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[第7回]中小企業経営者が知っておきたい「いまどき採用事情」黒田真行さんに聞く 人材要件を“ヒト軸”から“コト軸”へ


過去30年以上にわたり中途採用市場に携わってきた黒田真行氏に、今、中小企業の経営者が実践するべき人材戦略について伺うインタビュー企画。

 
 

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第7回「人材要件を“ヒト軸”から“コト軸”へ」


連載第7回のテーマは「人材要件を“ヒト軸”から“コト軸”へ」です。求人票の作成に欠かせない人材要件の定義。「どんなヒト(人材)を採用したいのか?」と考えると、本来必要なスキルではなくスペック重視の内容になりがちですが、そうではなく「どんなコト(課題)を解決したいのか?」と考えるべきなのです。
 
業種や職種が変わっても通用するスキルのことを「ポータブルスキル」と言います。「ヒト軸にとらわれたまま人材要件を定義すると、自社の課題を解決してくれる人材を見逃す恐れがあります。これは損ですよね。」と語る黒田氏にこれからの企業に求められるコト軸の採用について伺いました。

 
 

「MUST条件」への固執が応募の間口を狭くする


――「希望している人材要件を満たした人材が集まらない。」そんな声をよく聞きます。
 
弊社のクライアントである某メーカーの採用担当者からも同じような相談を受け、アドバイスしたことがあります。作成した求人票を見せてもらうと、求める人材像、つまり人材要件があまりにも厳しかったので、「これではうまくいきません」という話をしました。
 
たとえば、「製造業勤務経験5年以上」「工場内の人事経験3年以上」「マネジャー経験2年以上」という項目が並んでいて、それが全部必須だというのですが、どこにそんな人がいるのかと……。これでは応募の間口がとても狭くなってしまいます。そもそも、製造業と言っても幅が広すぎます。
 
しかし、このように人材要件を厳しく設定しているケースは結構多いのです。人材紹介会社への募集要件の伝達は非公開なので「年齢は30歳まで」「体育会系がいい」「体力仕事なので男性に限定」など、公募では書けない要件を依頼されることも日常的にあります。求職者よりも採用側が強い立場だと錯覚しているのか、過度の要件設定をする傾向が根強く残っています。また、求人票には書かれていなくても、裏では「出身大学はMARCH以上でないとダメ」「管理職より年上のスタッフはダメ」といった、非合理的な人材要件を設定していることもあります。
 
先に例にあげた某メーカーの採用担当者も、結局は「製造業経験者でないと絶対ダメだと思うんです。」と求人票を直そうとしませんでした。過去の採用の成功体験と失敗体験のせいで、頑なになっていたのです。
 
そんな求人票に、1件の応募があるだけでも奇跡です。採用活動に限らず、ビジネスには「MUST条件」と「WANT条件」があります。MUST条件は「必須で満たしたい」条件で、WANT条件は「できれば満たしたいが、満たせなくてもかまわない」条件を指します。昨今の採用においてはMUST条件をできるだけ少なくしておくべきです。そうでないと、単純に企業が損をすることになります。

 
 

「どんなヒト(人材)」よりも「どんなコト(課題)」


――では、求人票はどう考えて作成するべきなのでしょう。
 
「どんなヒト(人材)を採用したいか」ではなく、「どんなコト(課題)を解決したいか」を考える必要があります。つまり「ヒト軸」ではなく、「コト軸」で考えることが大切です。
 
ヒト軸というのは、それこそ「製造業勤務経験5年以上」で「工場内で人事経験を3年以上」「マネジャー経験2年以上」といった「どんな人を採用したいのか」という軸から人材要件を考えるものです。この場合はどうしても、経験のある業種・職種やキャリアの長さなどのスペックに目が向かいがちです。
 
一方、コト軸では人のスペックではなく、その人が解決してきた課題に注目します。たとえば、「マネジャー経験2年以上」であることはさほど重要ではなく「管理職としてこれまでどのような課題を解決してきたのか」を重視します。
 
これはある意味、「ポータブルスキル」を人材要件化しているんですね。厚生労働省の定義に従うと、ポータブルスキルとは「業種や職種が変わっても通用する、持ち出し可能な能力」のことです。そしてポータブルスキルは「専門知識・専門技術」のほか、「仕事のし方(課題を明らかにする・計画を立てる・実行する)」、「人とのかかわり方(社内対応、社外対応、部下マネジメント)」で構成されています。
 
