交通事故、嫁ブロック、免許制度……ドライバー職が不人気の理由
――物流業界は人手不足と言われていますが、そもそもどれくらい深刻化しているのでしょうか?
物流業界の話をする前に、まずは全体の有効求人倍率を見てみましょう。物流業界に限らず、10年ほど前から日本全体で有効求人倍率がグングン上がっています。
独立行政法人労働政策研究・研修機構『図14 有効求人倍率、新規求人倍率(四半期平均、季調値 1963年第1四半期~2019年第3四半期)』より
最新の数字では、全職業の平均でみても、バブル景気の頃より有効求人倍率が高くなっています。その中でドライバー職に注目すると、1995年ごろからは常に全職業平均より高い数値になっていて、昨今の有効求人倍率は3を超えています。つまりドライバー職は不人気業種ということですね。
2016年に起こった軽井沢スキーバス転落事故あたりから、改めて職業ドライバーに対して危険なイメージをもたれてしまったのかもしれません。他の業界も人手不足で求人がたくさんある中、わざわざドライバー職を選ぶ人が少なくなったのではないでしょうか。
――たしかに、交通事故のニュースはインパクトが大きいですよね。
交通事故はもちろん、その原因が長時間労働にあるといった側面も、ドライバー職が敬遠される理由でしょう。さらにドライバー職は、他の職種と比べても「嫁ブロック」が厳しい。「嫁に反対されたから、面接に行くのをやめた」「内定をもらったけど、家族に反対されたので入社を辞退する」といったことが現実に起こっています。
――とはいえ、昔からトラックドライバーは報酬が多いため、体力のある若者には一定の人気がありました。若いトラックドライバーが減っているのは、人口減少以外の理由があったりするのでしょうか?
若者に関していえば、運転免許制度の改正が1つの大きな要因として挙げられます。2017年に準中型免許が新設され、若者がトラックに乗るハードルが高くなりました。
新しい普通免許では、車両総重量3.5トン未満に限定されています。つまり軽貨物車両か1トントラック、一部の2トントラックしか運転できません。わざわざ準中型免許を取ってまで、トラックドライバーになろうという若者は少ないでしょう。
――準中型免許は、取得するのが難しいのでしょうか。
免許の取得自体は、それほど難しくありません。ただ、プラス数万円の料金を払ってまで準中型免許を取ろうと思う人は少ないようです。現行制度の普通免許では、乗れるトラックの選択肢が狭まります。
かつての物流業界は、即戦力採用を中心に求人を行っていました。自社で教育することができない、もしくは面倒なので、経験者だけを集めていたわけです。ただ、即戦力採用だけでは人が集まらない時代になってきてしまった。
そこで最近では、未経験者採用に力を入れるため、わざわざ免許取得の支援制度を作っている物流・運送会社もあります。「中型免許や大型免許の取得に関わる費用は、すべて会社で負担しますよ」といった制度をアピールし、未経験者を集めようとしているのです。
ドライバーを目指す理由は、「稼ぎたい」より「1人で仕事がしたい」
――ドライバー職に向いている人の特性、性格はありますか。
一般論になってしまいますが、「クルマの運転が好きで、かつ1人で仕事するのが好きな人」でしょうか。
おおむね入社後1カ月は教育期間があり、添乗する先輩から教わりながら仕事を覚えていきます。やがて独り立ちしたら、すべての業務を1人で担当するケースがほとんど。家具の設置や家電の配送などは2人で行うこともありますが、9割以上は1人で配送しています。
――ドライバー職の方は「チームでやろう」より、「仕事をすべて1人で完結させたい」という意識が強いのでしょうか?
その傾向はあるでしょうね。あとは、「営業ノルマがない」「家に持ち帰ってまで仕事をしなくていい」といった理由で選ぶ人もいます。基本的には、荷物を積んで降ろして、その日1日頑張れば終わりですから。異業種から転職してくる人は、そういった理由でドライバー職を選んでいる人も多いでしょう。「人間関係で悩んでいて、辛かった」とか。
大型トラックの長距離ドライバーであれば、「しっかり稼ぎたい」という応募者もいます。ただ、稼ぐことを目的にドライバーを目指す人は、年々少なくなっているかもしれません。
――荷物が多ければ、そのぶん給料も上がるのでしょうか。
給料に反映する要素は、荷物の量と距離です。大型の長距離ドライバーであれば、月40~50万円くらいは稼げます。ただ最近は、デジタルタコグラフ【註】など労務管理機器がトラックに装備されており、違法な長時間労働はできない仕組みになってきています。
したがって、コンプライアンスをきちんと守っている会社ほど、稼げなくなってしまうこともあります。今後はそういった理由で辞めるドライバーも、一部で発生していくかもしれません。一方、近年は労働時間だけでなく、交通事故の観点からも、物流業界に対する監視が厳しくなっています。コンプライアンスが緩い物流・運送会社は、いずれ淘汰されていくでしょう。
【註】自動車運転時の速度・走行時間・走行距離などの運行データを記録するデジタル式の運行記録計。
完全自動化の道のりは遠い? 物流業界の未来
――ドローンの配送や自動運転など、物流業界では最新技術を使った新たな試みが話題になっています。新しい技術をどのように生かすべきでしょうか。
自動運転をはじめ、様々な技術で業務を効率化できれば、ドライバーの負担が減って仕事へのイメージが変化するかもしれません。それにより、結果的に人手不足の解消につながる可能性も考えられます。
たとえばオートクルーズのような、ずっとアクセルを踏んでいなくても時速が一定に保たれる機能があれば、長距離ドライバーの負担を軽減できます。また、アシストスーツのような補助器具を使えば、労働面の補助が期待できるでしょう。さらにテクノロジーが進化すれば、機械がほとんどの作業をこなし、人間がちょっと補助するぐらいの状況にまでなると思います。
――運送業が完全自動化されることはあるのでしょうか。またそれは何年後になると思われますか。
あと5年もすれば状況はガラッと変わるかもしれませんが、こればっかりは何とも言えません。高速道路上での輸送に関しては、もう技術的には自動運転化が可能なようですが、すべての輸送形態が自動化されるのは、当分先になるでしょう。だからこそ物流・運送会社は、技術の進歩に頼るだけでなく、人手不足を解消するため自社に合った効果的な採用活動を模索するべきだと思います。
船井総研ロジ株式会社 物流ビジネスコンサルティング部
部長/エグゼクティブコンサルタント
河内谷 庸高(かわちや のぶたか)さん
著書『物流会社のための人材採用・育成の教科書』(秀和システム)
参考文献:
独立行政法人労働政策研究・研修機構『図14 有効求人倍率、新規求人倍率』
https://www.jil.go.jp/kokunai/statistics/timeseries/html/g0214.html
TEXT:村中貴士
EDITING:Indeed Japan + ノオト