農業はなぜ人手不足? 労働条件の改善策と、農業に向いている人材


近年、農業における人手不足の問題がクローズアップされています。「農業=重労働」といったイメージにより、日本人の若者がなかなか集まらず、外国人の技能実習生に従事してもらうケースも増えているようです。
 
農業の現場では、どのような課題があるのでしょうか? またその対策とは? 農業界の新たな動きや、農業に向いている人材について、有識者にお伺いしました。解説は、キリン社会保険労務士事務所 特定社会保険労務士の入来院(いりきいん)重宏さんと、株式会社あぐりーんの吉村康治さんです。

 
 

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家族経営から脱却して大規模化 農業における人手不足の理由


――「農業は人手不足である」という話をよく聞きます。農業の就業人口は減少しているのでしょうか?
 
吉村 たしかに減少していますが、「就業人口」と「働き手が集まらない問題」は、少し分けて考えなければならないと思います。
 
農林水産省が発表している「2020年 農林業センサス結果の概要(確定値)」(令和2年2月1日現在)によると、農業の就業人口は約136万人で、年々右肩下がりです。農業に従事している方の平均年齢が67歳と高齢化が進み、「気持ちは充実していても体が動かない」といった理由で、やむなく離農するケースが非常に多くなっています。
 
農業経営体の数も年々減少しており、約108万経営体です。その中で、常用雇用しているのは約3万6,000で、全体からみるとごくわずか。つまり、ほとんどは家族経営で、高齢化により辞めてしまうため就業人口が減っているのです。
 
一方で、一部の農業経営体では、家族経営から脱却して大規模化する動きも進んでいます。10年前に比べると、1経営体あたりの耕地面積は平均で約1.5倍となっています。その流れの中で、「新たに人を雇うにはどうすればいいのか?」という課題が出てきたのです。
 
かつては、近隣に住む人を集めることもできました。しかし少子高齢化により、とくに地方で若年層の人口が減っており、「人を集めるのがだんだん難しくなってきた」というのが実情だと思います。
 
――農業の人手不足は、経営の規模を大きくしようとする動きに連動しているのですね。それ以外に、人手不足の原因はありますか?
 
入来院 農業は繁忙期と閑散期の差が激しく、通年雇用が難しいという問題があります。
 
農業に従事したい人は一定数いますが、「正社員として、通年で働きたい」と希望する人がほとんどでしょう。しかし東北や北海道など冬場の仕事がない農家では、通年雇用が難しくなります。
 
そこで、閑散期に新たな農仕事を作る事例が増えています。例えば、米農家が冬場にイチゴを栽培する、といったケースです。また、いわゆる「6次産業化」も挙げられます。6次産業化とは、単に生産するだけでなく、加工や流通・販売も行い、経営を多角化すること。このような手法で、働き手の定着を図る農家も増えてきました。
 
一般的には「農作業がキツい」「その割には儲からない」といった、ネガティブなイメージを持つ人が多いため、人が集まりにくいのではないでしょうか。しかし労働条件の面でみると、改善されつつあるといえます。

 
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賃金は上昇している? 農業の課題と行政による支援策


――「労働条件は良くなっている」とのことですが、具体的にはどのように変化しているのでしょうか? 農業における課題と改善策について教えてください。
 
入来院 まず一つは、賃金の問題です。とくに通年で雇用する場合、最低賃金では人が集まらないため、上乗せして払う農家が増えています。また5、6年ぐらい前から「どのように定期昇給すればいいか?」といった相談も寄せられるようになりました。
 
――それまで昇給は無かったのでしょうか?
 
入来院 一般企業でいうところの定期昇給は、昔はほとんどありませんでした。優秀でよく働く人だけ少し昇給し、他の人は上げない農家が多かったようです。
 
「労働力だけ欲しい」「若くて健康な人が来てくれればいい」といった雇用をしている農家は、あまり定期昇給を考えないため、定着率が悪くなる傾向があります。それでうまく回っていた農家もありますが、ここ数年は厳しくなっているのではないでしょうか。
 
全体的に見ると、賃金は徐々に上がっています。あとは労働条件の改善ですね。
 
――労働条件というのは、労働時間や休日数でしょうか?
 
