看護師の求人に成功している医療施設は、どのような募集・採用をしているのか


医療業界では人手不足が続いています。そんな中でも、うまく看護師を採用している医療施設があるようです。なかなか看護師を増やすことができない施設と比べて、何がどう違うのでしょうか。
 
順調に看護師を採用している医療施設の取り組みや、応募者を増やすための求人の出し方・見せ方について、専門家にお聞きしました。医療施設に対して採用支援を行っている株式会社船井総合研究所の人材ビジネス支援部部長・山根康平さんとチームリーダー・植野公介さんが解説します。

 
 

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医療施設の後継者問題と人手不足


――近年、人手不足に悩んでいる医療施設が多いようです。なかには経営が行き詰まり、廃業に追い込まれる病院もあると聞きました。そのあたりの実情について教えてください。
 
帝国データバンクが発表している「医療機関の倒産動向調査」によると、2019年に倒産(負債1000万円以上、法的整理)した医療機関の数は45件で、2010年以降では最も多い数字です。
 
とくに地方では、小さな病院・診療所が廃業となってしまう、もしくはM&Aで買収されるケースが増えています。その要因は、看護師などスタッフの人手不足だけでなく、後継者がいないという問題もあります。もし院長の子どもが医師以外の職業に就いている場合、他に後継者を探さなければなりません。地方ではそれが難しく、廃業せざるを得ないのです。
 
――なるほど。一方で、看護師不足の問題が病院のサービスに影響を与えているようですが、その点についてはいかがでしょうか。
 
看護師の人員配置は、医療法により「7対1看護」「10対1看護」などの基準が決まっています。7対1というのは、1人の看護師で7人の患者さんを見るというルールです。
 
そもそも1人が複数人を処置する仕事なので、看護師の負担は大きくなります。看護師が不足すると、当然ながら患者さんに対するケアやサービスの質にも影響が出てくるでしょう。

 
 

リファラル、オウンドメディア etc. 成功する採用の共通点


――医療施設のサービスを維持していくためには、看護師を適切に配置しなければならないということですね。では、どうすれば看護師をうまく採用できるのでしょうか?
 
看護師をうまく確保できている医療施設の共通点としては、次の3つが挙げられます。

 

  1. 院長が経営者思考を持っている
  2. リファラル(紹介・縁故)採用が多い
  3. 医療系専門の求人サイト、あるいはオウンドメディアを活用している


このうち1と2は繋がっています。もし院長が経営者思考を持っており、メディアに露出するようなカリスマ的な人物だった場合、病院の知名度が上がり、人気も出ます。そうすると、いま勤務している看護師が「私たちの病院で働いてみませんか?」と、自信をもって知り合いに声を掛けられるのです。
 
――院長の人物特性が、リファラル採用にも影響するのですね。3つ目の「医療系専門の求人サイト、オウンドメディア」というのは?
 
現在はさまざまな会社が「医療系に特化した求人サイト」を公開し、誰でも仕事内容を検索、閲覧できるようになりました。ただし、サイトによって特徴や強み、求人の手法が異なります。成果報酬型の場合は、「1人採用できれば○○円」という課金システムで、基本的にはこれをおすすめしています。ほかにも「応募1件につき○○円」という応募課金型、「1クリックごとに○○円」というクリック課金型を提供している求人サイトがあります。
 
また、最近増えているのが「オウンドメディアリクルーティング」と言われる、自社でメディアを持つ手法です。知り合いにWeb制作会社の方がいる、もしくは社内スタッフでサイト制作ができそうなスタッフがいる場合は、オウンドメディアを活用した採用をおすすめしています。
 
最近の求職者は、まず施設名や病院名で検索し、「どんな人が働いているのか」「どんな職場環境なのか」など、欲しい情報が載っているかどうかを探します。もし自社メディアでそういった情報を積極的に発信していれば、職場への信頼、ひいては応募にも繋がっていくでしょう。
 
なお、医療系求人サイトとオウンドメディア、いずれのリクルーティングであっても、1回の閲覧あたりでどれぐらいのコストがかかっているのかを把握することは重要です。
 
――さまざまな手法がある中、看護師の採用ルートとしては何がいちばん多いのでしょうか?
 
