採用選考の基本的な考え方
まずはNG質問を判断するために採用選考の基本的な考え方を確認していきましょう。
厚生労働省では、採用選考において以下2点を基本的な考え方としています。これに従って、雇用条件・採用基準に合ったすべての人が応募できるよう、雇用者は「公正な採用選考」を行うことが求められます。
- 基本的人権を尊重する
- 応募者の適性、能力のみを基準とする
「公正な採用選考」をしよう
そのため、応募者の適性・能力とは関係ない事柄で採否を決定してはいけません。具体的には、家族状況や生活環境といった、直接業務に関わりのない個人情報です。
これらの個人情報は、知ることで就職差別につながるおそれがあり、原則的に収集が禁止されています。
「応募者が、求人職種の職務遂行上必要な適性・能力を持っているかどうか」という公正な基準で採用選考を行うことが必要です。
聞いてはいけない質問
では、「公正な採用選考」を実施するためにはNGとなる質問を、理由別に以下に挙げていきます。
◆本人に責任のない個人情報に関する質問
・本籍・出生地に関する質問
「お生まれはどちらですか?」
「現住所は本籍地と同じでしょうか?」
適性・能力に関係がなく、出身を判断基準にした社会的差別や就職差別につながるおそれがあります。
・家族に関する質問
「ご両親はどちらにお勤めですか?」
「ご兄弟は何人いて、何をされていますか?」
家族構成やその職業、資産状況などは本人の適性・能力に関係のない情報にあたります。この情報を基準として採用・不採用を判断することは就職差別につながるおそれがあります。
・生活環境や家庭環境に関する質問
「ご家族同居ですか? 一人暮らしですか?」
「ご実家は一軒家ですか?」
本人の適性・能力に関係のない情報ですが、この情報をもって人物を評価しようとする考え方に結びつくおそれがあります。
◆思想・信条にかかわる事項の把握につながる質問
思想・信条にかかわることは、本来自由であることを憲法で保障されています。
「宗教」「支持政党」「人生観・生活信条」
「尊敬する人物」「思想」「購読新聞・雑誌・愛読書などに関すること」
「労働組合(加入状況や活動歴など)、学生運動などの社会運動に関すること」
これらを採否の判断基準とすることは、憲法の「思想の自由」「信教の自由」の精神に反することとなりかねません。
「お葬式の宗派は?」
「前回の選挙ではどの政党に投票しましたか?」
「尊敬する人物とその理由は?」
などの質問は、基本的人権の侵害となる場合があります。
もしNG質問をしてしまったら?
個人情報や人権に関わる質問をしてしまったことで、面接後に応募者からクレームが入る可能性も考えられます。また、違反行為があったと認められると職業安定法に基づく行政指導や改善命令の対象となり、罰則(6ヶ月以下の懲役または30万円以下の罰金)が課せられる場合もあります(職業安定法第5条の4及び平成11年訓示第141号)。
たとえば、面接で話題作りのために「好きな本は何?」「家族はどんな人?」などと、自覚なくNG質問をしてしまったケースを考えてみます。
その場で気づくことができたなら、すぐに「不適切な質問だったので返答の必要はない」という意思を伝えましょう。その場では気づかなかった場合、できるだけ早く応募者に連絡をとり、謝罪の意思を伝えた上で採否に影響させない旨を伝えましょう。
どちらにしても、このような事態が発生しないように、事前に質問をよく検討しておくことが重要です。
いかがだったでしょうか。ここまででご紹介したように、採用選考時にNG質問をしてしまうことで就職差別につながったり、場合によっては指導や罰則などがあります。また、このことに気をつけて面接をしないと、企業の評判を下げてしまう恐れもあります。面接官を担当するスタッフに人事・採用担当者から注意を促しましょう。
参考文献:
厚生労働省「公正な採用選考の基本」:
https://www.mhlw.go.jp/www2/topics/topics/saiyo/saiyo1.htm
厚生労働省 事業主啓発用パンフレット平成31年度版「公正な採用選考をめざして」
職業安定法第5条の4及び平成11年訓示第141号