モチベーション低下の原因は、コミュニケーション不足によるイライラ
1年前は「コロナ禍」という言葉はありませんでした。ところが、年が明けて2月、3月から新型コロナウイルスが世界中に広まり、日本でも「緊急事態宣言」が4月7日に公示される事態になりました。
この頃、企業の担当者からよく相談を受けたのが「社員を自宅勤務にしないといけない、どんなツールが必要なのか」ということ。そこには、単にツールを導入すれば良いわけではなく、かなり深刻な問題がありました。
「セキュリティーを厳しくしているので、社外から必要な情報にアクセスできない」
「従業員の中には、クラウドのサービスを使ったことがない人や、習得が難しい人がいる」
そのような課題をどうクリアしていくか、人事担当者をはじめ多くの人が頭を悩ましたのではないでしょうか。新しいシステムを導入し、「では、レクチャーしましょう」となっても、すでに在宅勤務になっているため、基本はテキストベースの「顔を見ない」コミュニケーションの中で指導をすることになります。動画チャットサービスもありますが、1日中繋ぎっぱなしにしているわけではありません。「顔を見ない」コミュニケーションの世界の中で、多くの働く人々が戸惑っていました。
「顔を見ない」コミュニケーションは問題が生じたときに、お互い余計にイライラするもの。どれだけ困っているのか、表情や声などから細かな感情を読み取ることができないからです。
たとえば、「ごめん、これ教えて!」と手を合わせて頭を下げられると、「仕方ないな」と悪い気はしませんよね。しかし、在宅勤務の世界では、お互い顔を見ずに仕事のやり取りをするケースが多いので、ともすれば誤解が誤解を呼び、フラストレーションが上昇するときがあります。フラストレーションがたまると、教える立場である人事担当者や職場の上司はイライラしますし、実際にツールを使えずに仕事が進まなくて困っている従業員もイライラします。
イライラしている時点で、モチベーション、仕事への意欲はどんどん低下していきます。「請求書を発行したいけれど、顧客情報は重篤な情報なので社内でしかアクセスできない」「自宅からもアクセスできるツールを渡されたが、使い方がわからない。使い方を聞いても理解できないし、もう聞けない」と、仕事をすればするほどイライラが募ってしまうのです。
モチベーション維持のカギは「Can」をどうするか
キャリア理論の世界には、「Will(やりたいこと)・Can(できること)・Must(やらなければならないこと)」という言葉があります。モチベーションを最大限発揮できるのは、この3つの要素がそろったときだと言われています。
コロナ禍において、WillとMustは変わらないでしょう。でも、Canはどうでしょうか。例に挙げたように、立場を問わず全ての方々が「これまでできていたことができない」状況に直面し、悩み、乗り越えようとしているのが、今のコロナ時代です。しかも、日本だけでなく地球全体が。
では、Canをどうするか。まず人事担当者は、社内で困っている人を見つけましょう。従業員に対して在宅ワークに関するアンケート調査を行ったり、上司に部下の働きぶりをヒアリングしたり。時間があれば、従業員一人ひとりとオンラインで面談するのも良いでしょう。上司や同僚に言えない悩みを打ち明けてくれるかもしれません。人事担当者は社内の状況を把握することに、まずは時間を割くことをおすすめします。
困っている人を見つけたら、「Can」をどうするかを従業員と一緒に考えます。「これまで、できていた業務がなぜできなくなったのか」「この環境でどこまでならできるのか」などを丁寧に聞き出し、もし1人で解決できないときは「誰がサポートできるのか」まで導いてあげることが大切です。また「それをサポートした従業員への報酬(賃金だけでなく、抱えている業務の巻き取りなど)」についてもあわせて検討しましょう。適切な評価制度を設けることで、助け合う文化が根付きやすくなります。
適切な社内整備が、働くモチベーション維持につながる
誰も体験したことがなく、教科書もない中での新たなルール作りはとても大変だと実感しています。「私の〇〇業務が今まで通りにできなくなったから知恵を貸してほしい、その代わりあなたの△△業務なら手を貸せるよ、お互いに助け合おう」と従業員同士の才能を交通整理し、その成果をきちんと評価できるルールを作ること。それが貴社の業務に携わる方々のモチベーション維持につながると考えています。
TEXT:国家資格キャリアコンサルタント 戸田敏治
EDITING:Indeed Japan + ノオト