連載:パート・アルバイト採用を成功させるための人材戦略 vol.2 02/04/株式会社ビジネスリサーチラボ 代表取締役 伊達洋駆氏

この連載では、人事歴約20年で2万人を超える求職者との面接を行ってきた人材研究所代表の曽和利光氏と、アカデミックリサーチというコンセプトのもと人事データ分析などのサービスを提供するビジネスリサーチラボの伊達洋駆氏の対談により、パート・アルバイト採用を取り巻く社会背景を分析。現場の採用担当者が直面する課題と解決法を、全4回にわたり導き出します。

第2回は、求職者のモチベーションを左右する要因や、採用に至るまでのジャーニーの改善手法など、応募者の「求職意思」を高めて応募者不足を解消することをテーマに議論が交わされました。

伊達洋駆氏。株式会社ビジネスリサーチラボ 代表取締役。神戸大学大学院経営学研究科 博士前期課程修了。修士(経営学)。2009年にLLPビジネスリサーチラボ、2011年に株式会社ビジネスリサーチラボを創業。以降、組織・人事領域を中心に、民間企業を対象にした調査・コンサルティング事業を展開。研究知と実践知の両方を活用した「アカデミックリサーチ」をコンセプトに、組織サーベイや人事データ分析のサービスを提供している。著書に『オンライン採用』(日本能率協会マネジメントセンター)、『人材マネジメント用語図鑑』(共著、ソシム)、『人と組織のマネジメントバイアス』(共著、ソシム)など。
曽和利光氏。株式会社人材研究所 代表取締役社長。京都大学教育学部教育心理学科卒業。リクルート人事部ゼネラルマネジャー、ライフネット生命総務部長、オープンハウス組織開発本部長と、人事・採用部門の責任者を務め、主に採用・教育・組織開発の分野で実務やコンサルティングを経験。また、多数の就活セミナー・面接対策セミナー講師や上智大学非常勤講師も務め、学生向けにも就活関連情報を精力的に発信している。2011に株式会社人材研究所設立。著書は『コミュ障のための面接戦略』(星海社新書)、『人事と採用のセオリー』(ソシム)、『「ネットワーク採用」とは何か』(労務行政)、『知名度ゼロでも「この会社で働きたい」と思われる社長の採用ルール48』(東洋経済新報社)、『「できる人事」と「ダメ人事」の習慣』(明日香出版社)などがある。

応募者の「求職意思」を高める3つの要因

――第1回では、2022年春の採用からパート・アルバイトの人手不足がより深刻になるというお話がありました。応募者の不足を解消するために、企業がまずやるべきことは何でしょうか。

伊達:私からは理論編として学術研究の知見に基づく論点を挙げ、そのうえで曽和さんに実践編として例を挙げていただき、求職者目線で彼らがなにを求めているのかを考えていきたいと思います。

求職者が何をもとに働く場所を選ぶのかについては、一定の研究結果が蓄積されています。(※1)ここでは「求職意思(Job pursuit intensions)」を高める要因について紹介します。「求職意思」とは、「その会社の選考を受けよう」と思うこと。履歴書の提出や面接への参加につながる意思であり、応募につながる要因とも理解できます。

※1 参照研究:Chapman, D. S., Uggerslev, K. L., Carroll, S. A., Piasentin, K. A., and Jones, D. A. (2005). Applicant attraction to organizations and job choice: A meta-analytic review of the correlates of recruiting outcomes. Journal of Applied Psychology, 90(5), 928-944.

「求職意思」を高める要因は、次の3つに大別できます。

(1)仕事の特徴
金銭的報酬が高い、キャリアアップ(昇進)できる、興味を持って楽しく働ける、など。日本の文脈では、学生が求める最大の要因は「時給が高い」こと。それに対して主婦・主夫・フリーターは「生活時間に合わせて働けること」を重視する傾向がある。

(2)組織イメージ
会社や店舗に対して、良い印象を持てるかどうか。特に店舗勤務の仕事の場合、多くの求職者は事前に職場(店舗)を下見し、来店時にイメージを形成する。店舗自体が求職意思を高めるメディアであり、お客様は求職者かもしれないという意識が必要。

(3)リクルーター要因
良い印象をリクルーターに対して持てるかどうか。求職者が仕事に関する情報を十分に持たないときは、人と人が接触するタイミングで会社に対する印象が醸成される。つまり、接触する従業員の人柄が求職意思に影響を与える(クリティカルコンタクト)。

3つ目の「リクルーター要因」ですが、ここで言うリクルーターは、面接者に限らず「求職者と接する全ての従業員」を指すと考えたほうが良いでしょう。採用においては、リクルーターの人柄の温かさが重要であり、求職意思を特に高めると言われています。(※2)

※2 参照研究:Schmitt, N. and Coyle, B. W. (1976). Applicant decisions in the employment interview. Journal of Applied Psychology, 61(2), 184-192.

