そもそも、労働災害(労災)とは?
従業員(労働者)が業務上に被ったケガや疾病などに対して補償される制度のことを「労働者災害補償保険制度(労災保険制度)」といいます。これは、社会保障の1つとして国が保険者となり、労働者を雇用する勤務先の企業(事業主)が原則加入している公的な保険です。労災の補償対象になるのは、「業務災害」と「通勤災害」の2種類です。
「業務災害」とは勤務先などでの業務中、「通勤災害」は通勤や帰宅途中、それぞれで発生したケガや病気、障害などを指します。「業務災害」として認定されれば、うつ病などの精神疾患も補償の対象になることがあります。
テレワークでのケガや病気は「労災」に適用されるの?
では、テレワークの際は労災が適用されるのでしょうか。結論からいえば、テレワーク中でも、ケガや病気などをすれば、労災の適用対象になります。
ただし、通常のオフィス勤務と同じように、先に紹介した「業務災害」「通勤災害」のどちらかであると認定される必要があります。そのためには、2つの要件を満たさなければなりません。それが「業務遂行性」と「業務起因性」というものです。それぞれ詳しくみていきましょう。
◆業務遂行性
労働者(従業員)が、労働契約に基づく会社の支配下・管理下にある状態のことをいいます。簡単にいえば、「仕事中(一部休憩中も含む)に発生したケガや疾病である」ということです。
労働者がオフィス内で仕事をしている場合はもちろん、休憩時間中で業務に従事していない場合でもオフィス内で行動している場合は、会社の支配下かつ管理下にあると認められます。
また、営業や出張、運送などで外出して作業をする場合であっても、会社の支配下にあることに変わりはなく、「業務遂行性」が認められます。
◆業務起因性
ケガや病気の原因が業務に起因していることです。つまりは、「業務のせいで生じたケガや病気」を指します。
たとえば、在宅勤務中に書類を取ろうとしたとか、作業場所に戻ってきて椅子に座ろうとして、転んで足の指を骨折してしまったというような時は、業務が原因になっているので、「業務起因性」があると見なされる可能性は十分にあります。
基本的な「労災」認定の考え方は、オフィス勤務からリモートワークになっても、大きく変わるものではありません。オフィス勤務の業務災害なら、企業の管理下にある空間(オフィス)で起こったことなので、判断しやすいでしょう。しかし、テレワークになると、働く場所が自宅などのプライベートな空間で、しかもプライベートと仕事との境目が曖昧で、上司の目も届かなくなるので、労災かどうかがわかりにくい状況になります。
「労災」トラブルを防ぐため、企業が事前に押さえておくべきこと
企業がテレワークにおいて、「労災」にあたるかどうか従業員とトラブルにならないために、事前に押さえておくべきポイントとは何でしょうか?
それはテレワークを行う前に、従業員とも話し合ったうえで「就業場所」と「就業時間」を定めておくことです。就業場所は自宅だけなのか、または近隣のカフェやコワーキングスペースなども利用してよいのか、具体的に明示します。就業時間も「月〜金、9時〜18時まで」などと明確にして、残業を行う時は必ず事前申請してもらうなど、社内ルールを徹底しましょう。ただし、その中で、休憩や子どもの世話など、プライベートな時間が入ってきてしまうのは、ある程度やむを得ないと思います。
いつどこで働いているかもわからないままテレワークを行うと、仮に従業員から労災と主張されても、企業として認めてよいのか、判断のしようがなくなってしまいます。まずは、「就業場所」と「就業時間」。この2つを従業員と決めてからテレワークを実施しましょう。
従業員のモチベーションやメンタルをケアするコミュニケーションが大切
慣れない在宅勤務や、人とのコミュニケーション不足により、「コロナ疲れ」や「テレワークうつ」などといった言葉が生まれています。
直接会えないからこそ、企業としては、従業員のモチベーションやメンタルなどをどのようにケアし、コミュニケーションを図っていくのかが重要です。企業として、そこにしっかり注力していけば、ケガや病気を察知でき、労災が必要となるケースも未然に防ぐことができるでしょう。
監修:うたしろFP社労士事務所 社会保険労務士 歌代将也
TEXT:西谷忠和
EDITING:Indeed Japan + ノオト