看護師の定着率を高めるためには? 離職を防ぐ3つのポイント


医療業界では、慢性的に看護師の人材不足が続いています。人材不足を解消するためには、離職を防ぎ定着率を高めなければいけません。では具体的に、どのような対策を講じればよいのでしょうか。
 
看護師の定着率が高い医療施設の取り組みや、長く働いてもらうことのメリットについて、専門家にお聞きしました。解説は、医療施設へのコンサルティングを行っている株式会社船井総合研究所の人材ビジネス支援部部長・山根康平さんとチームリーダー・植野公介さんです。

 
 

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看護師の定着率に差が出る3つのポイント


――いま医療業界では、看護師不足が問題となっているようです。看護師の求人倍率について、最新のデータを教えてください。
 
公益社団法人 日本看護協会が公表しているデータによると、看護職の求人倍率は2.32倍(2018年度)となっています。2014年度の2.79倍をピークにやや下がっている傾向はあるものの、ここ数年は2.30~2.40倍で推移しています。全職種の平均と比べると、看護師の求人倍率はおおむね2~3倍くらいといっていいでしょう。

公益社団法人 日本看護協会『2018年度 「ナースセンター登録データに基づく看護職の求職・求人・就職に関する分析」結果』より抜粋公益社団法人 日本看護協会『2018年度 「ナースセンター登録データに基づく看護職の求職・求人・就職に関する分析」結果』より抜粋。赤線が看護職の求人倍率


ただ、私たちがコンサルティングしている医療機関の話を聞く限り、実情はもっと厳しい数字になるかと思います。明確なデータはありませんが、7~10倍くらいの求人倍率が実態に近い値でしょう。
 
――現場レベルでは、公表されている求人倍率よりも看護師を採用しづらい状況になっているのですね。
 
看護師が不足している原因としては、少子化により若手人材が少なくなっていると同時に、離職者が多いという問題があります。人材不足を解消していくためには、看護師の定着率を高める対策を講じなければいけません。
 
――看護師の定着率が高い医療施設と低い医療施設は、何がどう違うのでしょうか。
 
看護師の定着率に差が出るポイントとしては、次の3つが挙げられます。

 

  1. 院長に経営思考があるか
  2. 部門間の打ち合わせがしっかりできているか
  3. 事務長が優秀か


そもそも医師は、医学の勉強はするものの、経営の勉強をしないまま医療施設を運営するケースが少なくありません。経営のノウハウを持たないまま院長になり、医療法人のトップになってしまうことで、病院経営に問題が発生することがあるのです。
 
病院をうまく経営していくためには、経営学や組織論をしっかり勉強しなければなりません。そこがおろそかになっていると、職員へのフォローが行き届かず、看護師の離職率が高くなってしまうのです。院長が経営思考を持っているかどうかが、定着率を左右する大きなポイントになるといえます。
 
――いくら医師としての技術レベルが高い人であっても、病院のトップに立ってうまく経営していけるとは限らない、ということですね。2つ目の「部門間の打ち合わせ」というのは?
 
病院では、部門間の衝突が少なくありません。医師や看護師、理学療法士など専門職が集まっているため、それぞれの視点から異なる意見が挙がり、ぶつかり合ってしまうのです。たとえば「看護サービスの視点では正しいけれども、リハビリの視点では正しくない」といった事象が起こりえます。
 
もし意見が食い違う場合は、部門間できちんと打ち合わせをして、折り合いをつける必要があります。しかし実際には、カンファレンスは実施しているものの全員が納得した内容になっていないケースが多いのです。部門間で軋轢が生まれると、それをきっかけに離職者が発生する可能性が高くなります。
 
――なるほど。3つ目の「事務長」というのは、どういうポジションなのでしょうか?
 
病院によって若干異なりますが、基本的には院長の参謀にあたる方が事務長と考えてよいでしょう。仕事としては、各部門のあいだに立ち、潤滑剤として業務をうまく回していくようなイメージです。
 
事務長が優秀でないと、部門間の適切な打ち合わせや院長へのサポートができず、組織として成り立ちません。その結果、離職者が発生してしまうのです。事務長がしっかりと間に立って調整できるかどうかが、定着率に影響を与えると考えてよいでしょう。

 
 
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理念の浸透と、教育体制の強化を


――看護師の定着率を高めるためには、どのような施策を講じればよいのでしょうか。
 
先ほど説明した、「院長に経営思考があるか」「部門間の打ち合わせがしっかりできているか」「事務長が優秀か」の3つのポイントを改めて見直すとともに、看護師含むスタッフに病院の理念を伝え、浸透させる必要があります。
 
