リモートでも出社でも要注意? 社員のメンタルヘルスを守るには


新型コロナウイルス感染症の感染拡大により行動が制限され、これまでの日常が大きく変わった2020年。多くの労働者にとっては生活様式だけでなく、働き方にも変化が起こりました。今回の事態を契機に、リモートワークを取り入れた企業は少なくないでしょう。
 
余儀なくされた労働環境の変化はストレス要因となり、社員のメンタルヘルスの不調につながる心配があります。マネジメント層や採用人事の担当者は、どんなことに気をつけるべきでしょうか。
 
今回は、社員のメンタルヘルスについて、知っておくべき基礎と注意すべきポイントを専門家にお聞きしました。お話いただいたのは、企業向けに従業員のメンタルヘルス相談事業などを行うティーペック株式会社こころのサポート部部長・公認心理師/臨床心理士の安田陽子さんです。

 
 

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変化に適応しようと心のエネルギーを使うことが疲弊の原因になる


――コロナ禍以前と現在では、心理相談の内容にどのような変化がありましたか?
 
電話による心理相談では、職場の対人関係によるストレスや心身の不調に関する相談が多くあります。
 
そうした相談に加えて、コロナ禍では3密回避を求められることで働き方や生活が急激に変化し、どう対応すればいいのかと戸惑う声が多く寄せられています。また「他の人の咳が気になる」「同僚との衛生観念の違いが心配」といった感染にまつわる不安を訴える相談や、リモートワークに関する相談も増えました。
 
首都圏の緊急事態宣言が解除されて1カ月程経った7月は、過去最も多い相談件数を記録しました。8月はお盆がありいったん落ち着きを見せたものの、前年比で約2割増の相談がある状況が続いています。
 
――今回のコロナ禍で、初めてリモートワークを経験したという人は多いと思います。具体的にどのような相談事例がありますか?
 
コミュニケーションの変化がストレス要因になっている事例です。たとえば、リモートワークはメールやチャットなど、文字情報のコミュニケーションが中心になります。対面だと受け取れるちょっとした表情の変化や会話のニュアンスが、文字だけだと汲み取りにくい。細かいすれ違いから誤解が生まれ、それがミスにつながり自信を失ったり自分を責めてしまったりするという相談がありました。
 
「出社していた頃はメンバーとのコミュニケーションが嫌で悩んでいたのに、今は誰とも接しないことの方がつらい」と孤独感を訴える相談もあります。
 
――同じ空間でのコミュニケーションに対人関係のストレスを感じていた人が、リモートでのコミュニケーション減によってもストレスを感じることがあるのですね。
 
ストレスというと嫌なことやつらいことを思い浮かべるかもしれませんが、実は変化そのものがストレスの要因になります。変化に適応しようと心のエネルギーを使うことで疲弊して、メンタルヘルスの不調につながることがあるのです。
 
――メンタルヘルスを崩しやすい人の性格や生活の傾向はありますか?
 
「こういう人だとメンタルヘルスが悪化しやすい」といった傾向は、一概には言えません。企業が実施するストレスチェックの基になっている「職業性ストレスモデル」の考えでは、複合的な要因がストレス反応となり、メンタルヘルスの不調・疾病につながるとされています。たとえば、年齢や性別、結婚生活の状況などの個人的要因、業務負担の量や裁量度といった仕事環境の要因、上司や同僚、家族、友人からのサポートがあるかどうかという緩衝要因などが挙げられます。
 
新型コロナウイルス感染症の感染拡大は、個人ではいかんともしがたく制御するのが難しい問題です。長期化するコロナ禍で常にストレスにさらされ、誰もがメンタルヘルス不調のリスクが高まっています。通常より負荷が高い状態であると理解することが重要です。
 
――社会全体が大きな変化にさらされている今、誰にでもメンタルヘルスの悪化は起こりうるということですね。
 
そうですね、コロナの影響が長期化して、多くの人が疲弊している印象です。最初に不安を感じ、それがイライラや怒りに転じ、疲弊し、結果抑うつ的になるという進行パターンがあります。
 
今年は誰もがベースとしてコロナ禍のストレスを感じており、そこへ個々人の事情が加わって高リスクな状態です。8月頃からは、死を口にする深刻な相談が前年比150~170%と増加しています。

 
 

リモートワーク社員には雑談時間をつくり孤独感の軽減とメリハリを


――リモートワーク社員のメンタルヘルスを守るためには、どんなポイントに気をつければいいですか?
 
