就労環境を整えるポイントは「管理しないこと」? ネコメシが考える社内制度のあり方


自社の就業環境や企業文化に課題を持ち、給与体系や福利厚生の見直しを検討する会社も多いのではないでしょうか?
 
「いかに管理しないかが大事」と話すのは、Webアプリケーションの開発やサービスデザイン設計を手掛ける株式会社ネコメシの代表取締役CEO・森田雄さん。同社では、給与の一律支給や利益等分割のボーナス制度、リモートワーク導入に際する通信費や作業場所の利用料の全額負担など、独自の給与体系や福利厚生を整えています。
 
こうした制度設計にはどのような意図があり、どんな効果を感じているのでしょうか。企業側と社員側、双方の満足度を高める就労環境づくりや、運用上の工夫などについて伺いました。

 
 

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働く場所や時間を、社員が自由に選べる


——株式会社ネコメシの就業環境について教えてください。
 
2012年の設立時から、フルリモートワーク勤務を含む、自由な就業場所を前提としていました。今でこそリモートワークは一般的になりましたが、当時はまだフルリモートOKの会社は少なかったですね。当社のフルリモートは、「在宅で仕事をしてもいいよ」という意味ではなく、「あなたがいる場所がオフィスだよ」というスタンスです。そのため、カフェやコワーキングスペース、ホテルなど、好きな場所で働くことができます。就業場所について、会社がNGを出すことは基本的にありません。
 
——カフェで仕事をする場合、その利用料金は誰が負担するのでしょうか?
 
利用料やドリンク代、通信費は会社が全額負担します。「好きなところで働いていい」というルールが成り立たなくなるので、これは創業時から徹底しています。
 
——労働時間についてはどのようなルールを決めているのでしょうか?
 
当社では1カ月を清算期間とするスーパーフレックス(コアタイムなしのフレックスタイム制)を導入しています。1カ月に労働すべき時間は法律で定められた所定労働時間のとおりですが、当社のユニークなところは、業務さえ完了していれば「月100時間」の稼働で、その労働すべき所定労働時間を働いたとみなすことにしている点です。
 
この「月100時間」は、1日8時間働いた場合、約12日で超える計算になるため、普通に働くだけで必ず到達する時間数です。週休2日制を取り入れながらも、始業・終業時間は決めていないので、月内でどのように働くかは社員一人ひとりが自分で決めることができます。
 
ひとつルール化しているのは、「日中に働くこと」です。始業・終業の時間は午前5時から午後22時の間になるよう、本人に設定を任せています。これには社員の健康面を考慮し、深夜労働をなるべく避けてもらいたいという思いがあるからです。
 
また、法律上、午後10時から午前5時までの時間帯に仕事をすると、会社は通常の1.25倍の増加率で深夜割増賃金を払わなければいけません。その分の人件費を賄うために取引先への請求額を上乗せするのはおかしな話ですし、請求額をアップできない場合は社内の利益を減らすことになってしまいます。つまり同一の成果物を高いコストで制作することは、価値を自ら下げることでもあるのです。こうした事情は社員にも共有して、ルールの背景を理解してもらっています。
 
——とても自由度の高い就労環境ですが、各自の業務の進捗管理はどうしていますか。
 
プロジェクトごとに数人のチームを組み、業務はタスク単位で管理しています。チームごとに決めた定期のミーティングを行って、その期間にやることや進捗状況を確認しています。また、実際に稼働した時間は自己申告で稼働管理システムに記録します。
 
週に一度、午前中に全社ミーティングを行っており、営業状況を共有し、稼働管理システムを全員で確認します。アサインの見通しや稼働状況に問題が生じていればその場で調整します。

 
 

管理職が「いかに管理しないか」をルールの軸に


——ここまでお話いただいた働き方や社内の決まりは、どのような考え方に基づいて作られたのでしょうか?
 
「いかに管理しないか」を軸にルールを決めました。背景として、私を含む経営陣が、前職での管理職時代に苦労した経験があります。
 
中小企業の場合、役職がある人はプレイングマネジャーであるというケースが多いでしょう。その人たちが管理業務に時間を費やすほど、仕事を新しく取ってきて手を動かす時間が減ってしまいます。ルールが増えると管理しなければいけないことも増えて大変なので、当社では「仕事を終わらせることができれば、どのような働き方をしてもOK」というスタイルを考え方の原理としています。
 
——それでも、最低限のルールは必要ですよね。何をどこまで決めておくのでしょうか。
 
「いかに管理しないか」を実践するための基準は、さらにシンプルです。管理するのが「面倒くさいか、面倒くさくないか」で決めます。
 
ただ何でも面倒に思うのではなく、管理者側が稼働する意味があること、会社にとってメリットがあることに時間を使おうという考え方に基づいています。
 
世の中には、規則をハックしようと考える人も多いので、誰も悪用しないだろうという性善説で規則を作ると痛い目を見ることもあるでしょう。しかし当社は経営陣3名、社員7名の会社です。この規模であれば、採用に注力して人間性をしっかり見極められるので、入社した人はみんなルールを守ってくれていますね。
 
——採用面ではどのようなことを大切にしていますか?
 