――患者側からすると、どの病院もそんなに変わらないのでは?と思ってしまうのですが……病院によって、理念はそんなに異なるものなのでしょうか。
 
患者さんの待ち時間を例に挙げるとわかりやすいかと思います。病院での待ち時間を少なくするためには、スタッフ間の連携を強化し、患者さんファーストで動かなければなりません。
 
また、医師が症状について説明する時間の長さも、理念の差が表れるポイントです。なかには患者さんに対する説明が短く、一言二言程度で終わってしまう病院があります。「患者さんに安心してもらうために、症状と症例の話を詳しく説明する」という理念を掲げ、それが浸透していれば、患者さんは「この病院は丁寧だな」と感じるでしょう。
 
病院としての理念をきちんと定めた上で、それに共感するスタッフが揃っていれば、業務がうまく回っていくはずです。
 
――患者さんへの対応方針など、病院の理念を浸透させることで、看護師の定着率が高まるわけですね。
 
そのほか、看護師に対する教育や研修など、スキルアップのための体制がしっかりしている病院は、定着率が高くなります。評価制度も重要でしょう。

研修中の看護師のイメージ
 
 
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看護師に長く働いてもらうことで生まれるメリット


――看護師に長く働いてもらうと、病院にとってどのようなメリットが生まれるでしょうか?
 
これも3つのポイントに分けて説明します。

 

  1. 病院の形態ごとでの習熟度の向上
  2. 教育がきちんと行き届く
  3. 採用コストが下がる


この中で最も重要なのは、「病院の形態ごとでの習熟度」です。医療施設は患者さんの病状に応じて、急性期、回復期、慢性期という3つの形態に分けられ、それぞれ行われる看護サービスが異なります。
 
急性期は病気になりはじめる時期で、症状がどんどん変わっていく可能性があります。回復期は、文字どおり体の機能を回復させていく時期で、リハビリを実施し治癒を目指します。慢性期は、病状は比較的安定しているものの、長期間に渡って治療を行わなければならない時期です。
 
たとえば、急性期の現場で働いていた看護師が回復期の病院へ転職した場合、看護処置の対応が異なる場合もあるため、その病院でイチから学び直さなければいけません。
 
逆に、同じ形態で長く働いていれば、看護サービスの習熟度は上がっていくはずです。看護師の習熟度が高くなれば、病院全体としての業務効率もアップするでしょう。
 
――同じ看護師でも、形態によって看護処置が異なるわけですね。2つ目の「教育がきちんと行き届く」というのは、長く勤務した看護師が新人や後輩を教える立場になってくれる、ということでしょうか?
 
そうですね。看護師が同じ場所で長く働けば、院長の特性やその病院ならではの独自ルールを自然と把握するようになります。そういったベテランが若手にきちんと教える機会が増えれば、教育水準が上がるはずです。
 
3つ目のコスト面でのメリットは、病院の経営にとっては大きな恩恵となるでしょう。離職者が少なくなれば、新たに採用する人を減らせるため、採用にかかるお金も削減できます。人材紹介会社に依頼すると、1人あたり90~120万円ほどの紹介料がかかってしまいますから。
 
最終的にここで挙げた3つのポイントは、すべて連動しています。習熟度の向上ができず、教育が行き届かないと、離職者が発生しやすくなるでしょう。その離職を新規採用で補おうとしても、なかなか人が集まらないため、人材紹介会社等に頼らざるを得なくなります。結果、大きな採用コストがかかってしまう。それが多くの医療施設が直面している現実なのです。
 
医療法人の経営者は、習熟度の向上や教育体制など、いま働いている看護師の労働環境を改めて見直す必要があるでしょう。

 
 
 

※この記事は2020年4月17日に取材したものです。
 
<取材先>
株式会社船井総合研究所 人材ビジネス支援部
部長 山根康平さん
チームリーダー 植野公介さん
 
船井総合研究所/人材採用・人材募集ドットコム

https://www.jinzai-business.com/

参考:
公益社団法人 日本看護協会「2018年度 『ナースセンター登録データに基づく看護職の求職・求人・就職に関する分析』 結果」

https://www.nurse.or.jp/up_pdf/20191115184506_f.pdf

TEXT:村中貴士
EDITING:Indeed Japan + ノオト

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