入来院 農業には「労働基準法の労働時間、休憩及び休日に関する規定は適用除外」という問題があります。労働基準法は、もともと工場労働を想定して作られた法律です。「1日8時間、週40時間以内」という基準は皆さんご存じでしょう。しかし農業の場合、労働時間や休憩・休日に関わる部分は「適用除外事項」となっているのです。極端にいえば、1カ月丸々休みがなくても違法にはなりません。
 
――労働基準法の中の、もっとも重要な部分が「適用除外」になっている、と。
 
入来院 そのため、かつての農家はほとんど労務管理をしていませんでした。適用除外を拡大解釈し、「労働時間を管理しなくてもいい」「従業員の残業代も払わなくていい」とされていたのです。
 
しかし、近年は改善されつつあります。農家の2代目・3代目の方は、いったん他の産業へ就職し、経営を引き継ぐため農業に戻るケースが多々あります。また、実家が農家ではなく、新規参入で農業経営をする人も増えてきました。そういった方は一般企業の労働条件を知っているため、改善しなければという意識が働くのです。
 
――なるほど。では、国や自治体など、行政の支援についてはいかがでしょうか?
 
入来院 農林水産省は2009年から「農の雇用事業」という支援制度を継続しています。農業の経験がない人を雇っても、イチから教えるには手間も時間もかかりますよね。そこで、「研修にかかる費用を国が支援しますよ」という制度を設けているのです。
 
他にも、農業における「働き方改革」の優良事例集や、労務管理の手引きなどを公開し、農業経営に関する支援を行っています。
 
農家側も積極的に視察を受け入れるなど、良い事例をオープンにする動きは活発です。「農業界全体を良くしていこう」という意識は高まっているのではないでしょうか。

 

農業の「働き方改革」優良事例集農業の「働き方改革」優良事例集(出典:農林水産省「担い手育成」より)

 
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「のんびり作業」だけではない 農業に向いている人材とは


――人を雇用するためには、農業に向いている人材を把握しておく必要があります。どのような人が農業に適した人材といえるでしょうか?
 
入来院 真面目にコツコツ働く人が向いている、という話はよく聞きます。最近では、引きこもりやうつ病の方に農業をやってもらう施策も出てきました。例えば、一般の企業で働いていたけど、何らかの事情で心を病んでしまう人もいるでしょう。そういった方に従事してもらうわけです。
 
人間関係に疲れた真面目な性格の人が、「太陽の下で働きたい」と希望し、農業に来るケースは以前からありますね。
 
吉村 ただ、注意すべき点もあります。農業を希望する方の中には、「農業=のんびりと過ごせる」というような、マイペースに行動できる感覚で入ってくるケースが少なくありません。
 
しかし、人を雇おうと考えている農家からすると、やや感覚が異なります。「今日中にこれだけの量を収穫しなければ」といった目標や、いかに効率性を高めるかという意識も求められるからです。求める人材像にマッチする人かどうかは、採用する側が見極めなければなりません。
 
――必ずしも「農業=のんびり作業」というわけではない、と。
 
吉村 一口に農業といっても、あまり人と接しない仕事もあれば、「スーパーに野菜を売り込む人材が欲しい」など、コミュニケーション能力が必要な仕事もあります。ポジションごとに適した人材は変わるでしょう。
 
農業が持っている魅力に興味・関心を抱く若者は、いつの時代にも必ずいます。また、昔に比べると労働条件が改善されていることから、近年は農業への就職を希望する新卒生も増加傾向にあります。適材適所を考えた上で、積極的に情報発信して求人活動を行えば、人を集めることは難しくないでしょう。

 
 
 

※記事内で取り上げた法令は2021年6月時点のものです。
 
参考:
2020年農林業センサス結果の概要(確定値)(令和2年2月1日現在)
https://www.maff.go.jp/j/tokei/kekka_gaiyou/noucen/2020/index.html
 
担い手育成(農林水産省)
https://www.maff.go.jp/j/kobetu_ninaite/index.html
 
<取材先>
特定非営利活動法人日本プロ農業総合支援機構(J-PAO)運営会員
キリン社会保険労務士事務所
特定社会保険労務士
入来院 重宏さん
 
特定非営利活動法人日本プロ農業総合支援機構(J-PAO)運営会員
株式会社あぐりーん
吉村 康治さん
 
TEXT:村中貴士
EDITING:Indeed Japan + ノオト

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