第4回 株式会社iCARE 岡田あさ子さん
担当業務:人事労務・総務、各事業部が行う採用活動のサポート(労働条件チェック、内定~入社までのフォローなど)
業務歴:3年目(同社初の人事労務専任として2019年に入社)
給与計算・勤怠管理といったルーチンの人事労務ワークから、規定作成・労務相談・セキュリティ対応・システム導入・オフィス移転といったイレギュラーワークに至るまで、多岐に渡り担当。部署や担当業務を超えて色々なことにチャレンジできる環境に面白さを感じる。
「多様なバックグランドや事情を持つ人が安心して働き、能力を発揮できるようにサポートしたい」という思いが採用人事の業務を行う原動力になっている。センシティブな事案も多く悩みながら対応するなか、取り組みに対して社員から寄せられるフィードバックに大きなやりがいを感じている。
採用人事の担当者におすすめしたい3冊は?
◆『LGBTとハラスメント』
(神谷悠一、松岡宗嗣著/集英社)
2019年に成立した「改正労働施策総合推進法(通称:パワハラ防止法)」をきっかけに、ビジネス層をターゲットに企画された新書です。
セクシャルマイノリティの基礎知識の解説に始まり、「『うちの職場にはLGBTはいない』と思い込む」「『私は気にしない』が『差別しない』だと思ってしまう」「とりあえず女装すれば飲み会が盛り上がると思う」など、「よくある勘違い」を22のパターンに分け、実例とその問題点が分かりやすく紹介されています。また、企業における人事労務面での課題についても、実際の事例を多く交えて提示しています。
本書を読むと、セクシャルマイノリティの当事者であるか否かにかかわらず、ハラスメントの観点では誰もが加害者・被害者になり得ることが理解できます。他人事ではなく、自分たちの共通課題であると分かる一冊です。
当該分野には人事担当者として以前から関心を持っていたものの、初めて知ることや改めて考えさせられることが多く、一社会人として、また企業人事として「自分にできることがある」と思えた良書です。
ダイバーシティとは、目指すべき美しい理想ではなく、現在進行形でさまざまな人が生きている現実を可視化する考え方です。本書で紹介されるような「よくある勘違い」が起きる現実をただ悲観するのではなく、私たち自身が考えて行動することで変えることができると、本書を読んで前向きになれました。
◆『無事、これ名馬』
(宇江佐真理著/新潮社)
臆病で泣き虫な武家の少年・太郎左衛門(たろちゃん)が「頭、拙者を男にしてください」と、江戸の町火消しの頭・吉蔵に弟子入り志願したことに始まる時代小説です。テレビドラマ化された『髪結い伊三次シリーズ』など、多くの作品を生み出した時代小説作家・宇江佐真理さんの著作です。
私は大学・大学院で日本近世史(江戸時代)を専攻し、その後は博物館、地方自治体史編纂に在籍していました。足かけ10年に渡る経歴から、歴史小説や時代劇が好きだと思われがちなのですが、実はそういうわけでもなく……。そんな私ですが、本書をきっかけに宇江佐真理さんの作品はほぼすべて読むほどはまりました。特におすすめしたい一冊です。
吉蔵一家を中心にした市井の人々の日常と、どうにもならない人生模様が生き生きした文章で丁寧につむがれている、なんでもない日常が愛おしくて、少し切ない物語です。弟妹に「好きよ、たろちゃん」とほっぺに“ぷう”をしてもらうたろちゃんの愛らしさにノックアウトされつつ、周囲の大人たちの事情を描いたエピソードに心が揺さぶられます。
物語終盤に登場する太郎左衛門の父親の「倅は拙者にとってかけがえのない名馬でござる」というセリフが特に印象的。「何者かにならなければならない」、「何事かを成し遂げなければならない」という今の風潮やプレッシャーに疲れてしまうことがある人に、「無事、これ名馬」と伝えたいです。
◆『ストレングス・リーダーシップ―さあ、リーダーの才能に目覚めよう』
(トム・ラス、バリー・コンチー著/田口俊樹、加藤万里子訳/日本経済新聞出版)
自分の強みを活かしたリーダーシップの実践方法を伝授する本です。無意識に繰り返し行われる思考、行動、感情のパターンから34の資質を分類。ウェブテスト「ストレングス・ファインダー」の100を超える質問に答えてTOP5の資質を導き出し、自分の特徴的な資質を「強み/ストレングス」として自覚し、リーダーシップにどう活かすかを見出します。
マネージャー研修の一環としてストレングス・ファインダーを受けた際、自分が該当する資質以外についても詳しく知りたいと思い、本書を手に取りました。
「あなたは○○タイプ」という性格診断や自己分析などは、決まった型にはめこむようであまり得意ではなかったのですが、ストレングス・ファインダーは納得感があります。自分の資質を知ることで、なぜ自分が性格診断を苦手としていたのかも分かりました。ストレングス・ファインダーの解説書という性格が強いものの、色々と示唆に富んだ一冊です。
なかでも興味深かったのは「フォロワーの4つの基本的欲求」です。各界リーダーの資質や行動などに基づくリーダーシップ論もさることながら、スタッフやメンバーであるフォロワーがリーダーや企業に何を求めているかを調査した結果に、一スタッフとして、また人事担当としておおいに納得しました。
本書を読み、「自分のあたりまえは、他の人のあたりまえではない」ことに気づきました。強みとそれによる注意点を折に触れては読み返しています。
【現役の人事労務担当に聞く】自社の取り組み紹介と読者へのメッセージ
◆自社のミッションや企業文化を社員に理解してもらうには?
株式会社iCAREでは、『働くひとと組織の健康を創る』をパーパス(存在意義)として掲げています。このパーパスを実現するためには、新入社員にも当社への理解を深めてもらう必要があります。
具体的な施策として、社員が意識すべきアクションを「Value」、信条を「Credo」として策定。パーパス・Value・Credoを説明した小冊子を採用時にご覧いただき、入社前からカルチャーの理解を促しています。
このほか、社員に対しては、下記のような取り組みを行っています。
・社員間のエピソードトーク
週次の全体定例会で、指名された人が他メンバーについてのエピソードを語る「Credo自慢」という時間を設けています。
・社内のポイント制度
社内エンジニアが開発したSlackアプリ「GJ Carely」を活用しています。ちょっとよいできごとやお礼などを相手の名前に追加して入力すると、GJポイントが送られるんです。全体定例会で送った人、送られた人を発表しています。
・イベントの開催
社員がCxO(※1)に自由に質問できるイベント「CxO Open Hour」を隔週で開催しています。Credoやカルチャーに関する質問が多く出て、毎回おおいに盛り上がります。
※1 CEO(最高経営責任者)やCFO(最高財務責任者)など執行責任のある役職者の総称
・表彰制度
Credoやカルチャーに関連した賞を多数設けて、半期に一度表彰します。
◆人事労務の難しさとやりがいは?
人事担当者として、制度の理由や施策の背景も含めた丁寧な説明を心がけていますが、必ずしも毎回うまくいくわけではありませんね。また、社員にはそれぞれのスタンスがあるだけに、伝えたことが本来の意図とは異なった解釈や真逆の内容で理解されることもあります。自分の至らなさを痛感して悩みは尽きません。
一方で、すべての社員に関わりサポートできるのも、人事労務ならではの特徴です。社員が能力を発揮できるよう環境を整える仕事に、とてもやりがいを感じています。
今回ご紹介した本を自分でも読み返しながら、これからも人事労務担当として知識や思いを深めていきたいです。
TEXT:合戸 奈央
EDITING:Indeed Japan +ノオト