サバティカル休暇とは? 導入のメリットとデメリット


昨今、大企業を中心に「サバティカル休暇制度」の導入が進んでいます。サバティカル休暇を取得した従業員は、企業に所属したまま数カ月から数年にわたり仕事を離れ、もともとやりたかった活動や研究、さらにはバケーションの時間に充てることができます。導入する企業は、どのようなことを考慮するとよいのでしょうか。社会保険労務士の寺島有紀さんに伺いました。

 
 

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サバティカル休暇は、もともと「研究休暇」「在外研究」


――あらためて「サバティカル休暇」について詳しく教えてください。
 
サバティカル休暇は、日本では一般的に1カ月から1年程度、目的の制限がない長期休暇を指すことが多いです。最近、サバティカル休暇制度を導入した大企業がニュースに取り上げられて注目を集めましたが、実は新しい概念ではありません。
 
もともとは大学教員などが、担当しているゼミや授業を離れ、一定期間にわたって自分のやりたいことを研究できる「研究休暇」として誕生した制度で、「在外研究」とも言います。私が学生時代にゼミでお世話になっていた先生も、在外研究をしていました。
 
それが企業にも取り入れられてきて、従業員がやりたかったことを実現するための機会、あるいは単にバケーション(保養、休暇)としてサバティカル休暇を取得できるケースが出てきているのです。
 
――従業員にはどんなメリットがありますか?
 
大学教員のように、組織に在籍したまま自分がやってみたかった社外活動に取り組むことができます。それまでのスキルや経験を活用して、社会貢献を目的としたボランティア活動(プロボノ)に取り組む方や、趣味で文章を執筆する方もいますね。
 
サバティカル休暇を取得した後、今の会社でどのようなキャリアを築きたいのか、またはその先のセカンドキャリアでやりたいことは何か。そういった長期的な目線を持って有意義に時間を活用すれば、自身の人材価値や生産性の向上、さらには仕事へのモチベーションアップにもつながるでしょう。また、休暇中に学んだことを休暇明けに社内へ共有すれば、周りの従業員にもノウハウが蓄積され、会社全体に良い影響を与えられるかもしれません。
 
――従業員のデメリットは何ですか?
 
休める代わりに無給になる可能性があることです。1カ月程度であれば有給休暇を適用する企業もありますが、数カ月から1年程度になると無給になる可能性が高く、生活費や活動資金などを捻出する工夫が必要になります。会社に所属している間は、無給でも社会保険料を払い続ける場合も多いですね。

 
 

エンゲージメントの向上、採用アピールに


――企業側のメリットにはどんなことがありますか?
 
企業へのエンゲージメントが上がる、つまり「やりたいことをやらせてくれてありがたい」といった感謝の気持ちから愛社精神が高まることがあります。また、一定以上の勤続年数の従業員にサバティカル休暇を適用することで、「まずは勤続◯年まで頑張ろう」といったモチベーションアップにもつながると思います。
 
さらには、人手不足の業界、特に医療や介護、保育といったエッセンシャルワーカーの方々は、休暇が取りにくい状況があり、それを理由に離職してしまうことがあります。いわゆる「潜在看護師」「潜在保育士」の方々です。人手不足だからこそいきなりサバティカル休暇を導入するのは難しいのですが、たとえば「2年働いたら1カ月のサバティカル休暇を取得できる」といった制度があれば、「そこまで頑張ろう」と辞めなくて済んだ方もいたかもしれませんね。離職率が下がる効果も期待できると思います。
 
加えて、採用のアピールにもなります。働き方が多様化している状況では、サバティカル休暇制度などによって人材を大切にしていることを伝えられれば、求職者に興味を持ってもらいやすくなります。
 
――企業側のデメリットは何ですか?
 
ある程度人数に余裕のある大企業は導入しやすいと思いますが、中小企業ではサバティカル休暇を取得した従業員が1年もいない状態で業務をまわしていくのは大変です。混乱しないためには、具体的な制度設計と事前の調整が必要です。

 
 

細やかな制度設計、6つのポイント


――制度設計で気をつけることはありますか?
 
