今どきの若者の価値観とは? – [第5回]中小企業経営者が知っておきたい「いまどき採用事情」黒田真行さんに聞く 


過去30年以上にわたり中途採用市場に携わってきた黒田真行氏に、今、中小企業の経営者が実践するべき人材戦略について伺うインタビュー企画。
 

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第5回 「今どきの若者の価値観とは?」


連載第5回のテーマは「今どきの若者の価値観について」です。いまだ新型コロナ禍で揺れ動く人材市場ですが、求職者側の意識の変化も見逃せません。若者たちがどんな価値観を持ち、仕事や会社に何を期待しているのか。それは、経営層や人事担当者などの世代とは大きく異なるものです。彼らの価値観を押さえておかなくては、採用が難しいのはもちろんのこと、採用後の定着、そして採用後の活躍も期待できません。
 
「キーワードは『入社後活躍』です。10人採用して、10人皆が入社後に活躍できたほうが、10人中5人しか活躍できないよりずっといいし、1人あたりの生産性が高いほうがいい。そのために求職者の価値観を知る必要がある」そう語る黒田氏に、「今どきの若者」の傾向について伺いました。

 
 

2020年の有効求人倍率はオイルショック以来の下げ幅


――2020年の有効求人倍率の数字が発表されました。
 
厚生労働省の発表によると、2020年平均の有効求人倍率は1.18倍。これは前年比0.42ポイントの低下です。この下げ幅はオイルショックの影響があった1975年以来45年ぶりの大きさと報じられています。有効求職者数は6.9%増の182万人に達したのに対し、企業からの有効求人数は21%減り、216万人となりました。
 
また、総務省が発表した労働力調査によれば、20年の平均休業者数は過去最大の256万人。完全失業率は2.8%で、こちらは11年ぶりに悪化したとあります。リーマンショック当時ほどではないといわれていますが、政府の雇用調整助成金がなければ失業している「隠れ失業者」も少なくないはずです。特に厳しい状況にさらされているのが、非正規雇用者で、その人数は2090万人と前年から75万人も減少しました。
 
私の実感でも、正社員の新卒採用と正社員の中途採用、アルバイト・パートとでは状況がかなり違います。正社員・中途採用の求人件数は、もちろん前年比ではマイナスですが、思っていたほどのダメージではありません。特に在宅ワークが可能な職種はダメージが軽微で、求人も戻りつつある。新型コロナの感染拡大直後は、「景気が低迷、企業が求人を絞り込むことで人手不足が解消される」と予想しましたが、今後、人材獲得競争が再燃する可能性もあるでしょう。
 
一方で、アルバイト・パート領域の求人減は確かにかなり深刻です。新型コロナ禍によるダメージが大きいのが、飲食店などアルバイト・パート比率が高い業界であることも、影響しているようです。
 
ただし、雇用側にしてみれば、先行き不透明な新型コロナの影響ばかりを心配しているわけにもいきません。ほかにも、今のうちに押さえておくべき採用事情の変化は、いくつもあります。たとえば、「求職者側の意識変化」です。

 
 

95年生まれは「夢を見ないリアリスト」


――「求職者側の意識変化」とは、具体的にどのようなものでしょう。
 
最近、女性蔑視についてのニュースが大きく社会問題化しましたが、人種や性別など、政治的や社会的に公正中立であるという考え方や概念を指す「ポリティカル・コレクトネス(ポリコレ)」を意識する若い世代が増えています。こうした新しい価値観を持った、新しい世代にいかに選ばれるかというのも、企業としての大きな課題の一つです。
 
その前提にあるのは、若い世代の仕事を選ぶ能力、「選職能力の高度化」です。インターネットの進化により情報検索力が向上したことで、「きれいごと」ばかりの広告を鵜呑みにせず、より本音に触れやすいクチコミやSNSを活用、信用するようになっています。
 
これは世代的な特徴というべきでしょう。たとえば、いわゆる「今どきの若者」層を現在25歳、阪神淡路大震災やオウム真理教の地下鉄サリン事件があった1995年生まれの世代と考えると、彼らは非常に堅実で、夢を信じないリアリストでもあります。彼らから10~20歳上の人事課長や経営者とは、価値観の世代差は相当なものです。彼らを採用しようと思い、夢やロマンを前面に出した広告を打っても響かない。経営者がミッションやビジョンを語るときも、よほど丁寧にやらないと、そっぽを向かれてしまうことでしょう。
 
ちなみに、バブル崩壊後の「失われた10年」を生きた「ロストジェネレーション」世代が今40歳前後ですね。彼らは就職氷河期を体験し、バブル世代とは心理的に大きな距離感があります。夢を信じないリアリストという意味では、95年生まれと近い価値観を持っています。ただ、95年生まれがロストジェネレーション世代と違うのは、95年生まれは小さいころからパソコンやインターネットに親しんできた「デジタルネイティブ」であるということです。繰り返しになりますが、彼らの情報感度は高い。アパレル業界で「この夏は黄色がブームになる」などと仕掛けても、この世代はまず乗ってこないそうです。
 
――「最近の若者はすぐに会社を辞めてしまう」などと言われますが、95年生まれ世代の離職率は?
 
