企業型DCとは
「企業型DC(企業型確定拠出年金)」とは、企業年金制度の一つです。企業が毎月「事業主掛金(企業負担)」を積み立てて、労働者(加入者)自らが年金資産の運用を行います。
 
導入した場合は原則として全労働者が加入対象になります。給付額は運用次第で変化し、労働者が運用に失敗した場合に企業が補填する必要はありません。導入するには、労使合意の年金規約を企業が作成し、厚生労働大臣の承認を受ける必要があります。
選択制DCとは
「選択制DC(選択制企業型確定拠出年金)」とは、企業型DCの一種です。給与の一部を「前払い退職金手当」や「ライフプラン手当」(名称は自由)などに置き換えて再設計し、手当分の全額もしくは一部を事業主掛金として企業型DCに拠出します。労働者は将来的に年金として受け取るか、拠出せずに毎月の手当として給与で受け取るかを選べます。
マッチング拠出とは
「マッチング拠出」も企業型DCの一種です。労働者(加入者)が任意で企業型DCに掛金を上乗せできる、法令に基づく制度です。企業はマッチング拠出を希望する労働者の給与から「加入者掛金」を控除(天引き)し、事業主掛金との合計額を企業型DCに拠出します。
 
法律上、加入者掛金額には次の2つの制限があります。
 
1.事業主掛金との合計額が5万5,000円以下
例)事業主掛金が3万円の場合、加入者掛金は2万5,000円以下
(事業主掛金が5万5,000円以上の場合、マッチング拠出はできない)
 
2.事業主掛金と同額以下
例)事業主掛金が1万円の場合、加入者掛金は1万円以下
マッチング拠出と選択制DCの違い
マッチング拠出と選択制DCの主な違いは次の3点です。
- 企業型DCへの拠出の有無
 - 給与設計の変更の有無
 - 企業の税制優遇の有無
 
選択制DCの場合、企業型DCに拠出するか否かを労働者自身が選択できます。労働者が拠出を選択すると給与額が減ります。その結果、労働者の社会保険料や所得税、住民税の削減効果がある反面、厚生年金など社会保険制度からの給付が減ることになります。企業にとっては社会保険料を軽減できるメリットがあります。
 
マッチング拠出の場合、労働者は企業型DCへの拠出の有無は選べませんが、すでに企業が拠出している事業主掛金に加入者掛金を上乗せするかどうかを選択できます。加入者掛金は給与から天引きされますが、給与額には変更がないため厚生年金の給付額や傷病手当金、基本手当などへの影響はありません。
 
また、加入者掛金は全額所得控除の対象となるため、労働者にとっては所得税と住民税が軽減します。一方、企業に税制優遇はありません。
マッチング拠出のメリット・デメリット
マッチング拠出を導入した場合の企業側のメリット・デメリット、労働者側のメリット・デメリットは以下の通りです。
◆企業のメリット
- 掛金は加入者が負担するため、企業に資金負担がない
 - コストをかけずに福利厚生の充実がはかれる
 - 労働者の選択肢が増えることで定着率アップが期待できる
 
◆企業のデメリット
- 管理コストがかかる
 - 受託者責任(投資教育)をより積極的に行う必要がある
 
◆労働者のメリット
- 定年退職後の資産形成がはかれる
 - 加入者掛金は全額所得控除の対象となるため所得税、住民税が軽減できる
 - 運用利益は非課税
 
◆労働者のデメリット
- 拠出額に上限がある(事業主掛金が少額の場合、加入者掛金の拠出も少額)
 - 年1回しか拠出額の変更ができない
 - 60歳まで受給できない
 
導入検討の比較ポイント
どの制度にもメリットとデメリットがあります。また、企業にとってのメリット・デメリットと労働者にとってのメリット・デメリットも異なります。企業が継続できる制度であることが大前提ではありますが、労働者の利益も重視することが大切です。その上で、次の部分を考慮しましょう。
◆比較ポイント
- 運営の煩雑さ
 - 運用失敗による企業責任の有無
 - 労働者の資産の保全と持ち運びの有無
 
マッチング拠出導入の注意点
加入者掛金は事業主掛金の額と同じ金額までしか拠出できないため、マッチング拠出は労働者によって拠出できる金額に差が出る制度です。たとえば、企業が勤続年数によって事業主掛金を設定している場合、必然的に勤続年数が少ない労働者の加入者掛金は低くなります。たとえ労働者が加入者掛金を増やしたいと思っても、法律上のルールなので事業主掛金以上に上乗せすることはできません。労働者から不満が出ないよう、マッチング拠出の仕組みをきちんと説明しましょう。
 
また、選択制DCとは異なり、労働者の給与額に変更はないので、企業、労働者ともに社会保険料の削減という副次効果はありません。そのため、福利厚生として導入しても制度運営が積極的に機能せず、利用率が高まらない可能性もあります。そういう意味でも、労働者への説明を積極的に行う必要があるでしょう。
 
 
 
※記事内で取り上げた法令は2021年10月時点のものです。
 
<取材先>
ブレイン社会保険労務士法人 代表 北村庄吾さん
 
TEXT:塚本佳子
EDITING:Indeed Japan + 南澤悠佳 + ノオト




