応募意欲にも影響? 採用プロセスをオンライン化するメリット・デメリット
――新型コロナウイルス感染症の影響により、採用事情が日々変化しているようです。最新の採用トレンドについて教えてください。
「大手企業が新卒採用を中止する」といった報道が増え、コロナ以前の売り手市場から買い手市場へ移行しつつあります。求職者もそれに気づき始めているところではないでしょうか。そのため求職者は、応募する企業の選択肢を広げる傾向が強くなっていくと思われます。
大手企業の採用減が拡大すれば、そのぶん中小企業への応募者が増え、採用チャンスが広がるでしょう。
――中小企業の採用担当者にとっては、むしろ追い風とも捉えられるわけですね。では、どのような人材が求められているのでしょうか?
DX(デジタルトランスフォーメーション)が広がりつつあり、プログミングやAIなどの知識がある“デジタル人材”の人気が上がっています。あとは即戦力ですね。中途採用であれば、専門職的なスキルや資格を持った経験者を募集する「ジョブ型雇用」、新卒採用であれば長期インターンの経験がある学生など、即戦力重視の傾向は強まっています。
――DX化にともなって、採用活動もオンラインへと移行しつつあるようです。オンライン採用のメリット・デメリットとは?
最も大きなメリットは、遠方の応募者との接点を持ちやすいことです。距離の制約なく選考を進められますし、接触頻度を増やすことで求職者の企業に対する熱意を維持できます。また面接の工数削減は、人事担当者にとってうれしいポイントでしょう。自宅からリモートで面接できるため、日程調整がしやすくなりました。
一方で、応募者からは「webの説明会やオンライン面接だと、会社の雰囲気が分かりにくい」「相手の声や表情を確認しづらい」といった声が挙がっています。そこは改善していかなければなりません。
早送りできない動画は苦痛? 会社説明会や面接をオンライン化する際の注意点
――採用活動のオンライン化が必須とはいえ、何から始めればいいのか戸惑っている人事担当者は少なくありません。どのような手順で進めればよいのでしょうか?
オンライン化の手順は、次の3ステップです。
- 紙で収集・管理していた書類(エントリーシートや採用テストなど)をwebに移行
- 個別面談(人事面談)をwebに移行
- 集団面接(採用面接)をwebに移行
一番簡単なのは、今まで紙で収集していたエントリーシートや採用テストをwebに切り替えることでしょう。オンライン化すれば、紙の管理コストが下げられます。
次に、対面で行っていた人事面談をwebに切り替えます。応募者から相談があれば、随時オンライン面談を実施して答えていきましょう。
最後に、集団面接をwebへ移行します。ただし、参加人数が増えると「うまく繋がらない」「操作できない」といったトラブルが発生するかもしれません。すばやく対応するためには、人事担当者自身がオンラインの操作に慣れていく必要があるでしょう。
その他、自社の採用サイトの見直しや、会社説明会のオンライン化も検討事項として挙げられます。
――自社の採用サイトは、どのように修正すればよいのでしょうか?
採用サイトに載せるコンテンツは、自社のミッション・ビジョンはもちろん、「どんな社員が働いているか」、「競合他社と何が違うか」など、リアルな情報をどんどん伝えていくことが重要です。
いわゆる企業口コミサイトには、自社を退職した人によるネガティブな評価が書かれている可能性があります。それにより、求職者が間違った情報を受け取ってしまうリスクがあるのです。ネガティブな情報を打ち消すためには、いま働いている社員のリアルな姿を積極的に伝えていかなければなりません。
――2020年は、会社説明会をリアルからオンラインに切り替えた企業が多かったようです。この傾向は2021年も続くのでしょうか?
