ウェルビーイングに企業が取り組むメリットとは? 導入のポイント

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「健康経営」の一歩先にある指標として、従業員の「ウェルビーイング」向上に取り組む企業があります。ウェルビーイングとはどのような概念であり、個人と企業にどのようなメリットをもたらしてくれるのでしょうか? そして従業員の幸福が、なぜ企業成長の鍵を握ることになるのでしょうか?
 
世界各国の持続可能性を評価する「新国富指標」の手法開発の代表を務める、九州大学工学研究院教授・馬奈木俊介さんに伺いました。

 
 

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ウェルビーイング(well-being)とは何か


WHO(世界保健機構)ではウェルビーイングを「肉体的、社会的、精神的に満たされている状態」と定義しています。これはウェルビーイング=「幸福」とほぼ同義と解釈できます。
 
しかし、「幸福」は明確に数値化しづらい概念です。一昔前は「稼ぎが多い人ほど幸福なはずだ」と考えられていましたが、現実には収入が一定額を超えると以降の幸福度は横ばいになります。
 
一方で、そうした金銭面だけに焦点をあてるのではなく「自然に囲まれている環境で暮らしている人は幸福度が高い」といった、その人を取り巻く状況が幸福に寄与するという「幸福学」の研究結果もあります。(※1)

 
 

企業がウェルビーイングを導入する背景


こうした調査結果から、従業員のウェルビーイング(幸福度)を高めることが組織の成長にも大きく貢献することが明らかになっています。それにより「幸せ度が高い状況を組織側でも用意しましょう」と考える企業も出てきました。
 
従来、企業の良し悪しは利益や売上を中心に判断されてきました。しかし、労働市場の流動性の高まりや人口減少、コロナ禍などの影響を受けて、近年はSDGsやESG投資のような「非財務指標」にも注目が集まっています。ウェルビーイングもそうした新しい指標の一つです。

 
 

従業員のストレスによる経済的損失の規模


ウェルビーイングが高いことは、言い換えればストレス値が少ないことを表します。
 
ストレスと年収の相関関係から導かれたデータによると、25歳の男性が定年までの約40年間をストレス値の低い状態で働けた場合、その会社にとって6000万円の売上が出る、という分析結果が出ました(※2)。
 
逆に、ストレス値が高い職場では、一人の社員あたり100~150万円の損失を出している計算になります。一人ひとりの従業員が高いストレスを抱え、心身ともに不調な状態が続くことは仕事の効率を下げます。それはストレス度が高まって不安や抑うつ感、活気のなさが生じると会社を休む人も増えるからです。つまり、従業員のウェルビーイングの低下は、企業に大きな損失を与えることが明らかになっています。
 
企業が従業員のストレス値を減らし、ウェルビーイングの高い状態を目指すための環境づくりに取り組むことは、人事や経営者にとって重要な課題といえるでしょう。

 
 

ウェルビーイング経営を導入するには

 
 

◆義務でなくても「ストレスチェック」を実施する


ウェルビーイングの職場環境をつくるにあたって、まずは企業向けに提供されている職場における「ストレスチェック(検査)」の実施から始めることが望ましいです。
 
従業員が50人以上の事業場では年に1回、全従業員にストレスチェックを実施することが義務付けられていますが、それ以下の規模の企業では実施されていないところもあります。ストレスチェックの結果を分析すると、自社における働き方のどこをどう改善していくべきか、どうすればモチベーションを向上できるか、といった課題が浮かび上がってきます。
 
たとえばIT企業であれば、「誰が、どれくらいPCの前にいるのか」といったデータの分析も比較的容易にできるはずです。

 
 

◆環境改善のために変えるべきところを把握する


データが収集しづらい事業形態の企業であれば、まずは「社員のウェルビーイングを向上させることが企業のプラスになる」という意識の共有からスタートしましょう。その前提に立った上で、「では、どこからならば働き方を変えていけるか」を探します。
 
具体的には、次のようなポイントからチェックしていくとよいでしょう。まずは以下のような観点から3つ選んで取り組むなど、できることから始めていきます。

 

  • 働きやすい環境づくり(残業時間の削減、勤務形態の見直し)
  • 社内のコミュニケーションは円滑に取れているか
  • ハラスメントが起きやすい環境になっていないか
  • 評価制度は適切か
  • ストレス値がかかりやすい部署や担当者の負担をどう軽減できるか
  • カウンセリング機会の提供や休暇制度など福利厚生の充実

 
 

一人ひとりがウェルビーイングを「自分ごと化」する


ウェルビーイングな企業を目指す指標として、大企業であれば「健康経営優良法人」の取得を目指すのも一つの方法でしょう。一方で、ウェルビーイング経営という看板を掲げておきながら、たんなる対外的なパフォーマンスで終わっている企業もあります。
 
極端な例を挙げると、社長がウェルビーイング向上のために全社員に毎朝、体調報告を義務付けたとしましょう。こうしたやり方では、むしろウェルビーイング度は低下します。ウェルビーイング経営はトップが社員に義務化するのではなく、社員一人ひとりが「自分ごと化」しなければ、本当の意味でのパフォーマンス向上に至らないからです。
 
中小企業の場合、大企業のウェルビーイングの取り組み事例をそのまま導入する必要はありません。まずは自社の強みと弱みを自覚した上で、達成レベルを設定し、それをクリアしていくことを目標としましょう。
 
小さな取り組みでも積み重なっていけば、従業員のウェルビーイング向上につながります。従業員一人ひとりが主体性を持ち、意見交換を繰り返しながら、パフォーマンスを最大化できる仕組みを考えることで、離職率の低下や売上の上昇など、さまざまなメリットが期待できるでしょう。


※1 幸福度指標を用いた自然資本の金銭的価値評価(2013)
http://www.env.go.jp/policy/keizai_portal/F_research/3Report_2.pdf
 
※2 「職場とココロのいきいき調査®」ピースマインド株式会社と九州大学・馬奈木俊介教授による協働調査(2020)
https://www.peacemind.co.jp/newsrelease/archives/261

 
 
 

<取材先>
馬奈木俊介さん
九州大学主幹教授/九州大学都市研究センター長、総長補佐。米国ロードアイランド大学大学院博士卒。米国サウスカロライナ州立大学、東北大学等を経て、2015年より九州大学教授。14年より国連・SDGs(持続可能な開発)の評価指標である国連「新国富報告書」代表、数多くの国連報告書の統括代表執筆者を兼任。最新の著書は『幸福の測定 ウェルビーイングを理解する』(共著)。
 
TEXT:阿部花恵
EDITING:Indeed Japan + 南澤悠佳 + ノオト

 
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