「ブランド」の考えを「採用」に取り入れた「採用ブランディング」の理論により、多くの企業の採用で成果を上げてきた株式会社むすびの深澤了氏による連載寄稿「採用ブランド論」。2回目は採用の「コンセプト」を作る方法を紹介。自社の強みを掘り下げるワークショップから、ペルソナの設定、インサイトを探るポイント、コンセプトを作り上げる方法など、具体的なテクニックを解説します。

深澤了氏。むすび株式会社 代表取締役 ブランディング・ディレクター クリエイティブ・ディレクター。早稲田大学商業学部卒業。山梨日日新聞社・山梨放送グループ入社。同グループの広告代理店にてCMプランナー、コピーライターとして活躍し、株式会社パラドックスへ入社。株式会社リクルート(現・株式会社リクルートホールディングス)と協業し、多くの企業の採用施策に携わる。2015年にむすび株式会社を設立。「採用ブランディング」という新たな理論を構築し、企業の採用成績向上に貢献している。早稲田大学ビジネススクール修了(MBA)。著書に『知名度が低くても“光る人材”が集まる 採用ブランディング 完全版』などがある。

自社の「強み」に立脚した採用が効果的である理由

採用ブランディングの第一歩は、他社の状況や業界動向に関わらず、自分たちの「強み」で勝負することで採用の効果を上げることを目指します。この「強み」に立脚した採用活動は、短期的にも中長期的にもインパクトを与えていくものとなります。

「強み」を打ち出すことの効果は、自社にマッチし、入社後の活躍が見込める「活躍人材予備軍」が集まることです。

私たちが全国の企業の入社3年以内の新人社員332人を対象に行ったインターネット調査(2017年)によると、「企業理念・価値観を理解している」と答えた人で「将来活躍するイメージがある」「どちらかというとイメージはある」と回答した人の割合は52.3%。「企業理念・価値観を理解していない」と答えた人で同様の回答をした人の割合は25.0%。2つの間には統計的な相関が見られました。

もっとも、皆さんの日常業務のなかでも、「将来活躍したい!」と思っている人こそが活躍しやすいというのは、直感的に感じていることではないでしょうか。

社員に「企業理念・価値観」を理解してもらうことはとても重要であり、採用活動においても、理念を理解し、共感してくれる人に入社してもらうことは大切であると言えます。入社後に人の考え方を変えていくのはとても大変です。入社時にある程度でも共感してくれていれば、深めていくことは容易なはずです。

ではここから、採用ブランディングの具体的なフローを4つの観点に分けて解説します。

(1)ワークショップで自社の「強み」を掘り下げる

ミーティングをしている様子をイメージしたイラスト画像

まず、付箋とペンを用意して、自社の「強み」を掘り下げるワークショップを行いましょう。初めから「強みは何?」と考えても思いつきにくいもの。そこでファシリテーターとなる人は、自社に関する「様々な角度からの質問」をします。

下記は、私たちがワークショップで投げかける質問の例です。

  1. 自分や周りがなぜ自社に入社したのか?
  2. 入社してからの“いい意味での”ギャップは?
  3. どこが顧客に愛されているのか?
  4. 自社の文化を表すエピソードはなにか?

1. は表に出てきている強み、2. は表に出ていないけれど訴求すべき強み、3. は事業上の強み、4. は当たり前になっていて見落としがちな文化価値観について問います。

質問に答える形で付箋をホワイドボードに貼っていくと、たいていの場合は貼る場所がなくなるほど「強み」が出ますので、同じ意味のものをまとめていきます。ここで重要なのが、「福利厚生」のような抽象的なものではなく、「家賃補助が◯◯ある」のように具体的な内容ごとに整理すること。それによって自社の個性が見えてきます。

強みを整理すると、多くの場合15〜20ほどのグループができます。これだけでも採用活動で訴求すべき強みの「見える化」ができました。さらにグループの一つひとつを応募者に説明するつもりで言語化すると、採用活動ですぐに使えるアピールポイントとなります。

(2)「自社の強み」から3つを選ぶ

次に、15〜20のグループから特に自信のある強みを3つ選びます。

この時の注意点は、自社の「理念や価値観に関わる強み」を一つは必ず入れることです。理念はコモディティ化しませんし、自社固有のものですから、他社と差別化をしていく上でとても重要な要素になります。

よく「『特許を持っている』『独自の技術がある』など、わかりやすい項目がないとダメですか?」という質問をいただきますが、その必要はありません。社内にいると当たり前に感じるけれど、外から見たら魅力的なポイントというのはどの企業にもあるもの。ユニークなエピソードがいくつもあるはずですし、それは差別化するに十分値します。自信を持って選んでください。

