手探り状態で始まった「オンラインインターンシップ」
――新型コロナウイルス感染症の影響で、採用活動やインターンシップのあり方が変化しているようです。まずはインターンシップ全体の傾向について教えてください。
全体でみると、2021年のインターンシップ開催数はおそらく微減かと思います。コロナ禍で業績が悪くなっている企業が多いため、「それどころではない」というのが本音かもしれません。
一方で、インターンシップに参加する学生の数は非常に増えています。弊社でも、昨年の同時期と比べて約1.7倍のエントリーが集まっており、学生が活発に動いている印象です。
背景としては、人気の高い会社が新卒採用をストップするなど、これまで続いていた売り手市場から一転していることが挙げられます。2022年卒の学生たちも、「早めに動かないとまずい」と感じているのではないでしょうか。
もう一つの理由として、学生からは「他に何もできず、就活をやるしかない」という声も聞きました。飲食店のアルバイトがなくなったり、旅行やサークル活動ができなくなったりしているため、空いた時間で積極的に就職活動しようというムードが高まっているようです。
――コロナ禍により、インターンシップをオンラインに切り替える企業が増えていると聞きました。どのような形式で実施されているのでしょうか?
たしかに、インターンシップを対面型からオンラインへ変更する企業は急増しました。ただ2020年は「オンラインでどのように実施すればいいのか?」と、手探りの状態で始めた企業が大半だったのではないでしょうか。
実際には、会社説明会を兼ねて1日完結型の「1dayインターンシップ」を実施するケースが多いようです。弊社では昨年、学生自身でしっかり考えてもらうワークを含めた6日間のオンラインインターンシップを行ったのですが、そこまで長期間に渡って企画している企業は少ないでしょう。
――オンラインインターンシップの目的は、従来の対面型インターンシップと変わらないと考えてよいのでしょうか?
そうですね。企業と学生の相互理解や、就業体験を通してどのような業務なのか体感してもらうという目的自体は、対面もオンラインも変わりません。
ただ、オンラインインターンシップでは「オフィス体験」ができなくなりました。どんな環境で働くのか十分に伝えられないまま選考へと進んでいくケースもあるので、その点は注意が必要です。
話が盛り上がっているかどうか見えづらい? オンラインインターンシップのメリット・デメリット
――従来の対面型インターンシップと比較して、オンラインで実施するメリットは?
もっとも大きいのは、交通費の削減です。これまで北海道や九州の学生たちは、東京で開催されるインターンシップへ参加するのに往復3万円ぐらいの費用がかかっていました。オンライン開催で交通費の負担がなくなれば、学生も参加しやすくなるでしょう。
またオンラインであれば、地方に住んでいたり実家に帰省していたりする学生、あるいは海外留学している学生なども参加できます。物理的な距離の制約がなくなるのは、大きなメリットといえるでしょう。
参加人数の枠を増やしやすい点もメリットの一つです。準備にかかる手間は参加者が多くても少なくてもそれほど変わらないため、なるべく多く動員できる企画にすればコストパフォーマンスが高くなります。
――なるほど。では反対に、オンラインインターンシップのデメリットは?
弊社で実施した際、最も苦慮したのは「参加者どうしが仲良くなるまで時間がかかる」という点でした。対面であれば、同じテーブルになった人と自己紹介したり雑談したりできますが、オンラインで40~50人がつながった状態では雑談しづらいですよね。主催者側が働きかけて「自己開示しても大丈夫なんだ」という空気を作らないと、なかなか話しにくいでしょう。
また、グループ分けした後の様子が把握しにくい点もデメリットといえます。従来の対面型であれば、会場内で「あのグループは議論が活発だな」「こっちはあまり盛り上がってないな」といった状況を簡単に把握できます。しかし、オンライン上でグループ分けすると、隣のグループの様子を知ることができないので、各ルームの様子を逐一見に行かなければならず、雰囲気を把握しづらいのです。
さらに、長時間になると参加者の表情から疲れが見え始めたり、中だるみになったりします。こまめに休憩をとりつつ、質疑応答を長めに設定するなどの工夫が必要です。
――オンラインインターンシップがうまくマッチする職種もあれば、逆に難しい職種もあるのではないでしょうか?