細やかな制度設計は重要です。たとえば入社半年の従業員が「1年休みたい」となると、企業側の意図とは異なってしまうかもしれません。まずは、以下の6点を検討してください。

 

  1. 取得の要件:どういう人を対象にするのか
  2. 期間:最大何カ月休めるか
  3. 給与:無給か有給か、年次有給休暇を適用するかしないか、有給・無給を併用するか
  4. 社会保険料負担:企業が負担するか、従業員が負担するか
  5. 一時金:休暇取得に対しての一時金を支給するか
  6. その他:賞与の対象とするか、休暇期間は年次有給休暇の出勤率に入れるかどうか


取得の要件では、「勤続◯年以上」などと設定している企業があります。また、正社員だけを対象にするのか、非正規の有期雇用社員も対象にするのかといった点は、同一労働同一賃金(パートタイム・有期雇用労働法)を考慮する必要があります。これらを検討し、就業規則に落とし込んでいきましょう。
 
就業規則で制度を決めた後に、従業員への不利益変更を行うのは非常に難しいので、最初は時限的な措置、たとえば「2021年の4月1日から2022年の3月31日までの1年間」とするなど、スモールステップで取り組むことも検討しましょう。
 
新しい制度を導入するのは手間や時間がかかります。それらを省く手段として、既存の制度を活用する方法があります。実は多くの会社で「休職制度」と呼ばれる、傷病休暇や産休・育休とは別に、自己都合で休職できる制度が用意されています。たとえば、被災地へのボランティアに行きたい、語学留学をしたいなどの理由で取得することができ、サバティカル休暇とほとんど変わりません。
 
「休職」だと取得しにくいけれど、「サバティカル休暇」に名称を変えることで、従業員が取得しやすくなったり、先ほども言ったように採用のアピールになったりすることもあります。言葉の持つイメージを理解して、労務や採用に生かすことも大切な要素だと思います。

 
 

人材への投資や制度の拡充が求められている


――海外と比較した場合、日本には労働時間などにどんな背景があるのでしょうか?
 
日本人は働きすぎだというイメージもありますが、OECDが発表している世界各国の年間平均労働時間の統計データでは23位で、意外と働いていないんです。日本は祝日が多く、労働時間は週40時間制ですから。もちろん、日本は労働時間が短い傾向にある非正規雇用が全体の40%ほどを占めている点も考慮しなければなりませんが。
 
働き方改革により、私の顧問先でも如実に労働時間が減ってきている印象があります。有給休暇取得の義務化、残業規制、コロナ禍も背景にあるようです。
 
――高度経済成長期の日本では労働時間が長かったですが、変わってきているのですね。
 
働き方改革などによって労働時間を減らす近年の風潮から、サバティカル休暇という選択肢も出てきたのだと思います。
 
海外の事情を見てみると、アメリカの証券取引所や投資家は、ヒューマンキャピタルレポート(人材諸表)を重視する傾向にあります。従業員がどれだけ健康的に働けるかを、投資の判断材料とするのです。人的資本に関する情報開示のガイドラインを示した初の国際規格「ISO 30414」も発表されました。義務ではありませんが、従業員を大切にしているかどうかを「見える化」する流れは今後も続くでしょう。
 
日本でも、東証(東京証券取引所)の上場審査にはコーポレート・ガバナンスの基準があります。2020年6月に施行されたパワハラ防止法(中小企業では2022年4月から義務化)の影響も出てくるでしょう。ガバナンスの観点から、日本でも人材への投資や制度の拡充が求められる流れがあり、サバティカル休暇制度の導入も企業の選択肢のひとつになり得るのだと思います。

 
 

人生100年時代、キャリア見直しの機会にも


――定年の年齢が上がってきていて、人生100年時代と言われています。今後の労働環境において、サバティカル休暇はどんな効果をもたらすと考えますか。
 
サバティカル休暇は、シニア人材がセカンドキャリアを考える良い機会になるのではないでしょうか。2021年4月から、改正高年齢者雇用安定法により、定年を70歳へ引き上げることが努力義務となります。労働者の高年齢化の傾向はこれからも続いていくと思われます。
 
人生のなかで働く時間が増えていく日本で、たとえば50代ぐらいで「自分の働き方は本当にこのままでいいのか」と見つめ直したり、学び直したりする機会にサバティカル休暇を生かすことができます。これまで長期休暇を取得できなかった人にとっては、「人生の夏休み」のように使える可能性もありますよね。
 
企業は、年齢層や働き方の変化に合わせて、サバティカル休暇を含め、従業員を大切にするための細やかな制度導入を検討しましょう。

 
 
 
参考:
OECD『Hours worked』
https://data.oecd.org/emp/hours-worked.htm


<取材先>
寺島戦略社会保険労務士事務所代表 社会保険労務士 寺島有紀さん
 
TEXT:遠藤光太
EDITING:Indeed Japan + ノオト

 

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