もっとも多いのは、医療系に特化した人材紹介会社からの採用で、割合としてはおおむね50~60%ぐらいです。リファラル採用は20~30%で、医療系専門求人サイトやオウンドメディアを経由した採用が残り10~20%ぐらいでしょう。
 
ただし、人材紹介会社からの採用は、看護師1人あたり100万円前後と大きなコストを支払わなければなりません。もちろん人材紹介会社を通じた採用は重要であるものの、費用対効果を考えるとリファラル採用やオウンドメディアリクルーティングのほうが有効といえます。そういった施策に早くから取り組んでいる施設は、うまく看護師を採用できているのです。

笑顔で病院内を歩く看護師のイメージ
 
 

応募者増のポイントは「キャリアビジョン」と「条件の明示」


――看護師の応募者を増やすためには、どうすればよいのでしょうか? 求人の出し方、施設の見せ方について、何かアドバイスがあればお願いします。
 
病院は、患者さんの病状に応じて「急性期」「回復期」「慢性期」という3つの形態に分かれており、それぞれ看護処置が異なります。求人を出す際には、自院がどの形態に属しているのか、はっきり示さなければいけません。
 
また、福利厚生や教育制度、どんなスタッフが働いているか等々、ほかの病院との差別化につながるポイントを明示しておけば、応募者の理解が得やすくなるでしょう。
 
――新卒者向けと中途採用者向けは、求人情報の出し方を変える必要があるかと思います。注意すべき点を教えてください。
 
新卒者向けの場合は、キャリアビジョンを見せることが重要です。公益社団法人 日本看護協会は、看護学校等に対して「なるべく早い段階から、病院以外の働き口を紹介しましょう」と推奨しています。というのも、昔からの慣習として「看護師はまず病院で勤めるべきだ」という考えが根強く残っているのです。
 
実際、新卒者の9割は病院に勤めており、その時点でキャリアが一択に絞られてしまいます。しかし現実的には、労働環境にマッチせず辞めてしまうケースが少なくありません。「最初は急性期の病院で働き、その後は介護施設へ異動する選択肢もありますよ」「病院勤務じゃなくて訪問看護という働き方もありますよ」といったキャリアビジョンを見せることで、その病院への応募率は大きく変わるでしょう。
 
中途採用者の場合は、たとえば子育て中の主婦であれば、勤務地がもっとも重要なポイントとなります。多くの人は自宅から近い施設を探すので、「○○団地から近い」「○○駅から徒歩5分」など、立地を全面にアピールするとよいでしょう。
 
――新卒者にはキャリアビジョンを、中途採用者には働きやすさをアピールすることで、応募者が増えるわけですね。
 
ただ最近の傾向を見ると、看護師含め、医療従事者の求人数が増え過ぎています。有料の求人広告数が毎年1.5~2倍ずつ増えているため、医療業界の求職者は求人情報に触れる機会が非常に多いのです。そのため、応募者がいろんな施設を比較検討しやすいよう、給与や福利厚生などの条件面を明確に提示したほうがいいでしょう。
 
たとえば、賞与が年2回と年3回の病院があったとして、1回あたりの金額が明示されていなければ、総額としてどちらが多いのか判断できません。「昨年度の実績は○○万円」とわかりやすく明記することが非常に重要です。
 
給与に関しても、「月○○万円~○○万円」のようにあいまいな提示をしている法人はまだまだ多いですが、これは応募者にとって不親切と言わざるを得ません。「昨年度実績で、勤務1年目は月○○万円、勤務5年目では月○○万円」と具体的な数字を明示すれば、応募者にとってわかりやすい求人情報となるでしょう。
 
このように、正直かつ積極的に情報を開示することが応募者を増やし、採用活動を成功に導く重要なポイントとなるのです。

 
 
 

※この記事は2020年4月17日に取材したものです。
 
<取材先>
株式会社船井総合研究所 人材ビジネス支援部
部長 山根康平さん
チームリーダー 植野公介さん
 
船井総合研究所/人材採用・人材募集ドットコム

https://www.jinzai-business.com/

参考:
帝国データバンク「医療機関の倒産動向調査」

https://www.tdb.co.jp/report/watching/press/p200101.html

TEXT:村中貴士
EDITING:Indeed Japan + ノオト

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