では、ポータブルスキルを人材要件化すると何がいいのでしょうか。まず、業種・職種を限定せずに、幅広い領域から人材を採用できる可能性が高まります。定義上、ポータブルスキルは業種や職種を問わず発揮できるものです。非常に狭い条件が設定されたヒト軸の求人情報をスルーしていた多くの方々の中に、実は自社が本当に解決したい課題を解決できるスキルを持った人材が存在している、と考えるようにしてください。
 
余談ですが、「ヒト軸よりコト軸」というのは、リクルート社の求人広告の制作現場で昔から言われていることでした。厚生労働省がポータブルスキルを定義したのは平成26年のことですが、30年前に私が求人広告を制作していた頃も「家を売るのに、なぜ35歳以下の人材でないといけないのか」など、クライアント企業の経営者とよく衝突したものです(笑)。
 
今、採用活動を行っている中小企業の方々に伝えたいのは、募集している職種に求めているポータブルスキルを考え尽くしていただきたいということです。手っ取り早く採用しようと、たとえば「同業他社で営業経験3年」などヒト軸で採用しようとするのは、それが間違っているとは言いませんが、やはりおすすめできません。もっと広い領域から自社の課題を解決できる人材を集められるかもしれないのに、その可能性をわざわざ放棄してしまうことになり、とてももったいないと思います。

 
 

「まさかこの人が!」という採用が大成功するケースも


――ポータブルスキルを重視して採用活動を行うと、「まさか」と思うようなキャリアの人材が、実は自社の課題を解決してくれるベストな人材だった、ということもしばしばありそうですね。
 
そのとおりです。これは私の知人のベテラン人材エージェントの経験談です。某流通企業A社の店舗開発室の求人で、求人票には当然のように「不動産業界の店舗開発経験者求む」とありました。しかし、エージェントの彼がA社に紹介したのは、不動産業界とは何の関係もない女性。コールセンターで長年クレーム処理をしていたBさんでした。
 
なぜ、エージェントの彼はBさんを推薦したのでしょう。実はA社は新店舗の出店の際に、しばしば近隣住民からクレームが寄せられていました。そこで彼は、新店舗開発の担当者に求められるのは、不動産業異界の知識より「近隣住人と仲良くコミュニケーションができる力」が大事なはずだと考えました。その点、Bさんはクレーム処理能力が抜群に高かった。Bさんが採用されたところ、エージェントの彼の予想どおりに大活躍し、のちに店舗開発室の室長に抜擢されたそうです。
 
おわかりのとおり、A社が出していた求人票に書いてある「不動産業界での店舗開発経験者」という人材要件とBさんは、まったくマッチしていません。A社は「なぜこの人が」と思ったことでしょうし、Bさんも「まさか自分が」と思ったことでしょう。しかし、ベテラン人材エージェントの紹介だからと一度会ってみたら、ズバリだったわけです。彼は「不動産業界の店舗開発経験者」というヒト軸の人材要件を、コト軸の人材要件へとうまく「翻訳」したんですね。
 
この話は人材エージェントがかかわった例ですが、ヒト軸でなくコト軸で人材要件を考えると、こういった採用成功が起こり得たり、自社にとって本当に活躍できる人に広く情報を伝えることができます。そのためにまず大切なのは「どんなヒト(人材)を採用したいか」ではなく、「どんなコト(課題)を解決したいか」をじっくり考えて、人材要件に落とし込むこと。これができれば「製造業勤務経験5年以上」「マネジャー経験2年以上」といった、合理的でない人材要件は企業の求人票から消えるはずです。

 
 
 
黒田 真行(くろだ まさゆき)
Profile
黒田 真行(くろだ まさゆき)
 
1989年、株式会社リクルート入社。「リクナビNEXT」編集長、「リクルートエージェント」ネットマーケティング企画部長、株式会社リクルートドクターズキャリア(現:リクルートメディカルキャリア)取締役などを歴任。現在は「ミドル世代の適正なマッチング」を目指す、ルーセントドアーズ株式会社の代表取締役を務める。人材マーケット分析ならびに人材戦略構築の専門家。

 

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