在宅ワークの福利厚生、こんなのあり? 社労士に聞いてみた


在宅ワークを導入するにあたり、独自の福利厚生を行う企業が増えています。実際、企業としてはどういった制度を福利厚生として導入することが可能なのでしょうか? 在宅ワークにおける福利厚生の注意点や、「こんな福利厚生は導入できるのか?」などを社会保険労務士の歌代将也さんに伺いました。

 
 

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福利厚生に、制約やルールはないの?


在宅ワークによる従業員のエンゲージメント低下を防ぐために、様々な企業で独自の福利厚生が導入されているようです。
 
たとえば、長時間のPC作業でも疲れないようにオフィスチェアやデスクの購入を補助している企業もあれば、社食を自宅まで届けてくれるサービスを使って、オンラインランチなどを実施している企業など様々です。
 
福利厚生は、「法定福利厚生」と「法定外福利厚生」の2つに分かれます。「法定福利厚生」とは、法律で実施することが義務づけられた福利厚生を指し、代表的なものとして各種社会保険(健康保険、厚生年金、雇用保険、労災保険)が挙げられます。「法定外福利厚生」とは、法律によって義務づけられていない、企業独自で実施できる福利厚生のこと。住宅手当や社宅、慶弔休暇、社食、社員旅行など多岐にわたります。ルール制限や金額の上限などもなく、企業で自由に決められます。
 
在宅ワーク支援のために、これから「(法定外)福利厚生」を導入する場合、大きく3つの方法が考えられます。
 
1つ目は現物を支給する方法です。
たとえば、在宅ワークの長期化を見据えて、全従業員にディスプレイやチェア、社用PC、スマホなどを支給する。従業員の希望するアイテムを選択できるようにすれば、さらに従業員のモチベーションアップにつながるでしょう。その一方で、企業側は経費処理や商品の発送などの煩雑な業務が発生してしまうデメリットもあります。
 
2つ目は手当を支給する方法です。
ある企業では新型コロナウイルス感染症の影響により、従業員全員を原則在宅ワークにして、通勤交通費を廃止し、(在宅ワーク)手当を支給。それによってデスクやモニターの購入、モバイルWi-Fiから固定回線への切り替えなど、従業員はそれぞれ必要なものにその手当を充てることができ、企業側の手間もそれほどかかりません。
 
3つ目は、企業が既に加入しているサービスを利用する方法です。
たとえば、「カフェテリアプラン」と呼ばれる仕組みがあります。これは、企業が従業員に一定額のポイント(補助金)を付与することで、用意されたメニューの中から自分に合ったものを選べる、選択型の福利厚生サービス。このようなサービスを使えば、従業員は必要なものだけを選べるため、満足度向上につながりやすいです。

 
 

社労士に聞く「あるとうれしい在宅ワークの福利厚生」Q&A


ここからは、筆者が考えた従業員にとって「あるとうれしい福利厚生」の実現可能性について、社労士の歌代さんに聞いてみました。
 
Q1.自宅で作業を行うと、従業員にとっては光熱費や通信費がかかってしまいます。その費用を、企業が福利厚生費として負担していいのでしょうか?
 
A1.負担しても問題はありません。
 
しかし、個人(プライベート)で使用したものと、業務で使用したものの切り分けができないので、負担額を決めるのが困難です。企業によって異なりますが、実際には一定額を手当として従業員に支給するか、個人(従業員)の負担になっているか、といったところではないかと思います。
 
ただし、従業員に在宅ワークでの通信費や光熱費などの費用を負担させる場合は、労働基準法(※1)により、必要に応じて就業規則を変更しなければならないこともありうるので、注意が必要です。
 
※1 労働基準法第89条第1項第5号「労働者に食費、作業用品その他の負担をさせる定めをする場合においては、これに関する事項を就業規則に定めなければならない」


Q2.メンバー同士や部署内でオンライン飲み会を開催した場合、飲食代を福利厚生費として計上できるのでしょうか?
 
A2.可能です。
 
在宅ワークでは、オフィス勤務のように気軽に社内のコミュニケーションが図れないため、こうしたオンライン飲み会やオンラインランチなどは、スタッフ同士の親睦や交流を深めるための機会にもなります。コミュニケーションの一環として、企業側が推奨していくことで、モチベーションやエンゲージメントの向上にもつながるのではないでしょうか。
 
なお支給方法としては、部門ごとに社員1人あたり5,000円などの上限を決めて実費を支給する、あるいは各従業員に食事手当として一律支給するといった方法があります。


Q3.在宅ワークでは、病児・病後児保育をベビーシッターさんにお願いするケースが増えていると聞いたことがあります。その費用を企業は福利厚生費として負担できるのでしょうか?
 