働き方の自由度の高さが他社とは大きく異なるからこそ、働き方や福利厚生の自由な面ばかりに興味を持つ人ではなく、業務内容に共鳴してくれて価値観の合う人との出会いを大切にしています。任せられた仕事をきちんとやり遂げるスキルがあることも重要ですが、人間性が何より大事だと考えています。

 
自宅で働く若い男性

 
 

給与は一律、その年の利益はボーナスとして全員で等分割に


——給与体系について教えてください。
 
社員の給与は、年齢やスキルを問わず一律30万円です。人事評価を給与に反映する仕組みだと、査定に時間が掛かるし手間も多くて大変なので。その時間をプレイヤーとして業務にあてれば、さらに業績を上げることもできます。
 
これが従業員1,000人以上の大企業なら、永続性を持った社内制度の運用が必要でしょう。うちの会社は全員で10人しかいないので、CEOである私が一番楽をできる給与体系を考えました。
 
——ボーナスも一律ですか?
 
一律です。ボーナスも、金額に差をつけるなら根拠となる給与査定が必要になってしまいますから。当社では、年度末に利益が出た分を人数で等分し、決算賞与という形で支払います。
 
——そうすると、社員の人数によってボーナス額がかなり変動しそうです。
 
一度に支払ったボーナスの過去最高額は一人あたり350万円です。とは言っても、当時まだ社員も少なく、全社員で5名、経営陣を除くと社員は2名だったので、700万の利益を2分割しました。
 
さすがに私も一瞬支払うのにひるみましたが(笑)、自分たちで決めたルールなので。とはいえ、社員数が少ないと業務負担も大きくなるので、現在は社員数を増やして、一人あたりおよそ150〜180万円のボーナスを安定的に毎年出せるような売上の目標設定をしています。
 
——かなり思いきった仕組みですね。
 
会社の存続を優先するために会社が社員から借金して、年度末に決算賞与としてまとめて返すというようなイメージです。たとえば、実際の給与は毎月一律30万円ですが、これは「みんなは月給40万円以上の能力があるんだけど、会社のキャッシュのために月10万円ずつ我慢してね!」という感じです。実際に月給40万円でもおかしくない能力の社員たちが、当社の考え方に納得してくれたうえで、月給30万円で在籍してくれています。
 
——こうした仕組みには、どんな効果がありますか?
 
この仕組みの良い点は、固定費が少ないので会計上の損益分岐点を超えるタイミングが早いこと。損益分岐点を超えた瞬間から、以降の売り上げすべてが「ボーナスになる」と捉えられるわけです。
 
これは、社員が働く上でのモチベーション向上にもつながっています。売上についてプレッシャーを感じにくいし、損益分岐点を超えた時期から決算までの期間は、言わば働いた分だけボーナスにつながるからです。
 
受注仕事の中には新機軸のない、チャレンジしたい社員からすると「面白くない(けど売り上げになる)仕事」だってあります。そういった仕事にも、ポジティブな気持ちで取り組みやすくなりますね。

 
 

お互いがラクできるように福利厚生や経費精算を管理


——休暇の取得など、福利厚生にも独自の取り組みがありますか?
 
産休や育休、社会保険など法律で決まっている制度は、もちろん取り入れています。実際、現在も当社では2人目となる育児休暇取得中の女性社員がいます。
 
また、所定休日や法定休日はきちんと休みつつも、前述のスーパーフレックスのルールにより、有給休暇の付与日数に関わらず仕事の進捗に応じて自己裁量で休暇を取ることができます。仕事がきちんと完了してさえいれば「月100時間」労働で所定労働時間を働いたとみなすため、平日に休んでも実態として欠勤控除が発生しません。毎日入力する稼働管理システムで出退勤の時刻や休暇を申告してもらい、有給休暇の日数も管理しています。
 
——他にはどのような福利厚生があるのでしょうか?
 
業務上、日頃からiPhoneとAndroidの両方のOSを使ってほしいので、1人2台までデバイスの利用料金を会社に経費申請できます。iPadなどのタブレット端末もOKです。通信を使った様々なコンテンツ体験やコミュニケーションが、巡り巡って業務の糧になると考えているので、自宅の通信費含め100%会社負担にしています。
 
そのほか、書籍の購入や映画・舞台鑑賞、展示会・セミナーの参加なども会社が全額負担しています。研究開発に必要なものという前提はありますが、特に映画・舞台・展示会のようなものはすべてデザイン的なインプットにつながるので、積極的に活用するように会社側から働きかけています。
 
しかしコロナ禍では、映画館に足を運びづらくなってしまったので、これを機に新しい施策として動画配信サービスの費用負担もスタートしました。あとは取引先や社内でオンライン飲み会をする際の飲食費も、経費として認めています。みんなテイクアウトやデリバリーを利用して、楽しんでくれているようです。
 
——会社側の費用負担にあたり、ルールや利用上限は設けていますか?
 
プライベートな趣味や私的利用はNGというルールは設けていますが、税務上経費として認められるであろう範囲であれば、特に上限はありません。事前申告の必要はなく、事後報告でOKです。毎月、立替精算の取りまとめを私が行い、きちんとチェックしたうえで給料と一緒に支払っています。ただし会社のキャッシュを守る観点から、ある程度まとまった金額になることがわかっている通信費の立て替えに関しては、年度末に一括清算としています。
 
——ここまでお話を伺い、業務に取り組めるように無駄を省くことは、結果的に社員のモチベーションアップや離職防止につながるようにも思いました。
 
若手のメンバー含め、社員はみんな、現状のルールに対してポジティブなリアクションをしてくれています。ルールが多いと管理する側もされる側も大変ですし、それによって業務に支障が出るのは本質的ではないですよね。これからもお互いラクな気持ちで働ける環境を作り、より楽しく仕事に取り組んでいきたいです。

 
 
 

<取材先>
株式会社ネコメシ 代表取締役CEO 森田雄さん
 
TEXT:ユウミ ハイフィールド
EDITING:Indeed Japan + ノオト

 

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