連載:パート・アルバイト採用を成功させるための人材戦略 vol.4 04/04/株式会社人材研究所 代表取締役社長 曽和利光氏(左)、株式会社ビジネスリサーチラボ 代表取締役 伊達洋駆氏(右)

この連載では、人事歴約20年で2万人を超える求職者との面接を行ってきた人材研究所代表の曽和利光氏と、アカデミックリサーチというコンセプトのもと組織サーベイや人事データ分析などのサービスを提供するビジネスリサーチラボの伊達洋駆氏の対談により、パート・アルバイト採用を取り巻く社会背景を分析。現場の採用担当者が直面する課題と解決法を、全4回にわたり導き出します。

最終回のテーマは、面接で適切な評価をするための仕組み作りについて。オンライン面接で気を付けるべきことなど、採用担当者に向けた実践的なアドバイスを交えて、おふたりに考察してもらいました。

曽和利光氏(左)。株式会社人材研究所 代表取締役社長。京都大学教育学部教育心理学科卒業。リクルート人事部ゼネラルマネジャー、ライフネット生命総務部長、オープンハウス組織開発本部長と、人事・採用部門の責任者を務め、主に採用・教育・組織開発の分野で実務やコンサルティングを経験。また、多数の就活セミナー・面接対策セミナー講師や上智大学非常勤講師も務め、学生向けにも就活関連情報を精力的に発信している。2011に株式会社人材研究所設立。著書は『コミュ障のための面接戦略』(星海社新書)、『人事と採用のセオリー』(ソシム)、『「ネットワーク採用」とは何か』(労務行政)、『知名度ゼロでも「この会社で働きたい」と思われる社長の採用ルール48』(東洋経済新報社)、『「できる人事」と「ダメ人事」の習慣』(明日香出版社)などがある。
伊達洋駆氏(右)。株式会社ビジネスリサーチラボ 代表取締役。神戸大学大学院経営学研究科 博士前期課程修了。修士(経営学)。2009年にLLPビジネスリサーチラボ、2011年に株式会社ビジネスリサーチラボを創業。以降、組織・人事領域を中心に、民間企業を対象にした調査・コンサルティング事業を展開。研究知と実践知の両方を活用した「アカデミックリサーチ」をコンセプトに、組織サーベイや人事データ分析のサービスを提供している。著書に『オンライン採用』(日本能率協会マネジメントセンター)、『人材マネジメント用語図鑑』(共著、ソシム)、『人と組織のマネジメントバイアス』(共著、ソシム)など。

今後の面接に関して、企業側へ求められる3つの意識変革

――連載の最終回となる今回は、具体的な面接の仕組み作りについて考えていきたいと思います。人手不足のさらなる悪化が予想されるなか、パート・アルバイトの面接においてどのような意識変革が必要でしょうか。

曽和:1つ目に前提として共有したいのは、今は「選考」している場合ではないということです。以前の面接は、言うなれば求職者に「君はどれだけうちの仕事をしたいんだ?……それなら入れてあげよう」といった姿勢だったと思います。

今後は、この姿勢では人手不足を解消できません。もちろん志望動機は聞きますが、それは評価のためではありません。志望動機が低いと感じたら、その場で相手を動機づけ、求職意思を高めるのが採用担当者の仕事です。そういったマインドチェンジが必要なのです。

2つ目に考えたいのは、ネガティブチェックの問題です。パート・アルバイト採用においては、事業リスクとなる「バイトテロ」的な行為を防ぐためにも、ネガティブチェックが一つのテーマになっています。しかしリスクヘッジが行き過ぎると人を採用できなくなる。会社に合わないと思われる人を第一印象で落とさないこと、「意外といいじゃないか」という人材を確保することが、非常に大事だと思うのです。

まとめると、これからの面接では、志望度を評価するのではなく、求職意思を「高める」こと。そして、意外性のある「実はフィットしている人材」を見つけること、この2つがポイントになると思います。

伊達:そのとおりだと思います。近年の採用の厳しい状況を考えると、従来の「丁寧な見極め」といった議論は矛盾してきますよね。来てもらうこと自体が難しいので、面接や選考における機能自体を再整理する必要がある。相手を「見極める」というよりは、「惹き付ける」ための動機形成が重要になってきたと考えられます。

3つ目に、面接の機能としてあってもいいと思うのは「適応の支援」です。面接をオンボーディングに向けての機会とする。職場のリアルな情報を伝えたり、その場で先輩を紹介したりしてもいいかもしれません。

曽和:面接で人を見極めるのではなく、その瞬間から巻き込んでいく。合わない人を合うように変えていく。面接は応募者の育成の場でもあるというイメージを持ちたいですね。

求職者に対して判断を下す前に、企業側の仕組みで改善すべきこと

株式会社人材研究所 代表取締役社長 曽和利光氏

――面接について、企業側に求められる意識変化を踏まえると、求職者を適切に評価するためには、面接の仕組みをどのように変えるべきでしょうか。

曽和:まず採用担当者に認識していただきたいのは、第一印象の影響です。パート・アルバイトの場合は短期間で面接するケースが多いので、より長く時間を使える正規雇用の面接よりも、第一印象の影響が大きくなる気がします。

