4割が入社1カ月で辞める? ドライバーの離職率が高い理由
――物流業界では、入社してもすぐ辞めてしまうドライバーが多いと聞きました。どれくらいの期間で退職してしまうのでしょうか? また、その理由は?
とある物流会社で過去10年間の退職者データを調べたところ、入社1年未満で退職する人が約7割でした。さらに細かくみると、1カ月以内で辞めている人が約4割となっています。最初の1カ月を研修期間としている企業が多いのですが、その研修中の退職率が圧倒的に高いのです。逆にいえば、定着率アップのカギは新人教育にあると考えられます。
――新人への指導方法やコミュニケーションによって、定着率が変わるということですね。
多くの物流・運送会社では、新人教育を先輩ドライバーの経験や勘に任せています。まともに教えることができない指導員も多く、新人が見よう見まねで覚えるしかない、といったことも。それでは独り立ちするまでに時間がかかるし、離職の原因にもなってしまいます。対策としては、新人向けの教育カリキュラムや現場に即したマニュアルなどを作成し、スピード育成に力を入れることが必要です。
とある会社では、未経験で入社したドライバーを集めてマニュアルを作成しています。これは、入社直後に困った点や業界特有の言葉の意味など、初心者がつまずきやすいポイントをピックアップするためです。たとえば、現場でよく使う専門用語を解説した一覧表を作成して事前に配布しておけば、新人も上長の指示を理解しやすいでしょう。
スピード対応が命 面接前にやるべき施策
――ここからは、応募者とのコミュニケーションについてお聞きします。まず面接の前に注意すべき点を教えてください。
もっとも重要なのは、スピード対応です。もしネットから応募があった場合、できるだけ5分以内に連絡してください。最近はスマホでの応募が大半で、5分以内ならまだ手元にスマホを持っている可能性が高いでしょう。
――え、そんなに早くコンタクトするんですか?
いまはIndeed含め様々な求人があり、気軽に応募できるようになりました。そのぶん、「自分がどこに応募したのか覚えていない」「たくさん応募して、早く連絡が来た3社だけ受ける」といった使い方をしている人も少なくありません。企業側の返信に時間がかかってしまうと、応募者と連絡が取れなくなる確率も高まります。他社に負けないスピード対応が命です。
――スピード対応が熱烈なアプローチになる、という副次効果もあるかもしれませんね。ただ、すぐに連絡が取れても、応募者が必ず面接を受けに来てくれるとは限りません。面接の来社率を高めるには、どうすればいいのでしょうか?
まず、履歴書の事前郵送を取りやめましょう。応募者の立場で考えると、わざわざ封筒や切手などを用意しなければならず、手間もお金もかかるため、その時点で面接への意欲が落ちてしまいます。また、郵送のやりとりだけで2~3日はかかるので、その間に他社から内定を出される可能性もある。履歴書は当日持参で対応しましょう。
そもそも、いまは「応募者が多すぎて大変だから、履歴書で事前選考する」という時代ではありません。しかし、古い物流・運送会社はそれを見直さず、「履歴書は事前に送ってもらうものだ」と従来のやり方をなかなか変えようとしません。そこは意識の改革が必要です。
――最近では「オンライン面接」を実施する会社もあると聞きました。これは対面での面接の前に行うのでしょうか?
そうですね。内定を出すかどうかは顔を合わせて面接するとして、応募者との接点をいかに早く持つか、その解決策の1つがオンライン面接です。LINEやSkypeなどを使い、スマホでのオンライン面接を実施する会社も少しずつ現れ始めました。
スマホによる面接なので、来社する必要もなく、時間も費用もかかりません。応募者の中には、いま在職中でなかなか面接日時を確保できない人もいます。あるいは、地方へのUターン・Iターンで就職を考えている場合、わざわざ面接のために新幹線代を出すのは大変でしょう。「まず一次面接は、オンラインで実施します」とアピールすれば、応募のハードルは確実に下がります。
オンライン面接に取り組んでいる会社は、まだそれほど多くありません。しかし、いまは多くの人がスマホを持っており、オンラインで気軽につながる環境が整っています。今後は、「一次選考はオンライン面接で」という手法が当たり前の時代がくるかもしれません。他社に先駆けて取り組んでみてはいかがでしょうか。
長く働いてくれる人を見抜く質問と面接のポイント
――企業としては、せっかく採用した良い人材にすぐ辞められてしまうのは困ります。長く働いてくれる人を見抜くために、面接でどのような質問をすべきでしょうか?
とある物流会社の社長さんは、面接でかならず「自分は運がいいと思いますか?」と質問するそうです。その意図は、自責型の人間か、他責型の人間かを判断するため。運が悪いと思っている人は、物事を他人のせいにする傾向が大きい。つまり他責型です。
他責型の人は「別に自分は悪くない」「稼げないのは、ちゃんと仕事を回してくれない上司が悪い」「職場を変えれば良くなる」という考えで転職していることが多く、そういう人はすぐ辞めてしまう確率も高いというわけです。
あとは、「うちのホームページを見ましたか」という質問。これによって、就職を考えている会社のことをどれだけ知ろうとしているのか、情報収集の姿勢をチェックします。何も知らずに応募してきた人は、入社しても辞める確率が高いと考えているわけですね。
公式サイトで情報を出している会社であれば、事前にきちんと見た上で面接に臨んでいるかを確認してみましょう。ごく当たり前の話に思えるかもしれませんが、意外と引っかかる人も多いのです。
採用成功のカギは「内定スピード」と「家族との接点」
――面接後、内定を出したのに辞退されるケースもあります。面接後に気をつけなければいけないポイントを教えてください。
どの会社にも共通して言えるのは、内定を出すスピードです。昔は「面接当日に内定を伝えると、本当に人が足りなくて焦っていると思われるかも」「足元を見られるのが嫌だから、あえて5日後ぐらいに連絡しよう」という会社が普通にありました。でも、いまは5日も返事をせずにいると、他社に流れてしまいます。本当に良い人を見つけたら、すぐに連絡してください。
大きい企業だと、「本社に稟議をあげてからでないと、内定の連絡ができない」「信用調査にかけるため、時間がかかる」といったケースもあります。そういう場合も、面接担当者が良いと思えば、内定を出す前提で応募者に伝えておく。このスピード感がすごく重要です。
入社後のコミュニケーションでは、家族参加型のイベントを開催する会社が増えてきました。バーベキューやボウリングなどのレクリエーション、家族参加型の懇親会などですね。社長と家族が面識を持つことによって、社員の定着率は確実にアップします。
ドライバーに長く働いてもらうためには、面接で適性を見極めるだけではもはや不十分です。面接前の対策や入社後のフォローなど、時流に合わせた採用のプロセスを設計しましょう。
<取材先>
船井総研ロジ株式会社 物流ビジネスコンサルティング部
部長/エグゼクティブコンサルタント
河内谷 庸高(かわちや のぶたか)さん
著書『物流会社のための人材採用・育成の教科書』(秀和システム)
TEXT:村中貴士
EDITING:Indeed Japan + ノオト