看護師の人手不足、その理由とは? 医療現場が抱える課題と今後の展望


いま医療業界では、看護師の人手不足が深刻化しています。なかには看護師不足が慢性化し、1人あたりの業務量が増加している医療現場もあるようです。いったいなぜ、看護師が集まらないのでしょうか。
 
医療現場が抱えている課題や今後の展望、看護師に向いている人材について、専門家にお聞きしました。医療施設にコンサルティングを行っている株式会社船井総合研究所の人材ビジネス支援部部長・山根康平さんとチームリーダー・植野公介さんが解説します。

 
 

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責任が重い、勤務形態が不規則……現場の実態は


――医療現場では、看護師の人手不足が問題となっているようです。なぜ看護師が足りない状況が続いているのでしょうか?
 
実は、看護師の数そのものは毎年5万人くらい増えています。しかし、その人数ではカバーしきれないペースで、医療を必要とする高齢者の数が増えているのです。2025年には、1947~1949年ごろに生まれた第一次ベビーブームの世代が75歳以上となり、医療および介護業界に大きな影響を与えると考えられています。これが、いわゆる医療現場の「2025年問題」です。
 
厚生労働省が2019年9月に発表した「第11回看護職員需給分科会 資料」によると、2025年における看護師の需要は188~202万人、供給は175~182万人と推計されています。つまり、最低でも6万人、最高で27万人の看護師が不足することになるのです。
 
――高齢化による医療需要の高まりに対して、看護師の供給が追いつかないのですね。一方で、「看護師の仕事は大変だ」というイメージもあるようですが、その理由を教えてください。
 
大きく2つの理由が考えられます。1つ目は「業務量が多い、および責任が重い」、2つ目は「不規則な勤務形態」です。
 
看護師の人員配置は、医療現場ごとに「7対1」や「10対1」といった基準が医療法によって定められています。7対1というのは、看護師1名が患者さん7名を受け持つという意味です。そもそも1人が複数人を処置する仕事なので、看護師の負担は大きいといえます。また、配属先によっては、死と向き合う頻度の高い現場もあるでしょう。
 
――「業務量が多い」というのは、人手不足により看護師1人あたりの負担が増えているからでしょうか?
 
業務量の点で問題となるのが、看護処置レベルです。多くの病院では、看護処置レベルが高い人と低い人との差が開き、一部の看護師に業務量が集中してしまう傾向があります。
 
そもそも看護師には「正看護師」と「准看護師」という2種類の資格があります。業務内容は正看護師も准看護師も大きくは変わりません。ただ准看護師は資格上、「医師・歯科医師又は看護師の指示を受けて」業務を行うことになっており、自己判断で動けない点が正看護師と異なります。そのため、病院によっては正看護師が准看護師のフォローに回り、時間と手間を取られてしまうことが少なくありません。患者さんとのコミュニケーションや処置のスピードなど、看護処置レベルの差によって業務量に偏りが生じてしまうのです。
 
――看護処置レベルが高い正看護師に業務が集中してしまうのですね。
 
さらによくあるのが、業務の分け方に問題があるケースです。病院ではシーツ交換や排せつ介助など、看護処置以外の業務が多々あります。しかし病院によっては、細かい雑務まで正看護師に任せてしまっているケースが少なくありません。看護師は、資格がないとできない看護業務に集中すべきでしょう。
 
――看護処置以外の業務は、看護助手など無資格者に任せた方がいいということですね。では2つ目の「不規則な勤務形態」というのは?
 
これは主に夜勤と休暇の問題です。病院は基本的に休暇が取りにくく、しかも夜勤が発生します。たとえば結婚して子どもが生まれると、ほとんどの人は夜勤が難しくなるでしょう。
 
また、子どもの急な病気に対応できないといった不都合が生じます。病院側が働き手の要望に応えきれていないため、多くの看護師が結婚・出産によって離職してしまうのです。もし子育てが一段落しても、病院に戻ることは難しいかもしれません。
 
――病院での勤務時間が、働き手の都合に合わないということでしょうか。
 
そのとおりです。子どもを保育園に預けている看護師は、おおむね10~15時までしか働けません。しかし、短時間勤務を取り入れている病院はまだ少なく、働き手の要望に応えられていないのです。24時間で3勤務交代と考えると、病院側としては9~18時、もしくは10~19時の勤務が理想でしょう。働き手の要望と、病院の勤務体制とのミスマッチにより、看護師が集まらない状態になっているのです。
 
そういった状況を踏まえ、最近では8時間勤務を固定しつつ託児所を設置している病院が増えています。しかし、どうしても4時間しか働けない看護師もいますし、そういう人は介護や障害福祉、保育といった他業界に移ってしまう可能性が高くなります。
 
――介護施設や保育園にも、看護師の仕事があるのでしょうか?
 