伊達:そうですね。第一印象は出会って0.1秒で決まるという研究結果もあるくらい、人は相手に対する印象を即断しています。(※1)しかも、その人と短い時間しか関わりを持たなければ、即断した印象のままで決断を下すことになる。これを避けるためには、面接の際にいったん自分の判断を保留する、つまり評価を一時停止する仕組みが必要です。

※1 参照研究:Willis, J. and Todorov, A. (2006). First impressions: Making up your mind after a 100-ms exposure to a face. Psychological Science, 17(7), 592-598.

特に「この人はうちに合わなそうだ」と直感的に思ったときが危険です。正社員の場合は面接を何度もするなど、採用側がバイアスを抑制する機能が多少はあります。しかしパート・アルバイトは一発で合否が決まる場合が多い。その根拠が店長の第一印象だけだったとしたら、非常にもったいないことです。

次に考えたいのは、応募者に対するネガティブチェックの仕組みです。ネガティブチェックに関して言うと、結果やコストパフォーマンスを非常に重視する功利主義の人は、非倫理的な行動を取りやすいことが検証されています。(※2)

※2 参照研究:Pearsall, M. J. and Ellis, A. P. J. (2011). Thick as thieves: The effects of ethical orientation and psychological safety on unethical team behavior. Journal of Applied Psychology, 96(2), 401-411.

ただ、そういった個人の特性だけが、バイトテロ的な行為を引き起こすのかという点は難しいところです。個人の問題だけでなく、環境の要因も大きいと考えられるからです。(※3)例えば、利己的な風土のなかでは、パート・アルバイトの非倫理的傾向も増長するでしょう。

※3 参照研究:Trevino, L. K. and Youngblood, S. A. (1990). Bad apples in bad barrels: A causal analysis of ethical decision-making behavior. Journal of Applied Psychology, 75(4), 378-385.

採用側は、まずは自分たちが非倫理性を助長するような環境を作っていないかを検討しなければなりません。そのほうが、採用時のネガティブチェックで時間を割くよりも、何倍も効果的です。また、誠実性の高いマネージャーのもとでは非倫理的な行動は抑えられるという研究もあります。(※4)

※4 参照研究:Tang, T. L. P. and Chiu, R. K. (2003). Income, money ethic, pay satisfaction, commitment, and unethical behavior: Is the love of money the root of evil for Hong Kong employees? Journal of Business Ethics, 46(1), 13-30.

曽和:面接で求職者の非倫理性を見極めようとするより、自社人材の育成に力を入れる方が費用対効果がいいということですね。

考えてみると「悪いことをしよう」と思ってアルバイトを始める人なんて、ほとんどいないわけです。結果的にバイトテロのような行為をする背景には、やはりマネージメント側の責任がある。そこを考えず面接をネガティブチェックの裏取りに費やすのは、筋違いではないかと感じます。

第一印象による判断を防ぐため、面接中も面接後も「悪魔の代弁者」になってみる

曽和:採用担当者からすると、面接は非常に大変で疲れる仕事です。それだけに、「この人はだめだ」と思った瞬間に心が折れて、残りの時間は適当な話でお茶を濁してしまうといったことがよくあります。これではいけません。

伊達:人は、最初に抱いた印象を確かめにいくような傾向が強いですよね。

曽和:反証を得ようとするのではなく、確証を得ようとしてしまう。

伊達:そういうバイアスが働きやすいことを理解したうえで、逆に反証を求める姿勢で挑むことが大切です。コンサルタント業でよく言う「devil’s advocate(悪魔の代弁者)」が有効です。わざと反対の意見を考える役割を、面接中も面接後も担ってみるといいと思います。

ただし第2回でお伝えしたように、見極めに時間をかけすぎて合否の連絡が遅くなると内定を辞退されてしまうので、スピード感も大切です。

一つ面白い研究があるのですが、「アメリカ合衆国の面積はどれくらいか」などの問題を出したとき、その場で出した答えをA、少し経ってから再考して出した答えをBとします。するとAの数値よりも、AとBの平均値の方が正解に近いという傾向がありました。(※5)

※5 参照研究:Vul, E. and Pashler, H. (2008). Measuring the crowd within: Probabilistic representations within individuals. Psychological Science, 19(7), 645-647.

