稼げなくても、休みは多い方がいい? ドライバー希望者の本音
――物流・運送会社は、若手ドライバーの応募者を集めるのに苦労していると言われています。一般的に、何がダメでうまくいっていなのでしょうか?
若者向けの求人は、ネットでの情報提供がもっとも重要です。しかし、物流業界はまだまだネットを使い切れていない会社が多く、ホームページすら持っていない、あっても採用情報ページには募集要項しか載っていない、というレベルにとどまっています。
一方、紙媒体での募集も年々反響が悪くなっており、人が全然集まらない。年間300~400万円もかけているのに応募者が10人未満、という話も聞いています。
――そんな中、うまくドライバーを採用している会社は、どんな施策をとっているのでしょうか?
たとえば青森県のとある運送会社では、「素人大募集」、「まだ免許はないけど大型トラックに乗りたい人、集まれ」という内容の求人広告を出しています。
通常、未経験で入社して、いきなり大型トラックに乗ることができる会社はほとんどありません。運転が難しいので、2トンや4トントラックに1年くらい乗ったあと、大型ドライバーになるのが一般的な流れです。しかしこの会社は、「未経験でも大型かつ長距離に乗れますよ」とアピールしている。なぜなら、教育制度がすごく充実しているからです。
未経験者がこの会社に入社すると、最初の2カ月間はしっかり教育を受け、3カ月目ぐらいから大型の長距離に乗ります。他社ではほとんど見られない制度であり、これが強みになっているので、思い切って未経験者だけに絞った広告を出しているのです。広告では未経験で入社した先輩ドライバーの声を紹介し、結果的に問い合わせ数や応募者数を含め反響が5倍ぐらいになりました。自社の強みをどう伝えるか、その設定だけで反響は変わります。
さらに、求人はターゲットの設定が大切です。たとえば取引先が工場の場合、ゴールデンウイークやお盆など休みが多くなります。ドライバーの給料は出勤日数によって左右されるため、5月や8月の収入は極端に減ってしまう。今まではそれを隠して募集していましたが、「思ったほど稼げないので、辞めます」という話も少なくありませんでした。でも逆に、休みが多いことをアピールしたら反響が大きくなった、という実例があります。
――「稼げなくても、休みは多い方がいい」という人が応募すれば、正しくマッチングできるわけですね。
特に最近の若者は、そういう傾向が強いですね。東日本大震災を境に、労働の価値観が変わった側面があるのかもしれません。
かつて、ドライバーの募集広告でいちばん多いキャッチコピーは「月収○○万円以上可能」といった、ストレートな表現でした。でも最近はこういった文句があまりウケず、むしろ広告に掲載する月給が高いほうが、「給料が高い分だけいっぱい働かされるんじゃないか」と警戒される可能性もあります。



女性ドライバー「トラガール」も増加 採用受容力を高めるには
――最近は「経験者を採用するより、未経験者を採用して育てる方がいい」という流れになっているのでしょうか?
本音としては、経験者の方がうれしいはずです。ただ経験者だけに絞ると集まらないから、「未経験者OK」としている会社が圧倒的に多くなりました。これからはますます、多様な人材を受け入れる努力が必要になってくるでしょう。
たとえば、女性のトラックドライバーを指す「トラガール」という言葉が登場しました。実際、女性ドライバーをどう増やしていくか、積極的に取り組んでいる会社も増えています。男女別のトイレや専用のユニフォームなど、女性が働きやすい職場環境を作ったり、女性でも扱いやすい軽い荷物をできるだけ集めたり、といった施策ですね。あとは、外国人ドライバーを受け入れている会社もあります。
――いわゆる「ダイバーシティ経営」ですね。ただ、難しい点や課題もあるのでは?
たしかに、いきなりダイバーシティ経営にシフトするのは難しいでしょうね。外国人ドライバーを受け入れるとなると、言葉の壁の問題で、現場から「コミュニケーションがうまくいかないのでは?」という心配の声が上がってきます。経営者が高い意識を持って進めていくしかないでしょう。
「守り」から「攻め」へ ダイレクトリクルーティングとは
――昔と比べて、採用方法はどのように変化しているのでしょうか?
かつては、求人広告や人材紹介会社から人を集める「守りの採用」でした。しかし今は、オウンドメディアや人材データベースなどを利用する「攻めの採用」に移り変わっています。こういった企業自らが直接求職者へアプローチする採用活動は、「ダイレクトリクルーティング」と呼ばれています。
他社媒体を介さず自社で直接採用していくダイレクトリクルーティングの方法は、次のように大きく3つに分けられます。
- オウンドメディア・リクルーティング……自社サイトやSNSで情報発信
- リファラル・リクルーティング……社員からの紹介、縁故採用
- ダイレクト・ソーシング……人材データベースを利用し、直接オファーを送る
リファラル・リクルーティングは、従来からある社員紹介制度、縁故採用と基本的には同じです。普通に求人広告で募集するよりも人材が定着しやすいのは大きなメリットでしょう。紹介した人も面倒を見てくれますし、紹介された人も真面目に働く傾向がありますから。ただ、リファラル・リクルーティングを進めるためには、社員紹介制度の仕組みづくりが重要です。ポスターを作ったり、給与明細と一緒にチラシを入れたりと、細かな施策を実施している物流・運送会社もあります。


