個人事業主でも人材を雇用することは可能
個人事業主でも、一時的に外部へ作業を依頼するといった「外注」だけではなく、時間や場所を定めて働いてもらう「雇用」をすることもできます。
「外注」と「雇用」の大きな違いは、時間の概念です。「外注」は、お願いした業務を期日までに行ってもらい、納品された成果物に対して報酬を支払います。1日のうち何時間をお願いした作業に割いたかどうかは重要ではありません。一方で「雇用」は、お願いした業務を決めた時間に行ってもらい、働いた時間に対して報酬を支払います。そのため、想定した時間より早くメインの業務が終われば付随した業務もお願いできる反面、時間が延びればその分報酬の支払いも増えるといった点で、外注と大きく異なります。
個人事業主が人材を雇用したら行うべき手続き
いざ雇うことになった場合は、次の4つの手続きが必要です。
◆労働条件の通知
雇用する際、雇用主は次の項目について必ず労働者に明示し、書面を交わすように労働基準法で定められています。厚生労働省が公開している「労働条件通知書」の書式を利用すれば、項目の漏れを防ぐことが出来るでしょう。
- 契約期間に関すること
- 期間の定めがある契約を更新する場合の基準に関すること
- 就業場所、従事する業務に関すること
- 始業・終業時刻、休憩、休日などに関すること
- 賃金の決定方法、支払時期などに関すること
- 退職に関すること(解雇の事由を含む)
ただし、労働者側が希望した場合に限り、FAXやメールでの交付も可能です。退職手当や賞与などについては、支給することを定めた場合に限り、明示することが求められています。
労働条件を定めた書類については、従業員の退職から3年間の保管義務があることもあわせて覚えておきましょう。
◆労働保険、社会保険の手続き
「労災保険」と「雇用保険」のことをまとめて「労働保険」といい、「健康保険」と「厚生年金保険」をまとめて「社会保険」と呼びます。
この中で、一人でも雇った場合、必ずやらなければならない手続きが「労災保険」です。雇用して10日以内に「労働保険関係成立届」、雇用して50日以内に「労働保険概算保険料申告書」を労働基準監督署へ提出する必要があります。
「雇用保険」については、1週間に20時間以上、31日を超えても雇用する見込みがある人を雇う場合は「雇用保険適用事業所設置届・雇用保険被保険者資格取得届」をハローワークへ提出する必要があります。該当した人が退職した場合は、「雇用保険被保険者資格喪失届」「離職証明書」の提出も必要です。この書類を提出することで、雇用されていた人はいわゆる失業保険(雇用保険の基本手当)を受け取ることができます。
「社会保険」の2つに関しては、個人事業主で従業員5人未満の場合、加入は任意となっています。5人以上になると必ず加入しなければなりません。その場合は、雇い主と従業員それぞれ給与の14~15%にあたる保険料を負担することになります。
なお、労働保険、社会保険の手続きは社会保険労務士に委託することが可能です。
◆税務署への届け出
初めて人を雇用する場合は、税務署に「給与支払事務所等の開設届出書」を提出する必要があります。こちらの届け出に関しては、税理士にお願いすることも出来ます。
個人事業主の開業とあわせて雇用する場合は、開業届に雇用する旨を記載すれば、「給与支払事務所等の開設届出書」を提出する必要はありません。
◆源泉徴収の準備
雇用したら、従業員に「給与所得者の扶養控除等(異動)申告書」を毎年記入して提出してもらいます。この申告書を元に、雇用主は毎月、源泉徴収税の金額を計算、天引きして、税務署へ納める必要があります。
しかし、毎月計算して納税するのは手間が多いもの。あらかじめ税務署に「源泉所得税の納期の特例の承認に関する申請書」を提出しておくことで、半年に1度まとめて納付することができるので、雇用した場合は提出しておきましょう。
ほかにも必要な作業とは
人を雇用した場合、上記の手続きのほかに、事業規模に関わらず「法定三帳簿」の管理も求められます。「法定三帳簿」とは賃金台帳、労働者名簿、出勤簿のことです。労働基準法では、これらを一定期間保管することが求められており、罰則も設けられています。各種手続きと合わせて、「法定三帳簿」の作成も忘れないように行ってください。
※記事内で取り上げた法令は2021年12月時点のものです。
<取材先>
うたしろFP社労士事務所 社会保険労務士 歌代将也さん
TEXT:ミノシマタカコ
EDITING:Indeed Japan + ノオト