基本的に、介護施設は介護士、保育園は保育士が中心となって働いています。ただ医療的観点により、少人数の看護師を配置しなければいけないルールが法律で定められているのです。それらの施設は、病院と比べると働き手側の要望に応えているといえます。
 
たとえば介護施設では、30~40代のパート介護士が多く働いています。そもそも短時間勤務を受け入れないと事業が運営できないので、看護師にも同じ勤務形態が適用されているのです。

 
 
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課題は「復職の支援」と「離職を防ぐ環境づくり」


――看護師の人手不足に対して、どのように対処していけばよいのでしょうか? 医療現場が抱える課題と、今後の展望についてお聞かせください。
 
看護師の人手不足解消については、3つの課題が挙げられます。

 

  • より多くの人材を養成できるか
  • きちんとした復職支援ができるか
  • 離職を防ぎ、定着率をアップさせられるか


看護師の養成促進は、日本全体が少子化で若者が少なくなっているため、限界があります。どちらかというと、勤務形態を柔軟にするなどの復職支援と、看護師が辞めないような環境づくりをどれだけ推進できるかがポイントとなるでしょう。
 
――新たな人材登用の前に、現職の看護師をうまく登用していくことが重要である、と。
 
たとえば製造業で考えると、不景気になれば求人倍率が下がり、期せずして人手不足が解消される可能性はあります。しかし医療業界に関しては、少子高齢化による人手不足のため、景気が良くても悪くてもあまり影響を受けません。そこは他の業界と決定的に違う点です。
 
上記のほか、人材不足を解決する策として「AIやロボットなど、人間の代替となる労働力の確保」と「外国人労働者の活用」が挙げられます。ただし、他の業界と比べると、どうしても難易度は高いでしょう。

病院内を移動する看護師のイメージ
 
 
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看護師にとって必要なコミュニケーション能力とは


――どんな人が看護師に向いているのでしょうか? 看護師に必要な適性や素養について教えてください。
 
看護師に向いているかどうか判断するポイントとしては、次の3つが挙げられます。

 

  1. 血を見ることや排せつ介助等、業務内容に抵抗がないか
  2. 専門職として突き詰めて仕事ができるか
  3. 適切なコミュニケーションが取れるか


看護師は人の体を扱うので、当然ながら血や傷口を見る場面が多くなります。また、排せつ介助が必要な病院もあります。そういった業務に抵抗がある人は、そもそも看護師には不向きだといえるでしょう。
 
また、看護師は専門職であり、職務として突き詰めていかなければなりません。病院側の視点でいうと、スペシャリストを育てる必要があるのです。看護師として職を全うすることができるかどうかが重要なポイントとなります。
 
――3つ目の「適切なコミュニケーション」は、患者さんへの対応に必要なコミュニケーション力ということでしょうか。
 
もちろんそれもありますが、より重要なのは他のスタッフとのコミュニケーション能力です。
 
医療現場は専門職の集まりです。医師や看護師だけでなく、リハビリを担当する理学療法士、介護士、医療事務など、ほぼ専門職しかいないといっても過言ではありません。現場では、部門間で調整しなければいけない業務が数多く発生します。
 
他の専門分野の担当者としっかり連携しながら業務を進められるかどうか。看護処置の知識や技術だけでなく、コミュニケーション能力も看護師にとって必要不可欠な素養なのです。

 
 
 

※この記事は2020年4月17日に取材したものです。
 
<取材先>
株式会社船井総合研究所 人材ビジネス支援部
部長 山根康平さん
チームリーダー 植野公介さん
 
船井総合研究所/人材採用・人材募集ドットコム

https://www.jinzai-business.com/

参考:
厚生労働省『第11回看護職員需給分科会 資料』

https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_07019.html

TEXT:村中貴士
EDITING:Indeed Japan + ノオト

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