長く働いてくれる保育士を見抜く面接術。離職率を改善するには?


保育業界は、他の業界と比べて離職率が高いと言われています。保育士不足を解消するためには、離職の原因を探るとともに、適した人材を採用しなければいけません。採用面接で長く働いてくれる保育士を見極めるには、どのような質問をすれば良いのでしょうか。
 
すぐ辞めてしまう人にありがちな言動や面接前後に実施すべき施策について、保育園・こども園向けにコンサルティングを行う株式会社船井総合研究所保育・教育支援部の伊藤沙穂理さんが解説します。

 
 

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給料や仕事量、人間関係……保育士の離職理由


――まず保育士の離職率について、教えてください。
 
厚生労働省が2015年に発表した資料(2015年12月4日:第3回保育士等確保対策検討会『保育士等に関する関係資料』)によると、保育士の離職率は全体で10.3%、うち公営保育所が7.1%、私立保育所が12.0%となっています。ここでいう離職率は、全勤務者のうち1年間で退職した人数の割合を指しています。また保育士の経験年数については、経験の浅い層が多く、7年以下の保育士が約半分を占めています。
 
――ベテランの保育士が少ない、ということでしょうか?
 
そうですね。産休・育休制度など、働く人に対するサポートがあまり進んでいない業界なので、妊娠・出産とともに辞めてしまう保育士が多いのです。そのため、経験年数の浅い人だけが残ることになります。また、「他人の子どもより、自分の子どもをちゃんと育てなければ」という意識が辞める理由に繋がることもあるので、出産後は復職せずに専業主婦になる傾向がやや高いのかもしれません。
 
ほかにも「給料が安い」「仕事量が多い」「人間関係が辛くなった」といった離職理由が挙げられます。原因は1つだけではなく、いろんな要素が複合的に絡み合っていると考えた方が現実的でしょう。
 
――保育園としては、なるべく長く働いてくれる人を採用したいですよね。面接ではどのような点をチェックすべきでしょうか?
 
どの業界でも言われることかもしれませんが、「転職回数が多い人はNG」としている保育園は少なくありません。たとえば、2~3年くらいで転職を繰り返している人、職種が10回以上変わっている人などです。しかし最近は、キャリアアップのために転職する人が多いので、退職理由を丁寧に聞いた上で判断する必要があるでしょう。
 
保育士不足の現状を考えると、「長く働いてくれる人を選ぶ」というより「長く働いてもらえる環境を作れているか」の方が大事です。面接する側は自分たちが選ぶ立場であると同時に、応募者から見極められる立場でもあること認識しなければいけません。

 
 

採用面接で保育観が合致するかどうかを確認


――面接では、具体的にどのような質問をすればいいのでしょうか?
 
「こういう時、あなただったらどうしますか?」といった、ケーススタディで質問するといいでしょう。たとえば、「子どもに37度5分以上の熱が出て、辛そうにしている。あなたはどうしますか?」と聞いてみます。返ってきた答えから、ディスカッションを繰り返していくのです。
 
園の保育理念や考え方を伝え、そこに共感できる人かどうか。さまざまな質問をしながら、応募者の答えと施設側が考える正解をすり合わせていく感覚で進めていきます。最近は保護者しか見ていない、あるいは経営者しか見ていない人が増えてきているようです。「第一に考えるべき対象は、子どもだよね」というような、保育観が合致するかどうかを判断するための質問を考えてみましょう。
 
――なるほど。反対に、すぐ辞めてしまう人を見極めるポイントがあれば教えてください。
 
何でも他人のせいにする他責傾向がある人は、注意が必要です。たとえば転職理由が「前の施設長にいじめられた」という内容だった場合、仮に事実だったとしても、その人にまったく非がないかどうか、きちんとヒアリングする必要があります。
 
あとは、「勤務時間が長い」など、労働環境のせいにして転職するパターンが多いですね。応募者はその環境を改善するために何か行動をしたのか、していないのか。行動した上でうまくいかなかったのか。単に逃げ出してしまったのであれば、またすぐに辞めてしまう可能性が高いといえます。

