第6回「改めて注目すべき『自社採用サイト』の可能性」
連載第6回のテーマは「改めて注目すべき『自社採用サイト』の可能性」です。Indeed(インディード)には、Web上にある各社の採用ページなどを自動で収集し、求職者がIndeed内で検索できるようにする仕組みがあります。採用ページや自社のWebサイトを作り込む手間はかかりますが、うまく活用すれば、低コストでいい人材が採用できる可能性が高まります。
最低限盛り込みたいのは、人材に任せたい職務の内容や目的、いつまでに、どれくらいの成果を出してほしいかといった達成目標などを記した「ジョブディスクリプション(JD)」。さらに、カルチャー、理念、従業員と共有したい価値などをまとめた「企業情報」です。「特に恒常的な採用ニーズがあるのなら、自社採用ページを作成し、活用するべきです」と語る黒田氏にその理由を詳しく伺いました。
「いい人を低コストで採用したい」ときの選択肢
――「低コストでいい人材を採用したい」。これは中小企業にとって永遠の課題です。
Indeedは、そこに大きく貢献していると思います。基本的な機能をおさらいしておくと、Indeedに求人を掲載するには、Indeedに直接求人情報を投稿する「直接投稿型」と、各社のWebサイトの求人情報を掲載する「クローリング型」があります。
注目したいのは、クローリング型です。Web上にある採用ページなどをIndeedが自動で収集、求職者がIndeed内で検索できるようにする仕組みです。これにより、求職者が求人情報と会社情報を併せて確認できるのです。そもそもそのように職種情報と企業情報という構造でページを作っておかないと、Indeedのクローリングにもヒットしません。Indeedが主催となり「オウンドメディアリクルーティングアワード」を開催し、能動的な採用活動を行う企業を表彰しているのも、そんな背景からです。
採用ページを充実させることで、低コストでいい人材が採用できる可能性も高まる。ただ、採用側にしてみれば手間がかかることでもあります。しかし、これまで求人広告や人材紹介会社に結構なコストを払うことでしか充足できなかったものが、自らできるようになる。自社サイトを通じて採用の主導権を取り戻せる。それがIndeedのよさですね。
もちろん、成果が確約されるという話ではありませんし、自社サイトの作成、運営には人手も割けないので、お金をかけて求人広告や人材紹介会社を活用する、という経営判断もありえます。また「半年に1人程度」の採用であれば、そのためにわざわざ採用ページを作り込むのは割に合わないでしょう。
しかし、恒常的に採用があり、なおかつ低コストでいい人材を採用したいというニーズがあるなら、自社採用ページのコンテンツを整えていくことをおすすめします。
「職種情報」と「企業情報」の2つを作り込む
――具体的にはどんな作業が必要でしょう? 採用ページに盛り込むべき情報は?
たとえば、人材に任せたい職務内容の詳細を、「ジョブディスクリプション(JD)」に落とし込みます。また、任せたい職務の目的やミッション、いつまでに、どれくらいの成果を出してほしいかといった達成目標なども記載します。これは、求職者に入社後の働くイメージを明確にしてもらい、応募の動機付けを強める効果があります。またJDを作る過程で、採用側が「欲しい人材」のイメージを言語化する意味合いもありますね。
そして、経理を採用するなら経理の、営業を採用するなら営業のJDをそれぞれ作成する。もっというと、営業でも東京勤務か、大阪勤務かでも別々に作成するのが本来のJDのあり方です。昔の求人情報には「勤務地:東京・大阪」などと平気で書かれていましたが、それではいけません。JDを読んで採用された人材が、「そこに書かれていた情報と実際の仕事内容が違った、騙された」とならないよう、事細かに書いておきます。
JDは、任せる仕事について縦に掘り下げる、いわば「バーティカル(垂直)」な情報、職種情報です。これだけでは「どんな企業か」がわからないので、もう1つ、カルチャー、理念、従業員と共有したい価値など、組織を「ホリゾンタル(水平)」に見る「企業情報」も用意します。いわゆる「シェアードバリューコンテンツ(SVC)」ですね。よく目にする「先輩社員の紹介記事」などもこれにあたります。