新型コロナウイルスの状況にもよりますが、このままいけばオンラインで実施する企業が増えることは間違いありません。ただし、リアルで実施していた会社説明会をそのままオンラインに移行するのは避けてください。一方的に話を聞くだけの動画を1~2時間見続けるのは、応募者にとって苦痛でしょう。
おすすめの形式は、質疑応答の時間を設けた参加型のライブ配信です。社長の話は15分程度で切り上げるなど、なるべく一方通行の時間を減らしてください。随時質問に答えるなど、いかに視聴者を巻き込んでいけるかがオンライン会社説明会のポイントです。
若い人ほどYouTubeや動画アプリに慣れ親しんでいるので、動画配信の制作は思い切って20代の若手社員に任せたほうがいいかもしれません。
――従来の会社説明会をそのまま動画にするだけでは不十分ということですね。では、オンライン面接についてはいかがでしょうか?
一般的にZoomが浸透しており、応募者側も使い慣れている人が多いので、オンライン面接はZoomで問題ないでしょう。ただし、注意しなければならない点が1つあります。それは、アイスブレイクを入念にすることです。
とくに新卒採用の場合、学生はフォーマルな場で話す経験が少ないため、かなり緊張してしまいます。人によっては照明の当たり方を工夫しておらず、表情が暗く見えてしまうかもしれません。まず応募者が得意なことから話してもらい、場が温まったところで本題に入りましょう。面接をする人事部長や役員にも、その点を申し送りしておく必要があります。
――新卒と中途で、採用プロセスを変える必要はありますか?
オンライン面接の手法自体は大きく変える必要はなく、どちらの場合も導入を進めるべきでしょう。ただ中途採用の場合は、本格的な面接の前に、人事との軽い面談や少人数の座談会など、ミニイベントを高頻度に作ることが必要です。
たとえば金融機関の経験者を募集したい場合、「同じような金融経験のある社員とオンラインで話してもらう」「社員インタビューを実施し、採用ページに載せる」といった施策が有効でしょう。前職のスキルがどう生かされるのか、具体的にどんな業務をするのか等、情報を積極的に発信すれば、転職希望者へのアピールとなります。
身近なところからオンライン化を 人事担当者に求められる姿勢やマインド
――今後、人事担当者はどのような姿勢が求められるでしょうか?
人事だけではなく、他の社員に「リクルーター」として手伝ってもらう努力が必要です。応募者の質問に対して的確に答えられる優秀な社員をピックアップして、面談の担当をお願いしてみましょう。オンラインであれば、日程調整もそれほど難しくないはずです。
面談の実施後は、必ずリクルーター役の社員に感謝の意を伝えましょう。その後も、応募者の入社確度はどの程度か等、状況のフィードバックを随時行ってください。リクルーター役の社員に「会社の役に立っているな」という感覚を持ってもらうことが大切です。
応募者からは、「いま働いている社員のリアルな話が聞きたい」という要望をよく耳にします。もはや、人事担当者の話だけで入社を決める時代ではありません。
――会社全体を巻き込んで採用活動を行う必要があるのですね。
人事の原則は、会社の需要に合わせた採用・育成をすることです。会社が3年後、5年後にどういう姿を目指しているのか、きちんと理解した上で採用を進めなければなりません。
また、会社の中で最もデジタル化、オンライン化しないといけないのが採用活動だと考えています。なぜなら、今いる社員よりも今後入社する若い人たちの方が、デジタルのリテラシーが高い傾向があるからです。
ミーティングや社内イベントなど、身近なところからオンライン化し慣れていくことが、人事のスタンスとして求められるのではないでしょうか。
<取材先>
Profile
山本翼さん
船井総合研究所
タレントディベロップメントセンター チーフプロフェッショナル
1992年神戸生まれ。2014年に京都大学総合人間学部を卒業後、株式会社船井総合研究所に新卒で入社。再生エネルギーのコンサルティング部門に配属され、2016年には自身が中心となり、電力自由化ビジネス参入に関する書籍を出版。2019年7月より、船井総合研究所自身の事業戦略を加速するために新設された「タレントディベロップメントセンター」に異動し、採用・育成・配置・評価などの戦略人事を担っている。
船井総合研究所/人材開発コンサルティング(HRD支援部) ホームページ
https://hrd.funaisoken.co.jp/
TEXT:村中貴士
EDITING:Indeed Japan + ノオト