曽和:3つの要因のうち、1つ目の「仕事の特徴」では、学生と主婦・主夫、フリーターを区別して考える視点が重要だと思います。これは中途採用では当たり前で、ジョブごとに訴求ポイントも違えば、出すメディアも違う。最近は新卒でも、職種別採用、タイプ別の採用広告、OBによるリファラル採用といった「複線型採用」が行われるようになってきました。

それがパート・アルバイト採用でもようやく認識され、丁寧さや個別対応、もっと言えば求職者の属性やパーソナリティに合わせた明確なターゲティングが必要になってきたということでしょう。それだけ応募者不足が深刻だということでもあり、実際に個別対応に重きを置く企業では採用がうまくいっているようです。

2つ目の「組織イメージ」については、特にサービス業にとって店舗は諸刃の剣であり、武器にもなるということだと思います。職場の良い印象というのは、きれいだ、清潔だという物理的な要素もあれば、人間関係のような心理的な要素もある。店舗を下見したときに怒号が飛び交っていたり、「〇〇死守」みたいなノルマや標語がたくさん貼ってあったりしたら嫌ですよね。

これは結局「良い職場をいかに作るか」ということにもつながります。簡単にできることとしては「本日は採用面接がある」ということをスタッフに周知徹底すること。面接に来た人に対して、皆が「〇〇さんですね、お待ちしていました」といった対応ができれば理想です。

伊達:実際、そういう細かいところを求職者の方はよく見ているし、印象に残っていると感じますね。こうした求職者の行動原理は「不確実性」を嫌う――例えば、入社後に自分にどんなことが起こるのかわからない状態を避けたい、という心理からきていると考えられます。(※3)

※3 参照研究:Berger, C. R. and Calabrese, R. J. (1975). Some explorations in initial interaction and beyond: Toward a developmental theory of interpersonal communication. Human Communication Research, 1(2), 99-112.

求職者が店舗を下見するのは、その推論ができる情報を求めているから。店舗の雰囲気が悪いとがっかりしてしまうのは、そこに自分が入ることをイメージしているからなんですね。

曽和:応募者と企業の間には、信頼関係があるようでありません。「面接時は良いことだけ言われるのではないか」というそこはかとない不信感があるので、意図的に書かれた広告の文面よりも、意識しないところで現れてくるような職場の雰囲気や、3つめの「リクルーター要因」のような情報を重要視する傾向はあると思いますね。

活路を開くのはリファラル採用とオウンドメディア

――リクルーターや店舗などの現場の好感度を高めることが、応募者不足を解消する最初のステップになることがよく分かりました。次の段階として、利用すべき募集チャネルについても教えてください。

曽和:募集チャネルの一つとしては、リファラル採用があるでしょう。第1回ではコロナによるリファラル採用の断絶が論点となりましたが、これは他社に囲われていた人材がリリースされたとも言えます。リファラル作り直し合戦が始まっているので、これまで負けていた企業にとってはチャンスです。

パート・アルバイトのリファラル採用は最初の1人目を探すのが大変ですが、それ以降は応募者の人間関係のなかで、前向きな「そこでいいや」が起こりやすくなります。経営者にとっては賭けかもしれませんが、リファラルに関しては強気で採用に踏み切ることで、勝てる可能性が出てくると思います。

伊達:これは正社員よりもパート・アルバイト採用に顕著ですが、基本的に選考にかける時間が短いため、企業と求職者の間で信頼関係を結びにくい状況があります。リファラル採用のメリットは、友人・知人の紹介があることで、信頼関係が形成されやすいこと。実際にリファラル採用で出された内定は、他の採用手法と比べて承諾される確率が高いことが検証されています。(※4)

※4 参照研究:Burks, S. V., Cowgill, B., Hoffman, M., and Housman, M. (2015). The value of hiring through employee referrals. The Quarterly Journal of Economics, 130, 805-839.

曽和:こうした背景からリファラル採用が重要になってくる一方で、オウンドメディアリクルーティングの存在感も増してくるでしょう。特に今の時期は、コロナ禍でいったんリファラル採用が断絶したことで、メディアから情報収集をする人が増えています。さきほど出たパート・アルバイトの複線型採用という観点からも、オウンドメディアは強力なツールです。

例えば東海地方を拠点にスーパーマーケットを展開する株式会社バローは、仕事を働く時間帯や職種ごとに細かく分類し、それぞれの仕事の詳細な情報が書かれた約3000もの記事を自社の採用メディアに載せています。これは主婦・主夫層にとって働く時間帯が重要であることや、時間帯ごとにどんなシフトや職種があるかという情報がいかに求められているかを、熟知しているからこその対応です。

伊達:これからのオウンドメディアで求められるのは、そうした具体的な情報かもしれません。不確実性を下げたいという求職者の心理を考えると、以前よりも気軽に外出できない今、ネットで情報を入手したい人は増えているはず。その一方で、従来の求人情報では「和気あいあいとした職場です」といった紋切り型の表現が多く見られます。