――最近は、SNSに公式アカウントをつくり、情報を発信している企業もありますね。
そういう「ゆるい」発信でいいケースもあるでしょう。求職者が企業名で検索したときにヒットするかしないかでは印象が違います。ただ一般的にいえば、小さな企業、小さなお店のオーナーがSNSで呟いて、広く伝わるかといったら難しいはず。伝えるという意味ではSNSは効率が悪いと思います。なので、まずは自社サイト、採用ページの作り込みからですね。「もう作ってあるよ」という企業も、何年も更新していないようではいけません。
――体力のある大企業は当然、採用ページの作り込みをしているのでしょうか。
いえ、そうとは限りません。大企業であっても、職務のことと会社のこと、両面の発信をしっかりしている会社とそうでない会社とでは、非常に大きな差があります。そういう会社には「採用ページの作りこみをしないと損ですよ」という話をします。
求職者に対して自社主体でメッセージを発信することで、採用側は「会社が求める人材像」をしっかりとアピールできる。そうして求職者に「自分の価値観と合う会社か」どうかを判断してもらうための材料を提供することで「求職者に選ばれる企業」になるのです。ただ繰り返しになりますが、定期的に募集していない企業は割に合いません。大企業だから、中小企業だからではなく、「恒常的な採用がある企業」に自社採用ページの作り込みをおすすめしています。
「従業員紹介」のない企業=人に紹介したくない会社
――それでは、恒常的に採用がない企業は?個人経営の飲食店がアルバイトを1人だけ雇いたい。そんな時はどうしたらよいのでしょう。
そのケースだと自社採用ページを作るのは効率が悪い。広告を出したほうが効率的であると思います。これは強調しておきたいのですが、「いい人を1人だけ採用したい」というときに、まず検討するべきなのは、広告でも採用ページでもなく、今いる従業員からの紹介です。リファラル採用、縁故採用とも言われます。ほぼコストは発生しませんし、職務情報にも企業情報も理解している従業員が「この人なら活躍できる」と判断して紹介する人材であれば採用のミスマッチも起こりにくいと一般的には考えられます。雇う側にも、紹介される人材にもメリットがある採用手法ですね。
ただ残念なことに、リファラル採用をうまく活用できていない会社が多いと私は感じています。それはもしかすると、従業員に「大事な友達には紹介したくない会社」だと思われているせいかもしれない。これは、笑い話ではありません。リファラル採用ができない会社の経営者は、従業員からのロイヤリティが低い会社になっているリスクを検証してみたほうがいいと思います。
従業員からのロイヤリティが低い会社は、長期的にみれば、やがていい人材が集まらなくなる運命にあります。私は労働分配率が低い、つまり資本家が利益を独占している時代が終わろうとしている、と考えています。これからは労働者に適切に利益を分配しなければ、いい人材がとれない時代になっていく。低賃金や長時間労働のブラック企業は厳しく批判され、淘汰されていき、いい会社だけが残る。そんな時代がくることを、私は願ってもいます。
少なくとも、雇われる側の情報収集力が高まっていく動きは止められるものではありません。男女差別の問題、各種のハラスメントの問題に敏感になっていますし、クチコミサイトやSNSを通じて、「きれいごと」ばかりの求人広告からは決してわからない、企業の内実もキャッチしています。雇う側にとっては都合の悪い情報がどんどん隠し切れなくなっている。こうなると、雇う側と雇われる側の関係性も、必然的に変化していきます。かつては雇う側が上、雇われる側が下だったかもしれません。しかし今や、雇う側と雇われる側のパワーバランスが対等に近づいている。あらためて、自社が求職者から「選ばれる」、従業員から「人材を紹介してもらえる」会社たり得ているか、振り返ってみていただきたいと思います。
Profile
黒田 真行(くろだ まさゆき)
1989年、株式会社リクルート入社。「リクナビNEXT」編集長、「リクルートエージェント」ネットマーケティング企画部長、株式会社リクルートドクターズキャリア(現:リクルートメディカルキャリア)取締役などを歴任。現在は「ミドル世代の適正なマッチング」を目指す、ルーセントドアーズ株式会社の代表取締役を務める。人材マーケット分析ならびに人材戦略構築の専門家。