研修期間と試用期間とは
労働者が仕事のスキルを学んだり、労働者の適性を見極めたりすることを目的に、「研修期間」や「試用期間」を設けている企業は少なくありません。どちらも法的な決まりはないため、内容や期間は企業が独自に決めて問題ありません。ただし、これらの制度を設ける場合は、きちんと就業規則等に定めておくことが重要です。
◆研修期間
目的:労働者のスキルの学習と習得(本採用後に労働者に業務上必要なスキルを身につけさせるための期間)
内容:通常業務とは別の研修プログラムなどを実施
期間:一般的に数週間〜3カ月程度(専門性が高い職種は長い傾向にある)
◆試用期間
目的:企業が労働者の適性を見極める(本採用前に労働者の業務態度やスキルをチェックし、本採用の可否を判断するための期間)
内容:ほかの労働者と同様の通常業務
期間:一般的に3カ月〜6カ月
最低賃金とは
「最低賃金」とは、最低賃金法に基づき国が賃金の最低限度額を定めた制度です。最低賃金は都道府県ごとに異なります。企業は事業所を置く地域で決められた最低賃金額以上の賃金を、労働者に支払わなければなりません。
最低賃金は、時給によって示されています。月給制や日給制による契約であっても、時間給に換算した時に最低賃金を上回っている必要があります。
最低賃金を下回っている場合の罰則
最低賃金を下回る額の賃金を支払っていた場合、最低賃金法第40条により、50万円以下の罰金が科せされます。
最低賃金法を遵守するのは企業の義務です。たとえ、労働者の合意を得たうえで最低賃金以下の賃金で労働契約を結んだとしても、最低賃金法第4条(最低賃金の効力)により、無効となるので注意してください。
また、同条は最低賃金が引き上げられた場合にも有効になります。労働契約書の内容にかかわらず、自動的に最低賃金は更新されます。故意はもちろんですが、引き上げ変更を知らずに以前の最低賃金を支払っていた場合でも、認識した時点で、速やかに差額の未払い分を支払いましょう。
ちなみに、最低賃金法第7条には「最低賃金の減額の特例」が定められています。都道府県労働局長の許可を受けることで、個別に最低賃金の減額が認められる制度です。最低賃金を一律に適用することが、かえって雇用機会を狭めることにつながる可能性もあるため、次の労働者に限り同条が適用されます。
◆最低賃金の減額の特例が適用される労働者
- 精神または身体の障害により著しく労働能力の低い方
- 試用期間中の方
- 基礎的な技能等を内容とする認定職業訓練を受けている方のうち厚生労働省令で定める方
- 軽易な業務に従事する方
- 断続的労働に従事する方
(引用:厚生労働省 最低賃金の適用される労働者の範囲より)
最低賃金の減額の特例を受ける場合、「最低賃金の減額の特例許可申請書」(1〜5別の所定様式)を2通作成し、所轄の労働基準監督署長を経由して都道府県労働局長に提出します。
ただし、認められるケースのほとんどは1であり、減額特例はほぼ許可されないのが実情です。
研修期間や試用期間と最低賃金の関係
期間中、通常雇用と同額の給与を支給するのが一般的ですが、低く設定しても法的に問題はありません。ただし、最低賃金を下回る賃金設定は違法です。研修期間や試用期間中も、最低賃金法は適用されます。
また、労働時間が法定労働時間を超えた場合や深夜労働が生じた場合も、通常雇用同様に時間外労働割増賃金(残業代)や深夜労働割増賃金の支払いは生じます。
研修期間や試用期間を設ける際の注意点
法的な決まりはないとはいえ、期間は適切に設定してください。通常雇用と比較し、期間中の労働者の身分は不安定な立場にあります。過去の裁判において、常識論として長くて1年という判例も出ています。内容はもちろん、他社のケースなども参考にして期間を決めるとよいでしょう。
試用期間については、2018年に施行された「改正職業安定法」により、求人時にはその有無と期間の明示が必須になりました。試用期間と本採用後の労働条件(給与など)が異なる場合は、それぞれの条件も記載する必要があります。
すでに労働契約は成立しているため、労働保険や社会保険についても例外は認められていません。期間中であっても加入は必須です。このように、研修期間や試用期間中であっても通常雇用と同様に、最低賃金法をはじめ各種法令が適用されるので留意しましょう。
※記事内で取り上げた法令は2021年11月時点のものです。
<取材先>
社会保険労務士法人 岡佳伸事務所 代表 岡佳伸さん
TEXT:塚本佳子
EDITING:Indeed Japan + 南澤悠佳 + ノオト