看護師に多い離職理由は、「結婚・出産・育児」と「人間関係」
――看護師不足の原因の一つに、離職者の多さが挙げられるかと思います。看護師の離職率はどれくらいなのでしょうか?
公益社団法人 日本看護協会が発表している「病院看護実態調査」 によると、正規雇用看護職員の離職率(2018年度)は 10.7%となっています。ここでいう離職率は、1年間の総退職者数を平均職員数で割ったものです。
1年間の退職者数を採用者数で割った「採用者離職率」で見ると、新卒採用者は7.8%、既卒採用者(新卒ではない看護職経験者)は17.7%となっています。
病院看護職員の離職率の推移(公益社団法人 日本看護協会発表「2019 年 病院看護実態調査」より抜粋)
離職率の推移を見ると、全体としてはおおむね横ばいの状態が続いています。その中で特に気になるのが、既卒採用者の離職率です。17.7%ということは、既卒者の約6人に1人が、再就職したにもかかわらず年度内に退職している計算になります。既卒採用者の定着率を高める取り組みが必要でしょう。
――看護師の離職理由は、どういった内容が多いのでしょうか?
離職理由でもっとも多いのが、結婚・出産・育児関連です。その次が人間関係で、おおむねこの2つに集約されるかと思います。あとは給料など条件面で折り合いがつかず、離職してしまうケースもあるでしょう。
給料の希望は、ライフプランと連動しています。たとえば「シングルマザーになってしまったため、もっと給料を上げてもらわないと生活できない」といった理由ですね。ライフスタイルが変化することで、「もっと休みがほしい」という要望するケースがあるかもしれません。
長く働いてくれる看護師を見極めるには
――面接で長く働いてくれる看護師を見極めるには、どうすればよいのでしょうか。
長く働いてくれるかどうかは、応募者自身がキャリアビジョンをどこまで考えているのかによって変わります。
まずは、ご結婚されているかどうか、扶養家族がいるかどうか。これは一般的な履歴書にも記入する欄がありますので、質問して構いません。その上で、「私たちの病院で勤めていただくことになった場合、8時間勤務で夜勤ありという条件になりますが、どれぐらいまで働けるイメージをお持ちですか?」と質問してみます。
応募者の回答が「私は1年前に結婚をしました。2~3年以内に子どもを産んで、リタイアする可能性があります。そのため夜勤含め8時間勤務ができるのは、おそらく2~3年ぐらいです」という内容だったとしましょう。その場合は人事担当者として、「2~3年以内の勤務でも採用すべきかどうか」を判断する流れになります。プライベートに関して細かく質問することは個人情報保護の観点でNGですが、応募者自ら話してもらう内容で判断できる部分はあります。
あとは、転職者に対する質問例としてよく挙げられる、前職の離職理由です。「職場のコミュニケーション不足で離職した」という人の場合、自社でもコミュニケーションエラーを起こしてしまうかもしれません。
――離職理由で2番目に挙げられた「人間関係」の部分ですね。病院内でのコミュニケーション不足で、他のスタッフとの連携がうまくいかず辞めてしまうケースが多いのでしょうか。
ここでいう人間関係は、大きく2つに分けられます。「応募者自身の性格に起因する人間関係」か、「看護師の職務に起因する人間関係」か、です。まずそこを見極めなければいけません。
看護師としての役割の中でコミュニケーションエラーを起こしてしまった場合は、プライバシーに十分配慮しながら、過去のエピソードやトラブル事例を聞いた方がよいでしょう。実際によくあるのが、看護師長とウマが合わず辞めてしまったケース。もし看護師長のパワハラによる離職だとすると、自社でその点が問題なければ、長く勤めてもらえるかもしれません。もちろん自社において、看護師長と看護スタッフとの人間関係に問題がないかどうか、改めて見直す必要があります。
看護師同士、もしくは院長とのコミュニケーションエラーにより離職してしまうケースも少なくありません。そういった理由を丁寧に聞き出すと同時に、自らの施設において良好な人間関係を築けているか、改めて振り返ることが大切です。
面接の前後にやっておくべきことは
――続いて、面接の前後で実施すべき施策についてお聞きします。面接前の準備は、どのような点に注力すればよいのでしょうか。
面接をする前に、その仕事が合うか合わないか応募者に実感していただくことが重要です。そのための施策としては、主に新卒者を対象とした説明会、ナース体験会、インターンシップなどが挙げられます。
また日本看護協会では、都道府県に設置しているナースセンターにおいて復職支援を行っています。もし子育てなどで長期間離職していた人は、復帰するとしても不安が大きいでしょう。そのため、希望する看護職向けに、復職支援のための相談受付や研修を実施しているのです。そういった機関と連携するのも一つの手でしょう。
――新卒者向けには看護職を体験する機会、既卒の経験者には復職支援のサポートが重要ということですね。では、面接後のフォローについてはいかがでしょうか?
もっとも大事なのは、内定辞退を避けることです。そのためには、求職者が同時に何社受けているのかをチェックしておく必要があります。
求職者はおおむね3~5社を同時に応募し、採用試験を受けています。その中で優先順位はどこなのか、確認しておきましょう。自社が1番目に選ばれているとしたら、内定辞退はされないはずです。
しかし実際には、優先順位が2番目以下のケースもあり得ます。その場合は、1番目との差はどういう点にあるのか、丁寧に聞いてみましょう。それが給料だとすると、もしその方が優秀で必要な人材であると判断したなら、面接後に給料アップを検討すべきです。
いま同時に何社受けているのか、自社は優先順位の何番目なのか。さらに、応募者が実際に働くことになった場合、どんな点を気にしているのか。そのポイントをできるだけ細かく質問します。
――3社応募している中で、自社の面接が1社目だった場合はどうすればよいのでしょうか?
その場合は、2社目、3社目の面接日はいつ頃なのかを聞いてみてください。その上で、「すべての面接が終わった後に、ほかと比べて自社はどうだったか教えてほしい」と伝えておきます。最後に再び自社との面接日程を取ってもらうよう、お願いしてみましょう。
そこまで進めば、応募者にとって良かった点、悪かった点を聞くことができます。もし他社に比べて劣っているポイントが分かれば、すぐに改善するよう努力すべきです。そういったフォロー体制を準備しておけば、内定辞退を減らせるでしょう。
※この記事は2020年4月17日に取材したものです。
<取材先>
株式会社船井総合研究所 人材ビジネス支援部
部長 山根康平さん
チームリーダー 植野公介さん
船井総合研究所/人材採用・人材募集ドットコム
https://www.jinzai-business.com/
参考:
公益社団法人 日本看護協会「2019年 病院看護実態調査」
https://www.nurse.or.jp/up_pdf/20200330151534_f.pdf
TEXT:村中貴士
EDITING:Indeed Japan + ノオト