ホワイトカラーの仕事は、ほぼすべてオンラインで実施できると思います。営業職や販売業をメインとする企業でも、オンラインインターンシップを開催している例は少なくありません。
オンライン化が難しいのは、現場作業に従事するブルーカラーの職種です。ただそれも工夫次第でしょう。普通は立ち入れない施設の中や作業の様子を動画で撮影し、配信するといった施策が有効だと思います。
弊社で実施した際も、動画コンテンツをうまく織り交ぜていくプログラムが好評でした。職場の風景や社員のインタビュー動画など、面白いコンテンツであれば学生も興味を持って見てくれるはずです。
▲船井総合研究所が実施したオンラインインターンシップの様子(画像提供:船井総合研究所)
中小企業がオンラインインターンシップの参加者を集めるには?
――これからオンラインインターンシップを検討している中小企業は多いかと思います。採用に繋げるために、どのような施策を講じれば良いのでしょうか?
地方の中小企業でいえば、「佐賀の会社が、福岡にいる学生に向けてオンラインインターンシップを開催する」といった事例が考えられます。オンラインであれば、UターンやIターンを考えている学生、東京や大阪の大学に通っている学生も対象にすることができ、採用エリアを広げられるでしょう。
ユニークなコンテンツを用意している例は、大企業でもそれほど多くありません。体験型のオンラインインターンシップを企画すれば、「あそこのインターンシップは面白いよ」と口コミで広がっていきます。少人数に限定すればより深いレベルで質疑応答できますし、現役社員と直接話す時間を設けることも可能でしょう。距離感の近いインターンシップを開催すれば、自社のアピールに繋がります。
――中小企業がオンラインインターンシップの参加者を集めるには、どうすればいいのでしょうか?
最近では、企業から学生にオファーを送る「逆求人型」の就活サイトが増えています。そこに登録している学生を検索し、「こんなインターンシップをやるので、興味があればぜひ来てください」と、ダイレクトにリクルーティングしていくのが最も効果的でしょう。
ガチガチに縛るより、参加者に任せる「自走型」のプログラムを
――いま実施されているオンラインインターンシップの多くは、対面で働くシーンを前提としているようです。今後、リモートワークを想定したプログラムも検討した方がよいでしょうか?
そうですね。これから入社する新入社員は、リモートでコミュニケーションを取る機会が増えていくはずです。オンラインインターンシップでリモートワークのスキルを身につけるのは難しいかもしれませんが、「こんな雰囲気で働いていくんだな」というイメージができれば、入社後のミスマッチや離職が防げます。
――入社後に繋がるようなインターンシップにしなければならない、ということですね。
おっしゃる通りです。あとは、スケジュールやカリキュラムをガチガチに設定して縛るよりも、参加者自身で考える時間に重点を置いたプログラムを組む方が良いのではないでしょうか。
他社の事例では、3日間ずっと人事担当者が主導するような、堅めのオンラインインターンシップもあると聞きました。業界や職種によって変わってくるところではありますが、そこまで枠を決めず、ある程度は参加者に任せながら進める「自走型」のプログラムも必要ではないかと思います。
<取材先>
船井総合研究所
タレントディベロップメントセンター チーフプロフェッショナル
山本翼さん
1992年神戸生まれ。2014年に京都大学総合人間学部を卒業後、株式会社船井総合研究所に新卒で入社。再生エネルギーのコンサルティング部門に配属され、2016年には自身が中心となり、電力自由化ビジネス参入に関する書籍を出版。2019年7月より、船井総合研究所自身の事業戦略を加速するために新設された「タレントディベロップメントセンター」に異動し、採用・育成・配置・評価などの戦略人事を担っている。
船井総合研究所/人材開発コンサルティング(HRD支援部) ホームページ
https://hrd.funaisoken.co.jp/
TEXT:村中貴士
EDITING:Indeed Japan + ノオト