A3.可能です。
 
ちなみに、内閣府では子育て中の従業員と、それを支援する企業をサポートするために、「企業主導型ベビーシッター利用者支援事業」(※2)という制度を実施しています。
 
この制度は、従業員が利用するベビーシッター割引券2,200円分(1日・1回、対象児童1人につき)に対して、割引券利用手数料として中小事業主は70円、それ以外の事業主は180円の負担で活用できるというものです。なお、このサービスを企業および従業員が利用するためには、まず国の委託先である全国保育サービス協会に申請して承認を得なければなりませんので、ご注意ください。

※2 企業主導型ベビーシッター利用者支援事業における「ベビーシッター派遣事業」について
https://www8.cao.go.jp/shoushi/shinseido/outline/sitter_atsukai.html


Q4.在宅ワークだと運動不足になりやすいと思いますが、オンラインでヨガを始めたいという従業員の希望に応えるために、企業はそのレッスン料を福利厚生費として計上できるのでしょうか?
 
A4.もちろんできます。
 
従業員の生産性・満足度の向上、メンタルヘルスケアの観点から、こうしたオンラインでのヨガやエアロビクス、そして瞑想などのレッスン料を福利厚生費として負担している企業もあります。
 
さらに、バランスのよい食事をとってもらうために食事手当を支給したりして「健康経営」に力を入れる企業もあります。これは、従業員の健康管理を経営的な課題と捉え、その実践を図ることで会社の生産性向上を目指す経営手法のこと。このように、テーマに沿った福利厚生サービスを導入し、従業員だけでなく社外へアピールすれば、企業のイメージアップにも活用できます。


Q5.人とのコミュニケーションの機会が少なくなり、従業員からキャリアコンサルティングやコーチングを受けたいというニーズも増えてくるように思いますが、企業はこうした費用を福利厚生費として負担しても問題ないでしょうか?
 
A5.もちろん福利厚生費として負担できます。
 
厚生労働省の調査(※3)でも、従業員に対してキャリアコンサルティングを行うことで、「労働者の仕事への意欲が高まった」などの効果も一定数あるので、企業にとってのメリットも少なくありません。
 
しかし、実施する場合は、新たに導入するよりも、既存のサービスを利用するケースが多いようです。たとえば、先程紹介した「カフェテリアプラン」にもキャリア相談のサービスがあるので、そうしたプランを利用したり、既に契約している外部のキャリアコンサルタントにオンラインや電話で相談できる仕組みを整えたりしているようです。
 
なお、「カフェテリアプラン」には、オンラインのフィットネスや、子育てサービスなども使える場合があり、従業員の多岐にわたるニーズにも応えられるので、多くの企業で採用されています。在宅ワーク中の従業員にアンケートをとって、人気のあるサービスを導入しておくと、福利厚生に対する満足度もより高まるのではないでしょうか。


※3 能力開発基本調査(令和元年度)
https://www.mhlw.go.jp/toukei/list/dl/104-01b.pdf

 
 

新しい福利厚生を取り入れるために意識しておきたいこと


「法定外福利厚生」であれば、企業独自で設けることができます。だからといって、やみくもに福利厚生を導入していても、適切な成果は得られません。そこで、新たに福利厚生を取り入れるためには、2つの視点が重要になるでしょう。
 
1つ目は、企業として社内だけでなく、外部にもアピールできる内容になっているかどうか。
 
社内では従業員の満足度向上や生産性向上という観点が必要ですが、一方で、外部へのアピールを考えると、1つのテーマに絞って待遇や制度を整えていくことが重要になってきます。
 
たとえば、ベビーシッター利用時の補助金支給や、男性の育児休暇の推奨などを行って「子育て中の従業員を支援する企業」として訴えかけるのも1つの方法です。こうすれば、知名度の向上や、新卒・中途採用における求職者への会社の魅力付けにつながります。
 
2つ目は、不公平感のない福利厚生になっているかどうか。
従業員の満足度を高めるために導入したにもかかわらず、利用できない人がいると、不満の発端にもなりかねません。だからこそ、従業員みんなが利用できる福利厚生を検討することは重要です。
 
ただし、今挙げた2つの視点は相反することも多いので、両方を実現するのは難しいでしょう。企業としては、社外を含めたアピールに活用するのか、あるいは全従業員に対して不公平感のないサービスにするのか、どちらに力点を置くかを決めることが大切になってきます。それによって、企業は自社のカラーを反映した福利厚生サービスを打ち出せるはずです。

 
 
 

監修:うたしろFP社労士事務所 社労保険労務士/1級FP技能士CFP® 歌代将也
TEXT:西谷忠和
EDITING:Indeed Japan + ノオト

 

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