保護者と男女の保育士

 
 

面接から内定までは1日で完了させる


――面接の前は、どのようなことを準備しておけばよいのでしょうか。
 
採用担当者に一任している場合、明確な基準がないまま面接していることが多いので、きちんと条件を決めておかなければいけません。園長がチェックシートを作成し、担当者が面接の中でチェックしたうえで、きちんとクリアしている人を採用するようにしましょう。
 
「なぜこの仕事を選んだのですか?」のような一般的な質問だけでなく、「保育の中で一番大事にしているものは何ですか?」といった、業務に関する項目を細かく用意しておいてください。たとえば「お昼寝の時間はどのぐらい必要だと思いますか?」という質問。明確な理由を答えられるかどうかチェックするとともに、過去の経験・知識などバックボーンを記入するシートを作成しておきましょう。
 
実際に働く場面を想定しながら、自分たちの保育方針や職場環境とマッチしているかどうか確かめる。そのためのチェックシートが必要です。
 
――選考というより、マッチングを図る意味合いが強いのですね。では、面接後にすべきことは?
 
面接の一環で、トライアル的に働いてもらう施策を取り入れている施設があります。「実技試験」というと敬遠されてしまうので、面接後に「もしお時間があれば、1時間だけ子どもと接してみませんか?」と提案してみるのです。
 
トライアルでは、試験官がチェックするというより、保育のやり方を教えてあげたり方針を伝えたりします。もし保育経験のある応募者であれば、過去のトラブルや保育観を細かく聞き出すことができるでしょう。
 
――実技試験ではなく、保育方針を相互に確認し合う場ということですね。
 
トライアルの目的は、お互いの保育観を共有するとともに、職場の雰囲気にギャップがないかどうか、応募者に確認してもらうためでもあります。うまく合致すれば、早期退職のリスクを下げることに繋がるでしょう。もちろん強制ではなく、「働いてもらった分の謝礼はお支払いします」と伝えて、応募者が同意した場合のみ実施してください。
 
これから一緒に働く人がどんな人なのか、見極めることが重要です。と同時に、いつ新しい人が入ってきてもいいような環境をきちんと作れているかどうか、改めて見直すきっかけにもなります。
 
――面接後のフォローや内定のタイミングに関して、注意すべき点を教えてください。
 
中途採用ですぐに働いてもらう場合は、とにかくスピード重視です。面接の段階で条件面などのすり合わせを終わらせておき、すみやかに内定を出しましょう。
 
仮にその場で内定を出しても、「後日書類を郵送するので、記入して返信してください」という手順になると、それだけで敬遠されてしまう可能性もあります。良い人に出会うことを想定し、資料などをすべて事前に用意しておきましょう。
 
その場で必要書類に記入してもらうくらいのスピードで進めていかないと、良い人材をほかの保育園に持っていかれかねません。すぐに勤務できる環境を事前に準備し、面接から事後フォローまで1日で完了させる流れを構築しておくと良いでしょう。
 
新規開園の場合は、内定から実際の勤務まで期間が空いてしまいます。研修やお茶会など、人間関係を一緒に作っていく機会を定期的に設けておきましょう。応募者とのコミュニケーションを密にすれば、実際に働いた後の意思疎通がスムーズになり、離職を防ぐことに繋がります。

 
 
 


<取材先>
株式会社船井総合研究所 保育・教育支援部
マーケティングコンサルタント
伊藤沙穂理さん
 
「保育園・こども園経営.com」

https://hoiku-kodomoen.funaisoken.co.jp/


参考文献:
厚生労働省 第3回保育士等確保対策検討会『保育士等に関する関係資料』

https://www.mhlw.go.jp/file/05-Shingikai-11901000-Koyoukintoujidoukateikyoku-Soumuka/s.1_3.pdf


TEXT:村中貴士
EDITING:Indeed Japan + ノオト

 

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