家族向け専用ページで不安を取り除く
――応募率を高める求人の出し方・見せ方について、何かアドバイスがあればお願いします。
反響の良さでいえば、現場や社風が伝わる写真と動画ですね。運送会社の公式サイトを見ると、たいていはトラックの写真しかありません。社長の顔写真もなく、フリー素材の写真ばかりだと、なかなか応募は集まらないでしょう。
社風の伝え方は、かなり重要なポイントです。というのも、一般的に運送業界のイメージは少しこわいというか、強面の人が多いイメージがありますよね。「みんな笑顔で、イキイキ働いています」なんてコピーがあっても、なかなか伝わらないでしょう。もしドライバー同士が談笑をしている写真や動画があれば、やはり反響は良くなります。
あとはスマホ対応ですね。運送会社の求人ページは、スマホからのアクセスが8割くらい。そもそもパソコンを持っていない人も多いので、いかにスマホから応募しやすくするかがカギとなります。
とある運送会社では、募集要項や仕事内容のあとに、すぐ応募できるフォームを掲載しています。しかもスマホを意識しているため、入力必須項目は「名前」と「電話番号」だけ。普通だと、メールアドレスや住所、生年月日など入力項目を足していきますよね。しかし入力項目が多いほど、応募率は下がっていくのです。

――たしかに、入力項目が多いと、その段階でくじけてしまいそうです。
さらに未経験者の採用に力を入れている会社は、「ドライバー職は初めての方へ」という専用ページを作っています。公式サイト内にわざわざ未経験者向けページを作っていれば、「本当に未経験者歓迎なんだ!」と思ってもらえるでしょう。
たとえば、とある会社の特設サイトには、未経験で入社したドライバーによる座談会の様子が載っています。長距離ドライバーをフォーカスしたコンテンツでは、「1週間のうち何日家に帰れるのか、不安だった」など、安全面と労働時間の話を正直に出している。あとは、教育面での不安ですね。入社して1週間ぐらいで「一人で配送してくれ」と言われたらどうしようと思い、応募するかどうか迷っていました、なんて声もありました。
先輩のドライバーが不安に感じていた内容は、これから応募する人にとっても同じはず。それを公式サイトで払拭しようという狙いがあります。
ほかにも、「一人デビューまでの流れ」と題したコンテンツも見かけますね。座学からスタートし、運転の練習や荷物の扱い方、先輩からの指導など、細かく説明しています。「新人がいきなり現場に放り出されることはないので、安心してください」とアピールすれば、確実に応募は増えるでしょう。
――なるほど。応募者の気持ちに寄り添うようなコンテンツを届けることが大切である、と。
最近は、家族向けのページを作っている会社もあります。ドライバー職は重労働というイメージがあるからか、身内からの反対が多い職種です。その対策として、家族の誤解を解くようなメッセージをしっかり伝えていこうというわけですね。
「土日祝が休みなので、家族だんらんの時間も十分取れます」「こんな福利厚生があります」「健康管理もしっかりやっています」といった安全や労働環境をしっかりアピールすることで、本人はもちろん家族も安心できるでしょう。若いドライバーの採用に力を入れるなら、このように自社サイトでできる施策を積極的に活用してみてください。
<取材先>
船井総研ロジ株式会社 物流ビジネスコンサルティング部
部長/エグゼクティブコンサルタント
河内谷 庸高(かわちや のぶたか)さん
著書『物流会社のための人材採用・育成の教科書』(秀和システム)
TEXT:村中貴士
EDITING:Indeed Japan + ノオト