時間がないからといって人事部だけで行ったり、人事担当一人で行ったりする場合があるかもしれませんが、それは推奨できません。採用担当と現場の意見は往々にして擦り合わないもの。募集後のミスマッチを防ぐため、配属予定の現場で実際に活躍している人材にもワークショップへ参加してもらうといいでしょう。多角的な視点で議論することで自社の訴求すべき強みがより明確になるでしょう。

人事と現場が一丸となって取り組むことで、採用に関わる全社員が腹落ちした状態で、自信を持って採用活動を進めることができます。また、ワークショップ参加者は自社の強みを自分の言葉で話せるようになりますので、採用活動のキーマンとしても活躍できるでしょう。

(3)求める人材のペルソナを作る

3つ目のステップでは「採用要件」を決めましょう。重要なのは、条件だけでなく「どんな人」という「理想の人物像(ペルソナ)」を作ることです。

まず、

  • 自社で活躍している社員の特徴を挙げる
  • 自社にいないけれど、今後採用したい人物の特徴を挙げる

両方の視点を合わせて、マスト条件である「資質」を定めます。

次に「ペルソナ」を作ります。下記の項目を設定するとよいでしょう。

(共通)

  • 性別
  • 趣味
  • 住んでいる場所
  • よく行く場所
  • 将来の夢

(新卒の場合)

  • 出身高校(部活)
  • 出身大学(志望動機、学部、ゼミ)

(中途の場合)

  • 現在の職業
  • 転職中であれば他に受けている企業

これで、アプローチすべきペルソナがはっきりイメージできるようになります。

ペルソナを作ることの利点は、イメージを具体化することによって「ペルソナに似ている人物」に早く気付き、内定まで進めやすくなることです。採用方針として「ペルソナに近い人物と出会ったらどんどん口説く」と掲げてもよいかもしれませんね。

また、ペルソナを作ることで「誰に」伝えるかが明確になりますので、採用活動で必要な様々なツール(HPやパンフレット、映像など)制作の指針になります。たとえば、ペルソナがYouTubeをよく見ているのであれば、短い社員インタビューを複数用意するなどが考えられます。

このように、「誰に届けるか」を明確にすることでおのずとアプローチ方法が定まります。「誰にでもわかるけど、誰にも響かない」というありきたりな制作物ではなく、「響く人にはとことん響く」ものを作ることが大切です。

(4)ペルソナのインサイトを掘り下げる

ペルソナができあがったら、彼もしくは彼女が就職(転職)活動の際に大切にしている「インサイト」を考えましょう。「自分の意見が取り入れられる」「グローバルに働ける」など、ペルソナになりきって書き出します。

次に、そのインサイトを持つ人材が本当に入社してきて欲しいかをあらためて考えます。これを逆にしてしまうと、ペルソナではなく「自社に都合のいいインサイト」になるので注意が必要です。

当然マッチしない場合もありますので、その場合は書き出したインサイトの選定に戻ります。「インサイトの深掘り」と「本当に自社にきてほしいか」を何度も行き来して検討して、「(会社が受け入れられる)ペルソナのインサイト」を選出しましょう。

(5)自社の強みとペルソナから「コンセプト」を導き出す

これで、「自社の強み」と「ペルソナのインサイト」がそろいました。ここから「ペルソナに対して、自社の3つの強みをどのように訴えかけるか」を考えます。

さきほどのインサイトを十分に加味した上で、ペルソナに自社の強みを伝える言葉。これこそが採用活動の「コンセプト」となります。

強みとペルソナのどちらかが欠けてしまうと、上の図のように「一人よがりになりやすい」ものや「自社の魅力が伝わらない」コンセプトになってしまいます。ペルソナというと「市場を狭める」という認識もありますが、本来の意義はこのようなフローを行うことでマッチング精度の高い採用へつなげることにあるのです。

さらに、採用ツールを作ったり、プロモーションを行ったりする予定がある場合は、「コンセプト」を「スローガン化」しましょう。この作業は非常に専門性が高いので、外部のコピーライターに依頼することをお勧めします。

こうした手順でしっかりと「コンセプト」を作ることで、それを求職者に伝えるための「スローガン」ができる。さらにその「スローガン」があることで、採用における様々なツールや表現に一貫性が生まれる。そして一貫した採用施策こそが、採用における「ブランディング」になるのです。

以上、自社の強みとペルソナをベースに、採用ブランディングを遂行していく上で重要な「コンセプト」を作り上げるためのポイントを挙げました。細かく見ていけば他にもありますが、このフローを実践するだけでも、採用活動の効率化や、自社にマッチした人材の採用へつながることでしょう。