アルバイト講師が不足する原因は?
――学習塾業界では人手不足が続いているようです。いったいなぜ、塾講師が足りないのでしょうか?
塾講師の人手不足は、個別指導塾の増加が影響しています。かつて学習塾業界は「集団指導塾」がメインの市場で、1人の講師が10~30人くらいの生徒を受け持つビジネスモデルでした。しかし、約20年前から「個別指導塾」が徐々に増加し、いまや市場の半分を占めるほどになりました。個別指導塾では1人の講師が1~3人の生徒を指導するため、それだけ講師の数も必要になってしまうのです。
もちろん大手の学習塾には正社員の講師もいますが、実情はほとんどが大学生のアルバイト講師に頼らざるを得ません。しかも少子化で、大学生の人数は年々減っています。
――個別指導が主流になることで講師の需要が増加するなか、学生アルバイトの数が足りていないわけですね。
もう一つ、人手不足の理由として挙げられるのが、労働時間の問題です。数年前、とある大手学習塾が労働基準監督署から是正勧告を受けました。その原因は、多くの個別指導塾で採用されている「コマ給」制度によるものです。
「コマ給」とは、授業時間のみに対して賃金が支払われるシステムのこと。現実的には、授業前に準備をしたり授業後に報告書を記入したりと、実際の授業以外に業務が発生します。しかし、その分の給料は発生しません。いわば「タダ働き」となってしまうのです。
――授業時間分しか給料が支払われないとなると、講師は不満が溜まりますね。
慣れている講師であれば、準備や報告書にそれほど手間をかけずに済むかもしれません。しかし、実際には事前準備に30分、授業後の報告書記入に30分、合計1時間くらいはかかってしまうケースが多いのです。
結局、コマ給の問題は、ブラックバイトユニオン(労働組合)などから「違法ではないか」と指摘されたことで、ある程度は是正されました。具体的には、授業とは別の「事務給」という形で給料が支払われるようになったのですが、まだ改善されていない学習塾も残っているようです。
さらに、ブラック的な体質として度々指摘されるのが、夏休みや冬休みの特別授業による問題です。
――「夏期講習」「冬期講習」といわれるような、集中型の授業ですね。塾講師にどのような影響があるのでしょうか?
夏休みや冬休みは、生徒にとっては集中して勉強できる良い機会です。しかし、アルバイト講師も大学の試験やゼミの合宿、帰省など、いろんな事情があるでしょう。労働者側からすると、「休みが欲しい」と要望するのは当たり前のことです。
一方で、塾の経営者にとっては重要な時期であり、講師がいないと授業が成り立たず困ってしまいます。そこで、大学生のアルバイト講師に暗黙のプレッシャーをかけたり、半ば強制的に働かせたりしてしまうのです。
塾で学んでいる生徒の需要と、アルバイト講師の要望を天秤にかけた場合、経営者としては生徒の都合に合わせざるを得ません。そこが大きなネックになっています。
――アルバイト側の要望が通りにくいことが、塾講師を敬遠する原因の一つになっているということですね。では、正社員の講師についてはいかがでしょうか?
正社員の講師においてありがちな問題は、働く時間が夜型になってしまうことです。生徒が学ぶ時間は、夜の19時から22時あたり。もし結婚して子育てをする家庭環境になったとしても、パートナーが夜ずっと家にいない状況になります。
独身の間は、とくに問題なく働いている人が多いでしょう。しかし結婚して家庭を持つと、夜型の働き方に対してパートナーに文句を言われる、子育てに協力できないなどのトラブルが発生します。家庭内での理解が得られず、やがて離職へと繋がってしまうのです。
「教えるだけの塾」から、「成果にコミットする塾」へ
――今後、学習塾業界はどうなっていくのでしょうか。課題と展望について、ご意見をお聞かせください。
塾業界は明らかに教室数が増えすぎてしまったため、適正な品質を維持できている法人が少なくなっています。一例を挙げると、担当している生徒の成績を把握しきれていないという問題。ただ授業をやっているだけで、生徒の成績が上がっているかどうか、データ化されていないのです。
たとえば中1の2学期から、偏差値50の生徒が入塾したとします。もし中3になっても偏差値50のままであれば、成果が出ていないことになりますよね。本来であれば成績アップの計画を立て、ちゃんと達成したかどうかを確認するべきでしょう。しかし実情は、そこまでできている塾は少ないのです。
――それは人手不足により、講師側のキャパシティーが足りなくなっているからでしょうか?
もちろんそれもあるでしょう。ほかにも「講師の意識が低い」「そもそも社員から指導を受けていない」など、さまざまな理由が組み合わさっていると考えられます。
本来は学校の中間テスト、期末テストを生徒たちに持ってこさせ、データベース化しなければいけません。しかしそれを怠ることで成績の把握ができず、ただ授業をこなすだけになってしまっているのです。
一方で、「絶対に成績を上げます」「合格実績ナンバーワン」と成績アップを保証し成果にコミットしている塾もあります。今後はそういった塾だけが生き残っていくでしょう。
――結果が出せない塾はどんどん淘汰されていく、ということですね。
個別指導塾は多くの場合、集団授業を行う塾より費用が高くなります。それで成果が出ないとなると、生徒は離れていってしまうでしょう。実際、ここ2、3年は塾生の退会率がかなり上がっています。
教室数が増え、現場の指導レベルが下がっている一方で、少子化が進み生徒数自体は減少していきます。品質の低い塾からきちんと結果を出せる塾へ生徒が流れていってしまう状況は、これからますます進んでいくでしょう。
生徒のモチベーションを上げられるかどうか
――塾の経営を続けていくためには、能力の高い講師が必要ですよね。どういった人材が塾講師に向いているのでしょうか?
理想は、社交性およびコミュニケーション能力が高く、責任感が強い人です。学力の高さはそれほど重要ではありません。子どもたちのやる気を引き出し、導いてあげられる人が塾講師に向いていると思います。
――必ずしも、「学力の高い大学生=塾講師に向いている」というわけではない、と。
学力の高さが重要かどうかは、教える相手によって変わってきます。高校生向け、つまり大学受験の授業を担当する講師は、やはり学力が高くないと務まりません。最近の予備校は映像授業にシフトしており、レベルの高い講師の授業を見せ、現場の教室では見張り役のような管理者をおくシステムへ移行しています。
一方、中学生向けの個別指導塾であれば、学力にこだわる必要はそれほどありません。とにかく成績をアップさせないと意味がないため、生徒のモチベーションをうまく上げられるかどうかが大きなカギとなります。
塾を経営する側から考えると、大学生にこだわらず、コミュニケーション能力の高い人材を幅広く発掘していく努力が必要だと言えるでしょう。
<取材先>
株式会社船井総合研究所 犬塚義人さん
船井総合研究所における、学習塾・専門学校・カルチャースクール・資格スクール業専門のコンサルタント。船井総研内のスクール・教育業分野のコンサルティングチーム「スクール高等教育グループ」のグループマネージャーをつとめている。
船井総合研究所/スクール経営コンサルティング
https://www.funaisoken.co.jp/smart_plan/school/
スクール業界、学習塾業界の最新動向/犬塚義人のブログ
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TEXT:村中貴士
EDITING:Indeed Japan + ノオト