社員の生活リズムの乱れと孤独感への対応は、気を付けたいポイントです。リモートワークに関する相談では、先の事例のように「コミュニケーション不足からミスが増え自信を失った」というものや、「以前は同僚とのちょっとした雑談が気分転換になっていたのに、それが無くなったことで気持ちの切り替えが難しい」、「通勤がなくなり、オンとオフの境界が曖昧で生活リズムのメリハリがない」といった相談が寄せられています。
 
話しかけられたり電話を取ったりする機会が減るので、集中し過ぎて労働時間が長引きがちな人もいるでしょう。仕事のやり過ぎや、切り替えが難しく仕事を引きずってしまう心配があります。
 
――リモートワークのストレス軽減に有効な方法を教えてください。
 
ストレッチや適度なウォーキングなど昼間や仕事後に軽い運動をすると、夜の入眠がスムーズになります。それぞれの生活の中で可能な解消方法を検討しましょう。
 
人事労務の担当者からは運動を呼びかけたり、良質な睡眠の取り方について情報提供したりといった能動的な声かけが有効です。
 
またオンライン会議はどうしても仕事の話題だけになりがちなので、前後に雑談する時間を設けるのはどうでしょうか。始業時と終業時に簡単な連絡会をして、定期的なコミュニケーションの機会をつくるのもよいでしょう。

 
 

出社する社員には社内ルールをつくり感染リスクの不安と業務負荷を軽減


――一方で、出社する社員のメンタルヘルスを守るためには、どんなポイントに気をつければいいですか?
 
出社している方からは、感染予防に対する自分と周囲との意識の違いがストレスだという相談が多いです。たとえば、狭い部屋での会議は密になるのではという不安や、遠方への出張命令に対する疑問、他の社員のマスクのつけ方への怒りなどを相談事例として聞いています。企業側としては「社員同士の感染予防意識の違いはストレスになりやすい」との認識が必要です。
 
また、出社人数が減ることで業務量や引継ぎが増えて特定社員への負担が高まり、上司や組織へ不満を感じるという相談もありました。 リモートワーク社員との連携にあたって、これまで以上に工数がかかって、出社社員側ばかりが仕事の環境変化を余儀なくされてストレスになる事例も見られます。
 
マネジメント層や人事労務の担当者は、社員へこまめに声かけしながらどんな支援を求めているか聞き取り、環境面や社内ルールにおける職場のストレス要因を出来る限り減らすことが大事です。ストレスが大きくなる前にサポートするのが望ましいですね。

 
 

メンタルヘルスケアは早めの対応が大切


――リモートワークと出社勤務、それぞれの立場でストレス要因があることが分かりました。対策をとっても調子を崩してしまうことは考えられます。現在、相談者は具体的にどのような症状を感じて相談に至っているのでしょうか?
 
よく眠れない、食欲がないといった体の症状を感じて自発的に相談する人から、自覚症状はないが会社から働きかけがあったので相談したという人まで、ケースバイケースです。
 
人事労務からの社内周知によって相談窓口の存在を知る人は少なくないので、メンタルヘルスケアに関する情報を意識的に社員へ届けることは大切でしょう。
 
――企業側として、社員には「どのような状態になったら相談してほしい」と伝えるのがいいでしょうか。見極めのラインはありますか?
 
体調と同じく、メンタルヘルスも早めのケアが大事です。「自分はわりと健康では?」という認識だったとしても、定期的なメンタルチェックという感覚で気軽に相談してもらう方がいいですね。社員に「まだ相談する状態じゃない」などと思わせずに、気になることは話してもらって心の健康を維持していく。それが一番の予防になります。

 
 
 

<取材先>
ティーペック株式会社 こころのサポート部 部長心理カウンセラー(公認心理師/臨床心理士)安田陽子さん

https://www.t-pec.co.jp/
 
TEXT:合戸 奈央
EDITING:Indeed Japan + ノオト

 

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