雇用時に身元保証書は必要?その対応で気をつけることは?

身元保証書

2020年4月1日の民法改正により、雇用契約の際、会社が入社する者に身元保証書を求める場合は、賠償額の上限を決めた上で、身元保証人の合意を得ることが義務づけられるようになりました。
 
そもそも身元保証にはどのような役割があり、どういった注意点が必要なのでしょうか。社会保険労務士法人あいパートナーズの岩本浩一代表にお話を伺いました。

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身元保証とは

会社と入社予定者が雇用契約を結んだ場合、内定の決定後や入社するタイミングにおいて、入社予定者に身元保証書の提出を求めることがあります。
 
身元保証書には、入社予定者の氏名や居住地などの記入欄があり、入社予定者が立てた身元保証人の署名・捺印を求めます。これは入社予定者の身元が確かな人物であることを証明するとともに、本人の入社後に、会社に何らかの損害を与えてしまい、なおかつ本人が賠償金を支払う能力がない場合、身元保証人がその損害を連帯責任で賠償する旨が記載されています。
 
すべての会社が身元保証を求めるわけではなく、各会社が任意で就業規則に定めて提出の有無を決めるものです。法的に提出が義務付けられているものではありません。

 
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身元保証はなぜ必要?

身元保証が必要とされる理由として、下記の3点が挙げられます。

  1. 本人(入社予定者)の身元が確かであること(申告している本人情報が、偽名や虚偽の住所ではない)の証明
  2. 入社後、本人の過失で会社になんらかの損害が発生したときに、連帯して損害賠償する存在(身元保証人)の証明
  3. 本人に何かがあった場合の、緊急連絡先の把握

また、身元保証人を立てて身元保証書を提出してもらうことで、本人の不祥事や不始末の抑止効果が期待できるという面もあります。
 
損害の例としては、横領や会社が管理している個人情報の漏洩、会社の備品やデータを故意に破損した場合などが挙げられます。
 
とはいえ、身元保証を求める会社では、1の「本人確認」や、3の緊急連絡先を知るために身元保証書を提出させるケースが多く、「万が一何かあったときのために」「念のため」といった感覚で形骸化しているのが実情であるともいわれています。

2020年の民法改正で身元保証はどう変わったか

従来は賠償額を決めずに身元保証書を取り交すことが可能でしたが、2020年4月より、賠償額の上限設定が義務付けられるようになりました。民法改正後は、上限金額を定めない限り契約は無効になります。また、契約の期間は定めがあれば最長5年、なければ最長3年となり、自動更新はできません。身元保証を取るためにはもう一度取り直す必要があります。上限額の適用は、2020年4月以降に入社した従業員が対象となります。

◆賠償の上限はどう決めればよいか

賠償の上限額は企業側で自由に設定できます。しかし、数千万円~1億円などあまりに高額だと、入社時の身元保証人を引き受けてもらうこと自体が難しくなるでしょう。
 
逆に、数十万円程度の少額では、わざわざ身元保証をさせる必要性に疑問が生じてきます。
 
また、高額の設備を扱う業務や、個人情報を扱う業務など、担当業務や部署によっても金額は変わってきます。会社は部署異動などのたびに業務内容に応じて賠償の極度額を決め直し、その都度身元保証人に合意を得る必要が生じます。
 
以上の理由から、支払いが可能で、かつ少額すぎない、現実味のある金額を設定する必要があります。しかし、実際に損害賠償を請求して本人に支払い能力がなかった場合、身元保証人による賠償額は最終的に裁判所が判断するため、身元保証書に記載された全額を支払ってもらえるとは限りません。
 
身元保証人になるのは両親や兄弟、配偶者などのケースが多くあります。しかし、さまざまな事情で身元保証人を立てるのが難しかったり、会社の設定した損害の上限額の高さからマイナスイメージを持ったりしたことで、本人が入社自体をやめてしまうリスクもあります。
 
仮に身元保証人が決まっていても、支払い能力がなければ損害賠償に応じてもらえないため、身元保証があっても、トラブルが回避できるとは限らないのです。

 
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身元保証書の提出を拒否されたらどうする?

入社予定者が、身元保証書の提出を拒否した場合はどうすればよいのでしょうか。
 
内定が決まっている場合、口頭でも労働契約は成立しているため、身元保証書の提出拒否を理由に会社が採用を取りやめると、解雇と同様となります。解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を乱用したものとして、無効となります(労働契約法第16条)。
 
どうしても身元保証書の提出が必要であれば、就業規則に明記の上、採用面接の際「身元保証書の提出が採用の条件である」と説明しておくことが重要です。
 
また、入社予定者に対して、人物保証の役割やトラブルの抑止効果といった身元保証書を提出してもらう理由を説明し、入社予定者の不安を払拭し理解を得ることも大切です。

◆身元保証制度を見直すのも手

そもそも、自社に本当に身元保証書制度が必要なのかを見直すことも有効です。人物保証や緊急連絡先の把握が必要であれば、運転免許証や住民票の写し、緊急連絡先を記載する報告書などを提出してもらうなどで対応できます。
 
トラブルを避けるための制度である身元保証ですが、明確な運用計画を持たずに身元保証書を求めることで、自社に合った人材を迎えられなくなるなど、デメリットが生じる可能性もあります。身元保証書を発端としたトラブルに発展しないよう、制度の理解を深め、整備と運用を行いましょう。


※記事内で取り上げた法令は2021年3月時点のものです。
 
<取材先>
社会保険労務士法人あいパートナーズ 岩本浩一さん
2016年、社会保険労務士事務所開業。開業当初から助成金を会社に広めるために力を入れる。採用定着士の資格を取得、採用システムや今までの経験、ノウハウを生かし、採用定着できない会社に貢献すべく業務を行っている。
 
TEXT:宮永加奈子
EDITING:Indeed Japan +南澤悠佳+ ノオト

 
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