従業員への投資教育が必須
――「企業型確定拠出年金」では、企業が拠出した掛金の運用を従業員自身が行う必要があると聞きました。
公的年金や退職金、受け取る金額をあらかじめ決めておく確定給付企業年金(DB)とは違い、企業型確定拠出年金(DC)では従業員自身の運用実績によって受け取れる金額が変わります。
企業は金融機関、証券会社、保険会社などによる「運営管理機関」と契約し、掛金の運用商品は運営管理機関が提供する商品ラインナップの中から加入者となる従業員が選びます。従業員はパソコンやスマートフォンなどから専用のWebサイトで運用状況を確認したり、商品を見直したりします。
――従業員の中には、投資が経験ない人もいるのではないでしょうか。
年金は従業員の将来に深く関わるものですから、確定拠出年金法で企業は加入者となる従業員に対して「投資教育」を実施することが求められています。まずは、この企業型確定拠出年金(DC)と従来の年金制度の違いをしっかりと社員に説明し、納得してもらう必要があります。
――具体的には、特にどんなことを従業員に伝えておくべきでしょうか。
企業型確定拠出年金(DC)は原則として60歳になるまで受け取ることができません。たとえ退職したとしても、60歳未満では積立金を受け取れないことも説明しましょう。転職後は、新しい職場の企業型確定拠出年金(DC)や個人型拠出年金(iDeCo)に移換して運用を続けることになります。
また、提供する運用商品についても詳しい説明が必要です。加入時に商品の特徴や資産運用の基礎的な知識を伝えることはもちろん、加入後も継続的に投資教育を行う必要があります。運用実績を見ながら、従業員のライフプランに合った計画となるよう、企業側がサポートすることが求められます。多くの企業では、投資教育についても運営管理機関に委託して行っています。
運用商品の内容も重要です。運用益が見込めそうな商品構成となっているか、手数料は高すぎないか等、運営管理機関が提示する商品のラインナップを企業側がチェックすることも必要です。
自社の状況に合わせた制度設計を
――運営管理機関に任せられることもあるとはいえ、社内の担当者には専門的な知識もある程度必要になるのですね。
投資教育や運営管理機関の評価など、企業が実施しなければならないことも多く、規模の小さい会社にとっては、企業型確定拠出年金(DC)の導入はハードルが高い面もあります。
そのため「iDeCo+(イデコプラス・中小企業主掛金納付制度)」という制度があります。これは従業員が300人以下の中小企業であれば、従業員が個人として掛金を出して運用する個人型確定拠出年金「iDeCo」に、企業が上乗せして掛金を拠出できる制度です。iDeCoに加入している従業員だけが対象ですが、運営管理機関との契約も必要なく、企業による投資教育も義務づけられていないので、中小企業にとっては企業型確定拠出年金よりも負担が少なく利用できる制度となっています。
iDeCo+では、加入者(従業員)の掛金と企業が上乗せする掛金を企業がとりまとめて納付します。また、iDeCo+を始める前には、労働組合又は労働者の過半数の同意が必要です。
――中小企業にとっても、導入を検討する必要がありそうです。
日本人の平均寿命は年々長くなり、少子高齢化が進む中、老後に備えて公的年金に加えて資産運用をする必要性が高まっています。企業にとっては財務リスクの軽減や、従業員への福利厚生の面から退職金や年金制度を見直すことが重要です。
退職金から企業型確定拠出年金へ移行する企業もあれば、給与の一部を「ライフプラン手当」として、企業型確定拠出年金の掛金とすることを従業員が選べる制度を取り入れている企業もあります。自社の状況や従業員の意向に合わせた制度を作っていきましょう。
※記事内で取り上げた法令は2021年9月時点のものです。
<取材先>
JPアクチュアリーコンサルティング株式会社 代表取締役 黒田 英樹さん
大和銀行にて年金制度設計や指定年金数理人業務を担当後、2000年プライスウォーターハウス・クーパースGHRSに移籍し年金コンサルティングを手掛ける。現在はJPアクチュアリーコンサルティングを設立し、様々な規模・業種の企業に退職給付制度改革コンサルティングや退職給付債務等の評価サービス等を提供している。
TEXT:石黒好美
EDITING:Indeed Japan + 笹田理恵 + ノオト