それは職務内容によると思います。ただ「会社へのロイヤリティ(忠誠心)が低い」傾向にある、ということは言えそうです。1つの会社で定年まで勤め上げる、嫌なことがあっても「石の上にも3年」の覚悟で頑張る、といった意識はほぼありません。おかしいものはおかしいと言い、就職に失敗したと思ったら転職する。そこは是々非々の考え方をします。
 
――どういう時代を生きたかによって、働く意識も変わるのですね。
 
年代、世代、時代の3つは、分けて考えておく必要があります。「50歳になったら肩がこる」というのは年代の話で、何年生まれだろうが変わりません。いま20歳の若者も、30年経てば肩がこりますから。 一方、世代は同じ価値観のまま「持ちあがっていく」もの。ビートルズ世代は高齢になっても演歌ではなくビートルズを歌うわけです。そして時代は、どの年代、世代にも等しく影響をおよぼします。

 
 

採用活動のゴールは「入社後活躍」


――雇用側は、こうした若い世代の価値観を知っておく必要があるということでしょうか。
 
雇われる側、若い世代の価値観を知っておくことで、採用効率が高まるのはもちろんですが、採用後もうまくマネジメントできる可能性が高くなる、ということです。たとえば、職務内容について詳しく記載した文書=ジョブディスクリプション(JD)に書く内容にしても、上の世代を相手にする際と同じ意識でいると危険です。JDに書かれている内容と、いざ採用されてから任された現実の仕事の内容がズレていたら、それだけで若い世代にとっては退職のきっかけになりかねない。「騙された」と思うわけです。また「頑張る=残業をいとわず仕事をすること」だと考えがちな上の世代とは、「頑張る」の定義も違うでしょう。「頑張る=定時までベストを尽くすことじゃないんですか?」という話になるかもしれない。
 
――堅実でリアリストな世代となると、モチベーションを上げる方法も上の世代とは違いそうです。
 
特に、俗にいう「意識高い系」の人たちだと「自己成長」を重視する傾向があります。彼らは仕事を通じて自分が成長できるか、成長できる機会が手に入るかどうかに敏感です。それは不景気の時代を生きたせいか、「自分の身は自分で守らないといけない、会社には頼れない」と考えているからですね。「意識高い系」というとバカにされることもありますが、彼らにとってはそれも自分を守るために必要な姿勢なのです。
 
――アルバイト・パートを採用する場合であっても、世代の価値観を意識する必要があるのでしょうか。
 
雇用する側の期待としては、アルバイト・パートに任せる業務は労働集約型であり、人材一人ひとりの意識をそこまで深く見る必要を感じていないのが現実かもしれません。わかりやすい例ですが、「20代女性」向けの商品を扱うアパレル企業は、やはり商品の対象年齢と同年代の「20代女性」というくくりで店員を採用しようとするでしょう。
 
――しかし、正社員とアルバイト・パートでそのような違いがあったとしても、共通の価値観を押さえておくことで、彼らのモチベーションを引き出せそうです。
 
もちろん、同じ時代を生きた同じ世代には、同じような傾向があると思います。彼らの価値観を満足させる職務であり、職場環境を用意できれば、人件費の費用対効果が向上する。経営としては、何よりも大きなメリットです。
 
大前提として忘れてはいけないのは、採用というのは「採用できればOK」ではないということですね。採用後、しっかり人材に定着してもらい、活躍してもらうことが採用活動のゴールのはず。つまりキーワードは「入社後活躍」です。10人採用して、10人皆が入社後に活躍できたほうが、10人中5人しか活躍できないよりずっといいですし、1人あたりの生産性が高いほうがいい。そのためにも、若い世代の価値観を雇用する側がしっかり理解しておく必要があるのです。

 
 
 
黒田 真行(くろだ まさゆき)
Profile
黒田 真行(くろだ まさゆき)
 
1989年、株式会社リクルート入社。「リクナビNEXT」編集長、「リクルートエージェント」ネットマーケティング企画部長、株式会社リクルートドクターズキャリア(現:リクルートメディカルキャリア)取締役などを歴任。現在は「ミドル世代の適正なマッチング」を目指す、ルーセントドアーズ株式会社の代表取締役を務める。人材マーケット分析ならびに人材戦略構築の専門家。

 

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