この研究結果は、あらためて考え直す時間を取り、元の判断と照らし合わせると、正しい判断に少しでも近づけることを示しています。面接においてもすぐに合否を出すのではなく、例えば、1時間くらい別の仕事をして、それから「面接のメモをもとに、もう一度、あの応募者の評価をしてみよう」と再考する時間を取ると良いでしょう。それだけでバイアスをいくらか抑制できますし、スピード感も失うことがありません。

オンライン採用では「面接の構造化」が成功の鍵を握る

株式会社ビジネスリサーチラボ 代表取締役 伊達洋駆氏

――昨今はオンライン面接も増えていますが、どのようなことに気を付けるといいのでしょうか。

曽和:例えば、とあるファーストフードチェーンの企業では、応募者に5分くらいの自己紹介動画を撮ってもらい、それを見て面接官が選考する「動画面接」を行って、成果を上げています。今の若い世代は動画にも自撮りにも慣れているので、あまり抵抗がない。しかも、オンライン面接はリアルでの面接に比べるとハードルが低い面もあるので、応募者が増えているようですね。

伊達:オンライン面接の選択は、採用側にとっては諸刃の剣です。オンラインにすると自社まで来てもらわなくてもすみますし、非同期型の面接(録画面接)にすると短時間でかなりの数をこなせます。

ただし、これらのメリットを享受するためには、ある程度多くの応募があり、かつ、応募者の動機形成がうまくいっていなくてはなりません。動機形成が不十分なケースでは、メリットを活かせない可能性があります。オンライン面接をしてはいけないというわけではなく、「オンラインではなぜ動機形成がしにくくなるのか」を考えてみる必要があると思います。

学術研究の間でよく指摘されるのは、オンライン上での会話のしにくさです。オンライン面接でうまく会話ができないと、「言いたいことが言えなかった」といった不完全燃焼が起こります。そうなると、面接官や会社に対して好意を寄せることが難しくなるのです。

曽和:うまくいかなかったというモヤモヤを相手のせいにしてしまう、自己正当化してしまうということでしょうか。

伊達:おっしゃるとおりです。そういったバイアスがかかると、動機形成どころではなくなってしまいます。それを打破していくために必要なのが、面接の構造化(構造化面接)です。

構造化面接とは、質問項目や評価方法をあらかじめ設計しておく手法です。雑談のように面接するのではなく、何を聞くのか、どんな回答が出たらどう評価するのかを、採用側が事前に考えておくことが重要なのです。

求職者も聞かれている質問に対してしっかり答えることができ、会話の交通整理もしやすくなります。その結果、求職者の不完全燃焼感が緩和され、「面接を受けて良かった」という印象を残せます。採用のオンライン化が進むと、構造化面接の重要性はますます高まっていくでしょう。

曽和:不完全燃焼だったのに採用された学生からよく聞くのは、「どうして採用になったのかわからない」という言葉です。適当に人数合わせで選ばれたようで、かえって悪い印象を抱くようですね。「自分が正当に評価された」という喜びと手応えを持ってもらうためにも、面接の構造化は本当に重要だと思います。

それに加えて、オンライン面接では「キャッチボール型」から「プレゼン型」へという意識もあると良いですね。要は会話のキャッチボールのなかで聞きたいことを聞くのではなく、「あなたのこんな話を聞きたいんだけれど、何かありますか?」といった話の振り方をする。会話のラリーを短くするのではなく、長くするイメージです。これならオンライン面接でも取り入れやすく、面接になれていない人でも話しやすくなるでしょう。

伊達:とりわけオンライン面接では、お互いに話すタイミングが重なってしまうなど、会話のラリーの部分で問題が生じますよね。人手不足の今、選考では「おもてなし」をしたいくらいの状況なのに、慣れないオンラインで求職者につらい思いをさせてしまうことになりかねません。そういった事態を避けるためにも、面接の構造化はぜひ進めていただきたいところです。

――今後、新型コロナウイルス感染症が落ち着いてきた場合、オンライン面接はどのようになっていくとお考えでしょうか。

伊達:「積極的に活用する」という姿勢でいるべきだと思います。採用までのスピードを上げるためにも、お互いの負担を減らすためにも、オンライン面接は明らかにメリットがあるからです。

また、オンラインで募集をかけた場合、オンライン面接の方が参加しやすいということもあります。イベントでもそうですが、オンラインからリアルへというのは障壁があります。

曽和:店舗の張り紙を見て面接に来た人は、その場で面接をしたほうがスムーズだし、オンラインで来た人は採用もオンラインで行ったほうがスムーズでしょう。募集チャネルと選考手法はリンクさせなければいけないということですね。

さらに言うなら、リファラル採用では選考のハードルを少し下げた方が良いですし、大規模に採用広告を打って来てもらうなら、会社説明会を開いて全体で情報提供するのでいいかもしれません。

第2回ではパート・アルバイトの複線型採用というテーマが出ましたが、面接でも同じように個別対応や複線型対応を柔軟にしていく必要があるでしょう。オンライン面接は、複線型対応の一つとしてすでに外せない選択肢となっています。コロナ禍が収束した後も、この選択肢は絶対になくさないほうがいいと思います。