そもそも人材育成とは
人材育成とは、企業が自社の戦略や将来的なビジョンを明確に定めた上で、従業員に行う様々な働きかけを指します。
企業が人材育成に着目する背景には、次のような社会変化への対応があると考えられています。
- 少子高齢化などによる人手不足
- 働き方改革によるさらなる生産性向上の必要性
- 変化し続ける社会ニーズに永続的に対応するための組織力強化
など
人材育成で企業が抱えやすい課題
人材育成で企業が直面しやすい課題は、以下の3つです。
◆人材育成のための時間的リソース不足
短期的業績を目的とした活動に重点を置き過ぎてしまい、人材育成のための時間的リソース配分がうまくいかないケースです。そのため、必要性は感じながらも中長期的な取り組みである人材育成が後回しになったり、おろそかになったりしてしまいます。
◆キャリア開発に対する従業員自身のモチベーションが上がらない
従業員自身が、成長よりも現状維持を求める傾向も多くみられるようになっています。
◆職場でのOJTが機能していない
前述した2つの課題により、OJTが機能していない職場が増えています。従業員が仕事を通じて成長することが難しくなるため、年次とともに成長が鈍化するなどの悪循環も生じます。
それぞれの課題の解決のポイント
◆課題別の解決ポイント
まずは、課題ごとの解決策を紹介します。
・人材育成に割くリソース不足の場合
人材育成は中長期的に取り組むものです。すぐに結果を求める施策と同時並行で行うためには、双方にかける人員や時間のバランスが肝心です。
まずは、人材育成を担当する予定のスタッフが現在受け持っている業務を以下の4つのを基準に振り分けましょう。この作業をチーム単位で行うか個別に行うかは、業務内容や働き方によって異なります。
この場合の「重要」とは、「その人への期待役割か、その人でないとできない仕事なのか」「必要な成果につながる仕事なのか」などを指します。なお人材育成担当者にとって、人材育成は「中長期で重要な仕事」に該当します。
業務内容を上の4つで割り振った結果、「短期で重要な仕事」に極端に偏り「中長期で重要な仕事」に取り組むことができていない状況となっている場合は、ここからさらに仕事の振り分けを検討します。「短期で重要な仕事」の内容を精査し、仕事の割り振りを変える、会議を減らすなど削減できる部分を検討します。
このようにして、人材育成に費やせる時間を生み出します。
◆キャリア開発に対する従業員自身のモチベーションが上がらない場合/職場のOJTが機能していない場合
成長を促すために、企業または現場で、次のようなモチベーション施策を行う必要があります。
・企業が、従業員が困っていること(モチベーションがあがらない要因)を把握する
社内サーベイを使い、従業員が困っていることなどを具体的に聞く方法などがあります。
・職場の心理的安全性を高める取り組みをする
マネージャー層が定期的に1on1ミーティングを設定するなどして、従業員が安心して提言や相談などをできる環境を整えます。
・若手中堅社員に向けたリーダーシップ開発研修を実施する
この場合のリーダーシップとは、「一人ひとりが自分の持ち味や強みを生かして主体的に働き、他者やチームに貢献する」ことです。研修では、参加者との対話を通じて、自分の価値観や強みを明確にします。自分らしく働いて組織に貢献できる考え方などを学ぶことで、成長へのモチベーションの向上につながります。
・マネージャー層の人材育成(キャリア支援)スキルを強化する
若手中堅社員がリーダーシップ研修で培ったことを生かせるよう、部下の潜在能力を尊重し、引き出すための支援スキルの習得・発揮が求められます。研修などのトレーニングを通じて身につけましょう。
◆全体的な解決ポイント
個々の課題の解決策を講じるとともに、そうした課題のベースとなっている組織のあり方や風土の見直しも必要です。とはいえ、風土は長い期間をかけて定着するため、すぐに変えることは容易ではありません。外部の研修を活用するなどして、新しい価値観に触れながら新陳代謝を続けることが大切です。
また、前述したような研修などを人材育成施策に組み入れ、従業員一人ひとりがリーダーシップを発揮できるようにすることは、すべての課題において有効です。
人材育成の種類と選び方
◆人材育成の種類と選び方
・OJT
実際の職務現場で、仕事を通じて上司や先輩が部下・後輩を指導する方法です。言葉やマニュアルなどで伝えることのできる「形式知」はもちろんのこと、概念化されていない“勘”や“コツ”といわれる「暗黙知」もOJTを通して伝えられます。特に「暗黙知」はOJTでなければ伝達・開発することは困難であると考えられています。
・OFF-JT
OJTでは習得できない能力を身につける方法です。職場から離れた環境で行う研修に加え、Webラーニングや関連書籍を読むなど様々なアプローチがあります。OJTで学んだことの振り返りもOFF-JTに含まれます。
研修を通じて他部門や外部の人材と交流できるため、他者と経験を共有し視野が広げられるなどのメリットがあります。
◆人材育成方法の選び方
OJTとOFF-JTには相互補完的な役割があるため、両者を組み合わせるのも有効です。人材開発の担当者は、組織方針との整合性を図りながら、「誰に、どのタイミングで、何をどう行うか」を中長期的な視点で組み立てることが重要です。
オンラインツールを活用してOFF-JTなど研修を行う機会も増えていますが、オンライン環境が十分に整っていない企業もあります。環境整備に加え、継続的な業務プロセスの見直しなどを行いながら、人材育成の課題解決を目指しましょう。
<取材先>
株式会社日本能率協会マネジメントセンター シニアHRMコンサルタント 永國幹生さん
TEXT:畑菜穂子
EDITING:Indeed Japan + 南澤悠佳 + ノオト