に共通する特徴などは、一通り予備知識として知っておいたほうがいいのでしょうか?
明確に区分されているわけではありませんが、シニアといえど50代、60代、70代では生きてきた時代背景が異なります。人は時代の動きや文化の影響を受けながら成長し、価値観が作られていきます。ですから、求めるシニア世代がどのような時代を経て、どのような影響を受けて今の価値観を持つようになったのかを理解すれば、働く意欲の源を知ることにもつながるでしょう。まずは現代史として、シニア世代のバックグランドを学ぶのもいいかもしれません。
それが難しければ、シニア世代が集まる勉強会やNPOなどに参加してみるのもよいでしょう。シニアライフアドバイザーや健康生きがいづくりアドバイザーの資格取得講座などを受講して、シニア世代の現状と本音を知り、交流を図ることも有効です。最近は、企業の人事担当者がこうした資格取得講座を受講する例も増えています。
――シニア世代を理解することで、効果的な求人方法を見つけることができるのでしょうか。
できると思います。インターネットを使って人材募集をする企業が多いのですが、ネットの利用に不慣れなシニアにはなかなか伝わりにくいのが現状です。シニア世代は、若い世代のように自分から求人を見に行く習慣がないので、メールマガジンのように直接本人に求人情報を届ける仕組みが必要ではないかと思います。LINEやFacebookはシニア世代にも普及しているSNSなので、これらを活用するのも一案でしょう。
ネット以外の方法では、新聞が効果的です。昔は新聞に求人がたくさん掲載されていました。現代でも、シニア向けの求人欄を1ページくらい割いて作ればいいのに、と個人的に思っています。アナログ手段はまだシニア採用においては重要です。合同説明会のように、直接シニアが企業の話を聞ける機会を作ることも有効だと思います。
シニア採用における面接のチェックポイント
――続いて、シニア求人の選考プロセスについて質問をさせてください。シニア人材の書類選考では、どのような項目をチェックすればよいでしょうか。
履歴書に書かれた内容や文字の具合で、意欲や人柄が推察できます。最も大事なのは、志望動機です。自社が求める人材像を理解して応募しているか、内容から見極めることができます。ですので、就職活動をするシニア世代には「志望動機に力を入れてください」と指導しています。
また、履歴書と一緒に職務経歴書を必ず出してもらいましょう。これまでのスキルや実績を知ることができますし、パソコンで履歴書や職務経歴書を作っていれば、だいたいのパソコンスキルもわかるでしょう。しかし、それを本人が作ったかどうか、使い回しではないかの判断は難しいところですが。
――シニア採用の面接で、必ず聞いておくべき質問はありますか?
必要なスキルを確認するのはもちろんですが、なぜ定年後も働きたいのかを聞くのは必須です。働く意欲があるか、協調性があるか、年齢や性別に関係なく話ができる人かなど、これらを重点的に評価しましょう。また、シニアは人生経験が豊富ですから、趣味など仕事以外の関心ごとに言及すれば、個性や人柄を知るきっかけになります。
――業務内容などからシニア世代の健康状態や体力面に不安を感じる場合、選考時に確認をしていいのでしょうか。また確認する場合どのように聞くべきでしょうか。
プライベートな部分に深く触れるのはよくありませんが、健康状態をさりげなく聞くのは構わないと思います。自治体の定期健康診断を毎年受けているかどうか聞くのは、一つの方法です。年齢を考えれば、身体の不調は珍しいものではありません。シニア世代の中には、正直に言うことで損をすると考える人もいますが、隠して働くのはお互いにとってよくありません。シニア人材の面接訓練では、健康状態の伝え方も指導しています。
一方で、採用側も多少健康面に不安があろうと、求める人材であれば自社のサポート体制を用意して、シニア世代を受け入れる努力が必要です。そうした採用側の行動が、求職者に安心感を与えて働く意欲を向上させますから。
シニア世代に会うことが人材活用の一歩
――これからシニア採用に取り組む中小企業の採用担当者に向けて、最後にアドバイスをお願いします。
自分のスキルや経験を生かす機会を見つけられずにいるシニア世代が、日本にはたくさんいます。年齢だけで判断され、個々の能力を見てもらえないのが現状なのです。採用担当者のみなさまは、様々な機会を利用して、一人でも多くのシニア世代に実際に会ってみてください。
これからの時代は、シニア社員の活躍によって予想外の新たな事業プランが生まれ、会社が大きく成長する可能性はあるはずです。働き手としてのシニア世代を理解し、自社でどのように活躍してもらえそうか考えることが、シニア人材活用の一歩になるでしょう。
そして、いずれは誰もがシニアになります。自分がそうなった時に、どんな状態になるか、自分のこととして考えてみることが大切です。
<取材先>
松本すみ子さん
有限会社アリア代表、NPO法人シニアわーくすRyoma21理事長、シニアライフアドバイザー、キャリアコンサルタント。シニア市場に関するアドバイスやコンサル、行政などのシニア向け講座の企画・運営・講師、シニア世代の取材や執筆活動を行う。著書に『55歳からのリアル仕事ガイド』(朝日新聞出版)、『定年後も働きたい。人生100年時代の仕事の考え方と見つけ方』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)などがある。