求職者のニーズに寄り添う形で、ネット上でもきちんと情報を発信していけるかどうかが大切です。それができれば、リファラル採用のチャネルにとっても援護射撃になるでしょう。友人・知人に職場を紹介してもらうときに、「こんな感じで働いているよ」「こういう人が働いているよ」という具体例としてオウンドメディアを見てもらえるため、話が早くなります。

「スピード、フィット、リアリティ」が採用成功の鍵

株式会社人材研究所 代表取締役社長 曽和利光氏
人材研究所 代表取締役社長の曽和利光氏

――応募があった後、求職者の志望度を高めるために、企業としてはどんなことに気を付けるべきでしょうか。

伊達:求職者の半数弱は、2社以上の企業に応募していることを示すデータもあります。企業側は選んでいるようでいて、実は選ばれてもいる。選ばれる一社になるためには、求職者への「動機づけ」が必要です。自社に入りたいと思ってもらうように働きかけなければなりません。

動機づけには、次の3つの観点が必要になります。

1つ目はスピードです。採用の連絡について、求職者の約7割は「応募の翌日中に連絡があるのが妥当」だと考えていて、連絡が遅くなると約4割が他社に応募、あるいは優先順位を下げると言われています。また、選考の遅延は企業イメージにもネガティブな影響を与えることが検証されています。(※5)

※5 参照研究:Rynes, S. L., Bretz, R. D., and Gerhart, B. (1991). The importance of recruitment in job choice: A different way of looking. Personnel Psychology, 44(3), 487-521.

2つ目はフィットです。フィットとは、求職者が「この会社は自分に合っている」と思うこと。対策はシンプルで、企業側から「あなたは当社にフィットしていますよ」と言うことで動機づけがされます。(※6)

※6 参照研究:Dineen, B. R., Ash, S. R., and Noe, R. A. (2002). A web of applicant attraction: Person-organization fit in the context of Web-based recruitment. Journal of Applied Psychology, 87(4), 723-734.

フィットの適切な伝え方としては、以下の3つがあります。(※7)

※7 参照研究:Edwards, J. R. and Shipp, A. J. (2007). The relationship between person-environment fit and outcomes: An integrative theoretical framework. In C. Ostroff and T. A. Judge (Eds.), Perspectives on Organizational Fit. Lawrence Erlbaum Associates Publishers.

・Supplementary fit
企業と候補者の類似点を伝える。候補者の性格が判明したときに有効。
例:「穏やかな性格のあなたと、穏やかな社風の当社はフィットしている」

・Needs-Supplies fit (N-S fit)
候補者のニーズに企業が合っていることを伝える。候補者のニーズが明確なときに有効。
例:「成長を望むあなたには、裁量の大きい仕事ができる当社がフィットしている」

・Demands-Abilities fit (D-A fit)
企業の要求に候補者の能力が合っていることを伝える。候補者の能力が明らかなときに有効。
例:「接客業経験のあるあなたには、接客スキルが必要な当社がフィットしている」

3つ目がリアリティです。自社アピールに力を入れすぎると、実態との乖離が起こりがち。候補者が入社後に「こんな会社だとは思わなかった」と衝撃を受けることをリアリティショックと呼び、それが早期離職者の共通点になっているというデータもあります。(※8)採用時にリアリティを高めることは重要です。

※8 参照研究:Dunnette, M. D., Arvey, R. D., and Banas, P. A. (1973). Why do they leave? Personnel, 50(3), 25-39.

曽和:コロナの感染拡大が国内では落ち着いたことで客足が戻り、採用ニーズが高まっている今、求職者にとっては選り取り見取りの状況です。採用の成功率を高めるために、まず改善できるのは「スピード」です。昨今は、中途採用でも書類選考に入ってから一両日中に合否連絡をするのが常識ですが、アルバイトなら面接の翌日といった感覚でしょう。

もう一つ重要なのは、応募までのハードルを下げることです。「履歴書持参」は絶対にやめたほうがいい。転職でも「まずはカジュアルにお話しましょう、手ぶらでお越し下さい」といったケースが増えているなかで、パート・アルバイトの面接に「写真付き、手書きの履歴書」を要求するのは厳しいと思います。面接の際に必要事項を5分くらいでカードに記入してもらい、それをもとに話せばいいだけですから。しかし、なぜか様式美のように履歴書を求めてしまう企業が多くあります。

伊達:求職者に対して今まで課していたことを一つひとつ振り返ってみるといいと思います。「これはなぜやっていたんだろう」「これはなくても大丈夫かもしれない」と、問い直してみることが大切です。

曽和:フィットやリアリティなど、職場の魅力や働く環境を求職者へ伝えることに関しては、もう少し中長期的な視点が必要になりますね。これは次回、詳しく掘り下げていきましょう。